一般社団法人電子情報技術産業協会(JEITA)AVC部会は、「AV&IT機器世界需要動向~2027年までの世界需要展望~」を発行し、その内容について説明した。
同調査は、1991年から実施しており、今回で33回目となる。レポートの表紙が黒いことから、「黒本」と呼ばれており、同協会AVC部会をはじめとした関連事業委員会の参加会社を対象としたアンケートやヒアリング調査によって、11品目の需要動向をまとめている。調査には富士キメラ総研が協力している。
JEITA AVC部会AV&IT機器世界需要動向調査タスクフォースの風間美佐子主査(シャープ)は、「アンケートやヒアリング調査に加えて、世界動向や経済状況を踏まえた形で、2027年までの予測を行っている」とした。
なお、フラットパネルテレビ、4Kテレビ、BD、デジタルビデオカメラの4品目は、2021年調査まではJEITA民生用電子機器出荷統計の実績値をベースに需要予測を行っていたが、今回から統計対象外だった企業などへの追加調査を行い、その数字を加えた予測へと変更。従来調査に比べるとベースとなる数量は、フラットテレビでは4~5%増加しているという。全体的な傾向には変化はないとしている。
今回の調査においては、新型コロナウイルスの影響が続いているのに加えて、半導体不足やエネルギーコストの上昇、材料コストおよび物流コストの増加といったネガティブ要素が継続。その一方で、Wi-Fiの高速化や5Gといったネットワークの強化、VR市場の立ち上がり、AI利用の広がり、ADAS対応車や電動自動車の増加といった要因がポジティブに働いたと総括。さらに、新興国でのGDP成長が高いこと、先進国でのインフレの加速、日本における円安の動きなども、ITおよびAVの需要に影響を及ぼしたとしている。
また、日本では、コロナ禍で一気に冷え込んだ購買行動が一時回復基調に転じたものの、2022年後半には急激な円安や、物価上昇などの影響を受けて購買行動に関する指数が低下。2023年も低調に推移すると予測している。物価上昇とそれに伴う消費支出増加が顕著となり、生活費が増加し、これがマイナスの影響を及ぼすと予測した。
一方で、半導体の需給バランスについては、「コロナ禍においては、一時的な生産減少が発生した影響だけに留まらず、5Gスマホの生産拡大、自動車の電動化の進展、ノートPCの生産拡大、テレビの巣ごもり需要によって、半導体が逼迫した。先端半導体は2022年後半からの需要減少もあり、需給バランスが改善しているが、レガシー半導体や自動車に利用するパワー半導体では供給不足が続いている」(富士キメラ総研 第二部の三橋慎吾課長)と指摘した。
製品別の今後の見通しでは、テレビは市場の縮小し、2027年までは年平均成長率がマイナスにシフト。IT機器は2022年には市場が大幅に縮小したが、今後の買い換え需要の発生で年平均成長率は改善。録画再生機器はマイナス方向にシフトすると見ている。
「テレビは縮小傾向が続くが、オンデマンド配信の増加に伴い、テレビのインターネット接続対応が加速。録画機は4K対応が進展。音声機器では高音質化の方向性に加えて、各種センサーの搭載が加速し、家庭内で様々な機器を制御するコントロールタワーとしての役割が増加していくだろう。また、IT機器は、ゲーミング対応やVR Ready対応、有機ELディスプレイの搭載がポイントになる。カーAVCは電動自動車の増加を背景に成長しており、AI対応も増えている。自動運転の進展とともに、高速および低遅延のネットワークが求められるほか、車室内のエンターテイメントの実現にも注目が集まる」と述べた。
製品別の市場予測を見てみよう。
フラットパネルテレビは、2022年の世界需要が前年比3.5%減の2億1,423万台となった。新興国では個人消費が活発化して需要が増加したものの、ワクチン接種が進んだ北米や欧州では在宅時間が減少したことで需要が減少。また、半導体不足が2022年前半に深刻化したことで、生産数量の減少や供給停滞に影響したため、需要は減少となった。
