NTT東日本グループは、2023年1月24~26日の3日間、「NTT東日本グループSolution Forum2023」を開催した。

  • NTT東日本のデジタル技術が描く日本の未来、ソーシャルイノベーションの実現へ

    3年ぶりのリアル開催となった「NTT東日本グループSolution Forum2023」

Solution Forum2023は、NTT東日本グループのソリューションや技術、アセット、取り組み事例を体感する場として開催。今年は3年ぶりのリアル開催となった。会場には企業や自治体関係者などが来場。感染対策を行いながら実施したイベントには、開催初日だけで41社140人が参加した。また、展示会場にはNTTグループが持つ約60の技術、製品などが展示され、日変わりで出品されるものもあった。

開催初日の基調講演に登壇したNTT東日本の澁谷直樹社長は、「地域の未来を支えるソーシャルイノベーション企業をめざして」と題して、同社の取り組みについて説明。「かつては固定通信の会社だったNTT東日本は、地域の未来を支えるソーシャルイノベーション企業を目指している。日本を愛し、日本の未来を思うみなさんとともに、ソーシャルイノベーションを起こすことに挑戦したい」と述べた。

  • 講演するNTT東日本 代表取締役社長 社長執行役員 澁谷直樹氏

NTT東日本 はソーシャルイノベーション企業をめざす

澁谷社長が最初に触れたのが、NTT東日本のこれまでの取り組みだ。

「NTT東日本は、1999年の発足以来、光ブロードバンド通信を日本に広げ、人口カバー率は99%を超え、その取り組みが完了した段階にある。今後は、世界最先端の通信アセットを最大限に活用しながら、ソーシャルイノベーション企業をめざす」と語る。

  • 固定通信の会社から、ソーシャルイノベーションの会社へ

ソーシャルイノベーションとは、地域が持つ魅力や資産、価値を、ICTやデジタル技術で拡張し、新たな産業や雇用を生み出すことであり、循環型の社会の仕組みが前提になると定義する。

「NTT東日本は、地域通信事業者として、電話局や光ファイバーなどの膨大な通信アセットを持ち、全国津々浦々に数多くのエンジニアやデジタル人材を配置している。地域に根ざした活動を行っている。これらのアセットを最大限に活用し、地域のデジタルデータをつなぎ、衰退の危機にある一次産業の再生、文化の継承、循環型のまちづくりといった分野における新たな価値の創造に貢献していきたい」と述べた。

NTT東日本には、地域に密着して活動する社員が5万9,000人おり、そのうち、2万人がエンジニア、2,000人がデジタル人材だという。さらに、3,200の電話局ビル、566万本の電柱、127万kmの光およびメタルケーブル、406kmのとう道(ケーブルが通るトンネル)といった電気通信アセットがある。これらを活用しながら、フィールド実践型エンジニアリング、共感型DXコンサルティングを推進することで、ソーシャルイノベーション企業を実現することになる。

  • 地域に密着し、地域の未来を支える

「ソーシャルイノベーション企業の実現のために、フィールドに出て、お客様の現場で一緒に汗をかき、泥臭い活動を行うフィールド実践型エンジニアリングと、地域の方々と寄り添い、ともに未来を作っていく共感型DXコンサルティングを磨いていきたい」と語る。

また、世界経済フォーラムが発表した2021年の旅行・観光開発指数世界ランキングでは、日本が1位となったことに触れながら、「日本が持つ魅力は、世界からも認められている。日本には、各地域の自然環境や、歴史に基づいた食分野、特産品、祭りや伝統工芸といった文化や芸術、多様な自然環境など、多種多様で魅力的な資源が数多くある。NTT東日本は、これらの資源が持つポテンシャルを最大限に活かすことに挑戦する。地域の魅力や資産を再発見し、ICTとデジタルの力で、新たな価値を創造したいと思っている」と語った。

