英Oxford Quantum Circuits(オックスフォードクァンタムサーキッツ=OQC)と、エクイニクスは、量子コンピュータの商用利用における協業を発表。エクイニクスが持つ東京都内のデータセンターである「TY11 International Business Exchange(IBX)」に量子コンピュータを導入。2023年後半から、エクイニクスのグローバルプラットフォームを通じて、OQCによるQCaaS(Quantum Computing as a Service)を提供する。

  • 日本と世界にQCaaS提供、英OQCが量子コンピュータを都内のエイニクスデータセンターに導入

    OQCの次世代量子コンピュータ

創薬やリスク管理、金融分野や製造業などでの利用が期待され、量子コンピューティングの民主化を推進する動きとしても注目される。

また、会見のなかでは、次世代プロセッサである32量子ビットの「TOSHIKO(トシコ)」に言及。Oxford Quantum Circuitsのイラーナ・ウィズビーCEOは、「性能ではLucyを大きく上回る。TOSHIKOは、日本初の女性物理学者と言われる湯浅年子氏から命名した」などと述べた。

  • Oxford Quantum Circuitsのイラーナ・ウィズビーCEO

ウィズビーCEOは、「Oxford Quantum Circuitsは、複雑な課題を解決するために、量子コンピュータのテクノロジーをシームレスなサービスとして提供することが使命だと考えている。今回のエクイニクスとの協業により、容易で、安全に、量子コンピュータにアクセスできる環境を、日本および世界に向けて提供する。また、プライベートアクセスが可能であることから、共同開発にも適しており、多くの企業が革新的なテクノロジーを学んでもらえる機会、使ってもらえる機会を実現する」と述べ、「日本には大きなビジネス機会があり、エコシステムも構築したい。また、日本が量子コンピュータ分野でリーダーになれるように支援したい」とした。

  • 潜在能力と課題がともに大きい日本市場に成長の可能性を見ている

また、エクイニクス・ジャパンの小川久仁子社長は、「グローバルデジタルインフラ企業のマーケットリーダーであるエクイニクスと、量子コンピューティングの先進的企業であるOQCとの化学反応によって、新たな未来にムーブメントを引き起こすことになる」とコメント。「TY11は、OQCのQCaaSを、アジアで初めて提供する拠点になる。クラウドサービスのネットワークハブの40%をエクイニクスがカバーしており、クラウドとの接続性の高さを実現できるほか、エコシステムへの近接性を生かして、量子コンピュータが持つ高い計算能力を最大化でき、高いセキュリティも提供できる。さらに、QCaaSをほかの国や都市に展開する支援も行っていく。エクイニクスは、32か国、71都市圏、248カ所のデータセンターを展開しており、日本では15カ所のデータセンターが稼働している。顧客のビジネスの加速とともに、サステナブルなITインフラを提供できる強みを生かしていく」と語った。

  • エクイニクス・ジャパン 代表取締役社長の小川久仁子氏

Oxford Quantum Circuitsは、2017年6月に、英オックスフォード大学発のスタートアップ企業として設立。現在、約90人の体制となっている。ゲート方式による超伝導量子コンピュータの開発を進めており、独自技術である3次元アーキテクチャーによるパッケージング技術「Coaxmon(コアックスモン)」により、量子ビットと同じ平面上に配線が一切ないシンプルなオフチップワイヤリング構造の量子チップを実現しているのが特徴だ。2022年2月には、8量子ビットの超伝導量子コンピュータ「Lucy(ルーシー)」をAWS上で提供しており、今後、大手クラウドプロバイダーを通じた新たなサービスも計画しているという。

同社では、QCaaSを通じて、ライフサイエンス、金融サービス、運輸・物流、エネルギー、通信、製造業、政府、学術機関などにおいて、量子コンピューティングの活用を推進。2035年までに7,000億ドルの経済価値を創出できるとしている。

  • 2035年までに7,000億ドルの経済価値を創出できるとする

日本法人は2022年に設立。OQCに対して、東京大学エッジキャピタルパートナーズなどの投資が行われたことも日本法人の設立につながっている。Oxford Quantum Circuits日本法人 カントリーマネージャーの杉浦敦氏は、「日本は大きな可能性を持った市場である一方、高齢化をはじめとした固有の社会課題もあり、テクノロジーへの期待が高い。量子コンピューティングにおいては、学術的な研究が先行しており、これらの関係者との連携も強化していく」と述べた。

  • Oxford Quantum Circuits日本法人 カントリーマネージャーの杉浦敦氏

今回の協業では、OQCの量子コンピュータを、エクイニクスのTY11に導入し、エクイニクスのオンデマンド型インターコネクションソリューションであるEquinix Fabricを活用。2023年後半を目標に、エクイニクスのグローバルプラットフォームにおいて、QCaaSを提供することになる。

OQC Liveにより、アクセスの容易性を実現するとともに、Equinix Fabricに接続することで、世界中の企業や組織が、オンプレミスにあるかのように量子コンピュータに容易に接続できるほか、強化されたセキュリティの提供や、低遅延も実現。自社のデジタルインフラ内で直接QCaaSに接続することで、より安全に、容易に、量子コンピュータの画期的なテクノロジーを活用、検証することができる。さらに、OQC Labsを通じて、テクノロジーを学ぶ環境も提供する考えを示した。

  • シンプルで、スケーラブル、フレキシブルな量子コンピューティングのサービスを提供する

OQCのウィズビーCEOは、量子コンピューティングの活用における障壁として、既存ITシステムとの統合が複雑であること、社内に量子コンピューティングの知識を持った専門家が不在であること、投資に対する効果が不透明であるという3点をあげ、「OQCは、シンプルで、スケーラブル、フレキシブルな量子コンピューティングのサービスを提供。インターコネクトの提供により、顧客の量子アルゴリズムをプラットフォーム上で稼働させることができる。また、QCaaSでは、顧客が持つ安全な既存デジタルインフラに接続および統合でき、データセンターの外に、データを出すことなく利用できる。アクセスの複雑さは、量子コンピュータを利用する上で、最大の障壁になっており、それを解決できる」としたほか、「世界中の企業における量子コンピュータのスキルセットと能力の開発を支援することができるようになる。学び、実験し、理解するプロセスを、高いパフォーマンスとともに提供できる」などとした。

その上で、「世界的なデジタルインフラストラクチャ企業であるエクイニクスとの協業は、量子コンピュータを世界のデジタルインフラに直接統合することで、様々な顧客を接続し、守り、強化できる。量子コンピューティングを身近なものにし、画期的な発見を支援することで、世界中の人々に、よりよい未来を届けたい」と述べた。

  • OQCとエイニクスの協業で実現すること

エクイニクスのインフラを活用したQCaaSの提供によって、量子コンピューティングが、さらに一歩身近なものになりそうだ。