2023年は2.2%減の2億943万台となり、先進国ではスマホによる動画視聴との競合が強まるなど、映像機器の多様化によって、テレビを家庭に複数台所有する必要性が減少してこと、テレビの買い替えサイクルの長期化などがマイナスに影響している。2023年の日本の需要は、前年比5%減の483万8,000台となり、今後も需要の減少傾向が続くと予測している。世界需要も2027年には2億813万台と微減になると見ている。
富士キメラの三橋課長は、「2023年以降は、インターネット接続対応モデルのニーズ拡大や、5Gなどを活用した4K/8K映像の伝送も増加し、大画面による高品質映像体験の機会が増加していく。だが、4K/8K対応率は前年調査から下方修正をした。4K対応していないインターネットテレビの需要が高まっていることが要因である」と述べた。
世界全体の4K/8K対応率は2022年には54.9%であり、2027年は62.9%と予測した。また、地域別の4K対応率をみると、2027年には日本の4K対応率は60.5%となり、東欧・中東・アフリカの62.3%、オセアリアを含むその他の65.1%を下回り、世界で最も低い4K対応率になると予測している。
フラットテレビのうち、4Kテレビは、2022年の世界需要が前年比0.7%減の1億3,519万台、日本では11.3%減の278万5,000台となった。また、2027年の世界需要は前年比1.2%増の1億4344万台、日本は1.6%減の254万台になると予測している。
8Kテレビは、2022年の世界需要が前年比26.9%減の52万6,000万台、日本は21.4%減の2万2,000台。「8Kテレビは、2022年は成長すると予測していたが、8Kコンテンツの不足や、中国や先進国においてテレビ自体の需要が減少していることで、8Kテレビの需要は予想に反して減少した。今後の見通しについても大きく下方修正している」という。2027年の世界需要は前年比31.6%増の133万7,000台、日本は53.8%増の10万台を見込んでいる。
また、「日本のテレビ需要は、テレビ離れや動画配信サービスの利用増加、ディスプレイの多様化、買い替え年数の長期化などにより、右肩下がりの状況が続く。テレビを見なくなってしまったり、他の媒体を使って映像を見たりといったケースが増え、テレビ番組のネット同時配信などによって、放送と通信の垣根がなくなることで、テレビ番組をテレビで見ない層が増えていく」などと述べた。
BDは2022年の世界需要が前年比11.2%減の2,720万台、日本では19.3%減の178万台。「2022年11月~12月に開催されたサッカーワールドカップカタール大会により、BDレコーダーの需要増加が期待されたが、目立った動きはみられなかった。日本においては、動画配信による全試合無料ライブ配信やアーカイブ配信が行われたことが影響している」とした。2027年の世界需要は前年比12.7%減の1,412万台、日本は4.8%減の120万台を見込んでいる。「年平均成長率は大幅な減少が見込まれている。動画配信サービスの普及がパッケージメディアの活用頻度を下げている。動画共有サービスから出現した新たなクリエイターによる動画コンテンツの人気上昇、テレビや映画業界などの既存コンテンツホルダーによる動画配信サービスへの積極展開など、複数要因が重なって、BD機器需要は世界的に減少傾向が続く」としている。
デジタルビデオカメラは、2022年の世界需要が前年比5.3%減の433万台、日本では3.2%減の38万7,000台となった。2027年の世界需要は前年比1.8%減の387万台、日本は2.9%減の33万5000台になると予測している。
「ライトユーザー層は、動画撮影にスマホやデジカメを利用しており、デジタルビデオカメラのニーズが下がっている。アクションカムは、YouTuberなどの動画配信者のニーズが見込まれていたが市場自体は縮小している」という。
スピーカーサウンドシステムは、2022年の世界需要が前年比11.3%減の1億4,839万台、日本では3.1%減の208万台となった。2027年の世界需要は前年比5.5%増の1億8,327万台、日本は4.3%増の245万台になると予測している。