  • この調査に限らず、日本の旅行・観光にはさらに高いポテンシャルが期待されている

地域の力を伸ばすデジタル技術の可能性

講演のなかでは、地域の力をデジタルで最大限に伸ばした事例として、オランダのスマート農業の事例をあげた。これはNTT東日本が直接的に関与したものではないが、世界的な先進事例として注目されているものだ。

オランダの国土は九州と同じで、4分の1が海面より低く、農地面積は日本の4割程度にすぎず、農業という面でみると条件がよくない国だという。また、1980年代から、スペインやフランスなどから安価な農作物が輸入され、オランダ国内における農業への就業者が減少している状況にあったという。

だが、デジタル技術を活用した次世代の施設園芸を導入することにより、効率的な成育コントロールを実現。生産性を飛躍的に向上させ、現在では、トマトは日本の8倍の収穫量を達成。農産品の輸出額は米国に次いで第2位。農場面積あたりの輸出額は日本の150倍に達しているという。また、スマートな就農スタイルの実現によって、シニアや女性が働きやすいインクルーシブな環境を実現している点も特徴だという。

  • 物理的な条件面の不利を覆し、世界2位の農産品輸出を実現したのがオランダのスマート農業

澁谷社長は、「条件が厳しいなかでも農業の再生に成功した背景には、産官学が垣根を超えて連携し、Collective Impactを生み出したことがあげられる。組織や立場が異なる人が目標を共有し、個々の利害を超えて、力を合わせたことが大きな成果につながっている」と指摘する。

オランダでは世界最先端の農業研究で知られるワーヘニンゲン大学が中核となり、1,000以上の国際的な研究機関や食品関連企業が集まり、様々なイノベーションを日々起こしているという。

「オランダの農業の事例から学んだことは、厳しい条件のなかでも、知恵や工夫を結集することで、チャンスに変えることができるということだ。そこには、最先端のデジタル技術の活用や、データドリブンを前提とした取り組みが貢献している」と指摘する。

産官学と地域コミュニティが連携し、地域全体がワンチームとなって、Collective Impactを生み出した先進事例というわけだ。

  • 産官学と地域コミュニティが連携し、Collective Impactを生み出した

これを受けて澁谷社長は、「オランダから学んだ知見を活かし、地域の魅力をさらに高めるために、NTT東日本でも、新たな事業に取り組んでいる」と前置きし、グループ会社のNTTアグリテクノロジーが、約2年前に、山梨県中央市に「ベジアイシティ山梨中央」を設立。リーフレタス工場を作り、地域のパートナーとともに運営している例を紹介した。

サッカー場の1.5倍となる約1haの敷地に、水耕栽培の特徴を活かし、根付きで新鮮な状態でリーフレタスを出荷。首都圏や山梨県の地場スーパーで販売しているという。

大規模農業と省力化、環境負荷の低減を実現した最先端の取り組みが特徴で、光合成に必要な環境データに基づく、統合環境制御を行い、同時に、現場での収穫、出荷作業などを行いやすい作業台の高さや、動線を考慮した設計を採用。働く人にも優しい環境を実現しているという。

ベジアイシティ山梨中央からライブ中継で登場したNTTアグリテクノロジーの酒井大雅社長は、「農業と通信は生活の基盤を支えるという共通点がある」としながら、「露地栽培だと身体をかがめて収穫するなど、負担が大きい作業が多いが、ここでの農業は、身体をかがめることなく体力的負担が少ない姿勢で作業ができる。服も汚れず、様々な人たちが就農できる。未来の農業の形であり、農業に対するイメージを変えることができる」としたほか、「ICTを活用した栽培労務管理を実現している。生産現場は、フードチェーンの1丁目1番地であり、ここでの見える化が、後工程の効率化、ロスカットに大きく影響する。これを支援するのがフードバリューチェーンサービスになる。手書きで行っていた現場情報をデジタル化することで、作業の改善や最適な人員シフト、需給バランスを踏まえた物流手配、バイヤーとの取引や公正な評価を実現する」と述べた。

