シャープは、中国の澳柯瑪集團(AUCMA)と、コールドチェーン関連製品の開発協力および生物サンプルなどの超低温保管システムに関して協業すると発表した。2019年3月25日に、AUCMAの李蔚董事長が大阪府堺市のシャープ本社を訪問。シャープの戴正呉会長兼社長などが出迎え、覚書の調印式を行った。
BtoBを発端に、将来的には白物家電も見据える?
AUCMAは、中国山東省青島市に本社を持つ企業で、冷蔵庫や洗濯機などの白物家電、小売店舗に導入されている冷凍ショーケースなどのコールドチェーン関連製品、電動バイク、自動販売機などの開発、製造で実績を持つ。
1987年に設立し、2000年12月には上海証券取引所に上場。従業員数は約8,000人規模の中堅企業だ。
今回の提携は、コールドチェーン関連製品での協業が中心となり、BtoB領域での展開を強化するものになる。
シャープでは、「AUCMAは、コールドチェーン技術、設備における有力企業であり、また超低温の貯蔵分野においても世界有数の技術力を保有している。冷凍冷蔵庫や低温物流などにおける協業関係を構築することで、事業のさらなる拡大を図るとともに、今後も各国の政府機関や有力な企業との連携を進める」としている。
両社とも白物家電事業を有していることから、将来的には、生産や品揃え、販売といった点で、白物家電事業における協業も考えられそうだ。実際、シャープのコメントでも触れられているように、冷凍冷蔵庫に関する協業を視野に入れていることに言及している。
だが、提携内容そのものは、シャープにとっては、コールドチェーンや超低温保管システムという新たな事業への参入という側面が強い。
既存事業との関連が薄い協業の理由は?
コールドチェーン業界を見ると、日本では、パナソニックやホシザキ、ダイキンなどが先行しており、産地から物流、小売、家庭までをつないで、鮮度の高い食材を届ける環境を実現している。
個別の冷凍製品で展開するよりも、コールドチェーン全体でのソリューション提案を行える企業の方が高い優位性を持つだけに、その点、シャープが今回の協業をきっかけに参入したとしても、コールドチェーン全体を網羅するには、品ぞろえの面からも、まだ時間がかかることになる。
また、超低温保管システムにおいては、医療分野での提案が対象と見られるが、シャープには、この分野での実績が少ない。
シャープには、ビジネスソリューションと呼ぶ、BtoB事業を行う領域がある。複合機や電子黒板、テレビ会議システムといった「スマートオフィス」ソリューション、マルチディスプレイやインフォメーションディスプレイなどの「スマートサイネージ」ソリューション、POSシステムやハンディターミナルなどの「スマートリテール」ソリューションを展開している。
だが、どれも、今回協業するコールドチェーンや超低温保管システムとの親和性はあまりないものばかりだ。
ほかにもシャープでは、事業ビジョンとして、「8KとAIoTで世界を変える」と掲げているが、やはり、コールドチェーンや超低温保管システムと、この事業ビジョンとの関連性は低い。
つまり、今回の協業の狙いは、既存事業との関連性という点では、不透明な部分が多いと言わざるを得ない。
官民あげて大々的に実施された調印式の意味
だが、シャープとAUCMAの両社がこの協業にかける意気込みは、並々ならぬものがある。
3月25日にシャープ本社で行われた覚書への調印式には、中国側からはAUCMAの関係者のほか、中国山東省、煙台市、青島市の政府高官など、約40人の訪問団が訪れた。
まさに官民をあげて、この契約を重視していることがわかる。
シャープの会長兼社長の戴正呉は、「山東省の龔正(きょうせい)省長とは鴻海で事業を担当していた頃からの縁があり、大変懐かしく思う。シャープはグローバルに投資を推進しており、これを機に、さらにパートナーシップを発展させていきたい」と語った。
そして山東省の龔正省長は、「山東省を重要パートナーとして捉えてもらったことに感謝する。山東省は急速に経済発展を遂げるなか、とくに、AIなどの次世代情報産業に注力している。シャープの今後の成長を全力でバックアップしていく」と語っている。
訪問団のなかには、煙台市の陳飛市長、青島市の薛慶國副市長らも参加していた。
シャープの既存事業との関連性が薄いにもかかわらず、調印式にこれだけの力が入っていることを見ると、どうしても今後の広がりが気になる。
いわば、囲碁で言えば、「飛び石」ともいえる手の打ち方にも見える。
シャープの事業構造にまで影響が及ぶ可能性も
直接的には、コールドチェーンや超低温保管システムといったシャープにとっての新規事業を、日本およびアジアでどう広げていくのかが焦点だ。
しかし、今回の協業をきっかけに考えなければならないのは、シャープが中国政府との関係をどう強化していくのか、両社が取り組んでいる白物家電事業において、どんな連携をするのか、8KとAIoTとどう結びつけていくのかだ。そして、シャープは2017年度実績で13.6%に留まっているスマートビジネスソリューションにおけるBtoB事業の成長戦略を、どう描こうとしているのか。
今回の協業をきっかけにして、様々な憶測が成り立つ。中長期でみれば、ここから発展して、シャープの事業構造に変化を及ぼす可能性もある。
この「飛び石」の一手が、シャープの事業にどう広がっていくのかを注視しておきたい。