「スマートスピーカーの需要が新興国中心に増加し、これがスピーカーサウンドシステムの需要増加を支えていく。高音質化だけでなく、動画配信サービスに対応したディスプレイ搭載モデルも増加するだろう」と予測した。
PCの世界需要は、2022年には前年比14.8%減の2億6,150万台となり、大きく減少。2020年~2021年にかけて、コロナ禍でのリモートワーク向け需要が増加したものの、2022年はその反動があったほか、中国におけるロックダウン影響による生産の遅れ、部材価格や物流費の高騰などを背景にした製品価格の見直しが進展し、それに伴う買い控えが起こったという。
2023年の世界のPC出荷は前年比7.8%減の2億4,100万台と引き続き縮小傾向にあるが、2024年は0.4%増の2億4,200万台と微増に転じ、その後も微増で推移。2027年には前年比0.8%増の2億4,800万台になると予測した。「2024年以降は、2019年から2020年にかけて発生したWindows 7のサポート終了による需要増や、2020年以降のリモートワーク関連需要によって導入されたPCが、買い替えサイクル期にあたることから、微増傾向が続く」と予測した。また、「高度なグラフィックゲーミングに対応した高いGPU性能や、高いディスプレイ性能を有するゲーミングPCが増加し、自発光の有機ELディスプレイによる画質強化も需要にはプラスになる」とした。
VR Ready対応PCは、2023年には5,000万台に迫る勢いになっており、今後も堅調に拡大し、VR Ready対応PCの構成比は2027年には50.6%と半分を占めると予測した。
日本のPC需要は、2022年には前年比14.9%減の945万台と1,000万台を割り込んだ。2023年も1.1%減の935万台に予測したが、2024年以降は成長へと転換。2027年は4.6%増の1,063万台になると予測している。
「2024年~2026年は、2019年のWindows 7サポート終了を控えた買い替え需要、2020年から2021年のGIGAスクール構想関連需要の買い替えサイクル期にあたり、需要は増加傾向に転じる」としている。
タブレット端末の2022年の世界需要は前年比12.1%減の1億6,000万台。日本では前年比10.0%減の910万台。2007年の世界需要は前年比2.1%減の1億3,900万台と縮小するが、日本では前年比3.8%増の830万台と増加すると見込んでいる。
日本での需要拡大は、法人向けタブレットが2023年からプラスに転じ、2027年には前年比14.3%増の400万台に達すると予測していることが理由で、在庫管理端末や受付端末などの特定業務用端末、金融分野向け端末が堅調に需要を増加。さらに、2025年以降には、GIGAスクール構想で整備されたタブレットの買い替え需要の発生を見込んでいる。
カーナビゲーションシステムは、2022年の世界需要が前年比2.0%減の3,354万台、日本では7.6%減の440万台となった。2027年の世界需要は前年比2.8%増の4,290万台、日本は1.6%増の508万台と予測している。
カーオーディオシステムは、2022年の世界需要が前年比1.7%減の6,665万台、日本では8.5%減の150万台。2027年の世界需要は前年比0.2%増の6,917万台、日本は4.7%減の112万台と予測した。
また、ドライブレコーダーは、2022年の世界需要が前年比3.7%増の2,758万台、日本では15.1%減の449万台。2027年の世界需要は前年比5.5%増の4,173万台、日本は2.9%増の535万台と予測している。
「2023年以降は、電動自動車の普及や自動車販売台数の回復もあり、カーナビゲーションシステムは市場が拡大していくが、電動自動車の普及は、従来型カーオーディオシステムの需要は減少につながる。ドライブレコーダーは、2022年は自動車販売台数が減少したものの、事故時の状況保存ニーズの高まりによって市場は堅調に拡大。今後も需要は拡大していく」と予測した。