  • ベジアイシティ山梨中央で収穫したばかりのリーフレタスを手に持つNTTアグリテクノロジーの酒井大雅社長

作業者はスマホの画面から、作業するレーンを選択し、作業を開始する際にボタンを押すと、自動的に作業データを蓄積。登録した収穫量のデータから、管理者は進捗状況を確認できる。それをもとに、収穫が遅れている区画に人員をシフトすることができ、効率的な作業が可能になるという。

澁谷社長は、「農業の変革を目指して、NTT東日本が自ら農業に挑戦してみようと考えた」と発言。NTT東日本が取り組むフィールド実践型エンジニアリングと共感型DXコンサルティングの具体的な事例のひとつとして示す。

「NTT東日本は通信の会社だが、社会の価値を創造する場合には、自分たちでもやってみることで、様々な苦労や経験をすることが大切であると考えている。そこで得た知見やノウハウを、これから展開して行こうと考えている人たちに提供することで、地域の未来を支えるソーシャルイノベーションを実現する」と語る。

ICTを組み合わせて新たな農業経営を成立させ、農作物の安定生産のほか、遊休農地の効果的な活用、地域の雇用創出、関連産業との共創などにも波及効果が生まれることを期待しているという。

地域の新たな価値創造へ、国内で取り組むいくつかの事例

NTT東日本では、これ以外にも、地域の価値創造に向けた取り組みを行っており、そのいくつかを紹介した。

山形県長井市では、再生可能エネルギーと農業をつなげ、循環型地域社会の構築に取り組んでいるという。超小型バイオガスプラントを設置し、家庭やレストランなどから排出される生ごみ、食べ残しを活用して、エネルギーやたい肥を生成。次世代型ハウスや農地に使うことができるという。さらに、これらのエネルギーやたい肥を使って育てた農産物を、家庭やレストランに届ける地産地消と、地域の脱炭素の取り組みにもつなげることができ、持続可能な循環型エコシステムを地域内に構築できるという。

  • 山形県長井市の事例

アートのデジタル化によって、地域資産の価値を新たに創造した事例としては、長野県小布施町の事例がある。同町にある岩松院では、葛飾北斎が描いた鳳凰図が有名だが、これをデジタルリマスターし、都市部でも鑑賞できるようにした。これを公開した結果、小布施町を訪れる人が増加。地域の様々なプレイヤーとの連携によって、観光を促進するだけでなく、リピーターの増加に向けた町全体での取り組みを実施。さらに、移住営農者や未来の担い手育成など、地域の持続的な循環につなげていくという。

  • 長野県小布施町の事例

耕作放棄地などの遊休地を、魅力的な施設に再生する取り組みとして、千葉県館山市では、キャンプ場を活用。デジタルを通じて、人流の増加や経済の地域循環を促進しているという。温泉や観光スポット、地域の食材、特産品など、地域の魅力を体感してもらったり、NTT東日本のスマートストアの仕組みを用いて、低コストで店舗運営を行ったり、平日はワーケーションにも利用できる場所として提案するという。

  • 千葉県館山市の事例

また、インフラ事業者との連携についても説明。「インフラ設備の老朽化は、橋や道路、電気、ガス、水道などにおいて、深刻な社会課題となっている。そこで、インフラ事業者間の垣根を超えて、データやノウハウをシェアリングするスマートインフラの構築にも取り組んでいる。これにより、インフラの維持コストを大幅に削減するとともに、被災状況のリアルタイム配信など、災害対策の高度化にもつなげていく。国の機関や地方自治体とも連携を強化し、増加する自然災害、安全保障へのレジリエンスの強化にも貢献したい」と述べた。

  • インフラ事業者との連携した事例

最高品質ネットワーク、デジタルソリューション、地域循環型ミライ研究所

講演の後半に澁谷社長は、「NTT東日本は、地域の価値創造に向けて、どのような貢献ができるのか」と自問自答し、「最高品質のネットワーク」、「地域の価値を伸ばすデジタルソリューション」、「地域循環型ミライ研究所を設立」の3点から、具体的な取り組みを説明してみせた。

「最高品質のネットワーク」は、NTT東日本のコア事業となる部分であり、「高品質のネットワークをさらに高度化していく」と宣言した。

「地域の多様性を支えるためには、ネットワークは、さらなる進化を遂げる必要がある。これからのデータドリブン社会においては、膨大なデータをコンピュータで処理するリソースが地域に分散され、距離を超えて超高速、低遅延でつながるディスアグリゲートコンピューティングネットワークの実現が求められる。だが、このような仕組みの実現には、大量の電力を必要とするため、低消費電力化が急務である」とし、「NTTグループでは、世界最先端の光電融合技術により、通信機器やコンピューティング基盤を光で実現。NTTが提供するIOWNによって、圧倒的な低消費電力と、広帯域の次世代通信ネットワークを目指す。IOWNが完成するのは2030年であるが、2023年3月には、IOWNによるオールフォトニクスネットワーク(APN)の最初の商用サービスを開始し、遅延がないネットワーク環境を実現する。APNを使いこなすユースケースを、ステイクホルダーとともに作っていきたい」と述べた。

  • ここでもやはりキーとなる「IOWN」の取り組み

そして、地域の価値を創造するために、データの地産地消を支える地域エッジとして「REIWAエッジ」の役割も重要だと指摘する。

「NTT東日本が得意とするのは、工場や農場といった現場を支えるオンプレミスをしっかりと支える環境をワンストップで提供することである。インフラ事業者として、最適なネットワークをデリバリーし、保守を提供し、地域に根ざしたのエンジニアリング力で現場のニーズに応えていく」とする。

REIWAエッジでは、デジタル変革に必要なコンピューティング基盤を提供。自治体やスタートアップ企業、他社にもオープンに開放し、イノベーションの加速をサポートしていくという。「分散されたコンピューティング基盤のリソースを、地域でシェアしてもらうことで、地域のデジタル化を加速できる」と語った。

  • デジタル変革に必要なコンピューティング基盤を提供する「REIWAエッジ」

2つめの「地域の価値を伸ばすデジタルソリューション」では、「交通・観光」、「防災・減災」、「農林水産」、「流通・サービス」、「製造・建設」、「医療・健康」、「エネルギー」、「文化芸術・スポーツ」、「教育」、「家庭・生活」の10分野で様々な取り組みを開始していることを示しながら、「これらの領域において、NTT東日本自らが体験をすることで、蓄積したノウハウを、サービスとしてワンストップで提供することができる」と述べた。

  • 価値創造を支える様々なデジタルソリューション

3つめの「地域循環型ミライ研究所」は、新たに発表したもので、2023年2月1日に設立する予定だという。古くから受け継がれた地域が持つ食や文化、豊かで個性にあふれた自然などの多種多様な資源を活用するために、地域の魅力を調査、研究するのが役割だ。 「経済発展を遂げても、自然や文化が失われては意味がない。食や文化、自然などの日本が持つ美しさに着目し、それらをデジタルの力で価値創造し、次世代に継承していく活動を進めたい。同じ思いを持って地域を支えようとしている自治体や企業、スタートアップ企業、地域住民とともに、地域の魅力を再発見し、長期的視点に立って新たな価値創造を目指したいと考えている」と意欲をみせた。

  • 地域循環型ミライ研究所の設立

最後に澁谷社長は、NTT東日本グループが目指す方向性について改めて言及。「これからの未来は、誰かの幸せを思う人たちが集まり、力をあわせて行動することで実現すると思っている。地域を愛する多数の社員が働き、地域の通信を24時間365日支え続けるオンリーワン企業であるNTT東日本の社員が、心を込めてみなさんを下支えしたいと思っている。熱い思いを持って、パートナーと力を合わせることで、夢や希望が感じられる明るい未来を実現したいと思っている。日本を愛し、日本の未来を思うみなさんとともにソーシャルイノベーションを起こすことに挑戦したい」と語り、講演を締めくくった。