シャープは、国内AIoT家電のネット接続率を、2024年度に8割以上を目指す計画を掲げた。また、AIoT対応の白物家電の販売金額構成は、国内で7割以上、欧米や中国、台湾の海外市場では5割以上を目指す。
ネット接続率にこだわるシャープ
シャープ 専務執行役員 スマートライフグループ長兼デジタルヘルス事業推進室長の沖津雅浩氏は、「現在、国内において、テレビと白物家電をあわせたネット接続率は約5割。これを8割以上に高める。すでに、テレビではほぼ100%がネットにつながっている。また、調理家電のホットクックも6割以上がつながっており、平均して週に1、2回接続している。エアコンは、接続率は低いが、全モデルでネットがつながるようになっている」としながら、「ネット接続率を高めるには、他社連携などにより、お客様にメリットがあるソリューション、サービスを提案する必要がある。テレビは、ネットコンテンツを視聴したいというニーズがあることで、接続率が高まっている。家電においても同様に使いたくなるサービスを提供したい。つながるサービスが実現できる基盤ができたタイミングである。接続する機器数は、今後も拡大する計画であり、データ収集量などのメリットを生かし、見守りサービスなどをはじめ、お客様に喜ばれるサービスを用意したい。また、セキュリティを維持しながら、接続の仕方を簡単にしたり、設置のしやすさを追求したりすることも、8割以上の接続率を実現するためには重要である。将来はネットにつながらないと使えない家電を作ってもいいのかと思っている」とした。
なお、アジアや中近東では、まだ家電そのものの普及率が低いため、普及製品の広がりが中心となるため、グローバル全体でのネット接続率の目標は5割としている。
シャープがネット接続率の向上にこだわるのは、製品そのものの提案では、コモディティ化して価格競争に陥りやすいこと、ネットを活用したサービスやソリューションの提供を通じて、付加価値を提供できることや、継続的なサービス提供によるリカーリングビジネスの創出につなげることができるというメリットがある。シャープ全体の業績が悪化しても、家電事業の業績は比較的安定していた経緯はあるが、ネット接続率を高めることで、さらなる経営の安定化につなげる狙いがある。
シャープの沖津専務執行役員は、「AIoT家電は購入してから進化が始まる。購入後、使った時間や利用環境などをもとに、家族にあわせた最適化を図る。共働き世帯や、家族が集まって食事をする家庭、ケアが必要なシニアがいる家庭など、家電の使われ方から、最適な料理メニューをお勧めすることができる。また、AIoTオープンプラットフォームにつながる他社サービスも増加しており、今後、選択できるサービスが増えることになる。一部の他社IoT機器との連携も可能となっており、操作情報の通知から、複数の機器の一括操作を、スマホを通じて行えるようになっている。今後の商品開発においては、AIoT家電を買い替えた際にも、それまでの最適化情報を引き継ぐことができるようにする」などと語る。
そして、「AIoTを活用することで、家電を、道具から人が愛着を感じられるパートナーになることを目指す。家電が、もう一人の家族になると考えている」とする。
白物家電を変革する3つの重点戦略
AIoTは、AIとIoTを組み合わせた造語で、シャープの登録商標となっている。累計で12カテゴリー685機種を発売している。
一方、沖津専務執行役員は、「AIoTによって、白物家電と事業を変革する」として、3つの重点戦略を打ち出した。
ひとつめは、「AIoT+独自技術+デザインで、お客様の暮らしに役立つ商品の創出と、ソリューション事業の融合、クラウドサービス事業への参入」である。
AIoT技術と、プラズマクラスターや過熱水蒸気技術、生物模倣によるネイチャーテクノロジーといったシャープ独自技術を組み合わせた新規商品を創出するとともに、ソリューション事業との融合、機器から収集したデータをもとにしたクラウドサービス事業の創出に取り組む。
COCORO+サービスとAIoTプラットフォームを活用して、異業種企業と連携し、見守りサービスやガス機器の遠隔操作を行う「APIビジネス」、家電から得られるデータを活用した「データ・コンテンツ活用ビジネス」、広告コンテンツをスマホや家電に配信する「広告ビジネス」を展開することになる。
さらに、AIoT家電同士のデザインをマッチングすることにより、つながるデザイン家電を展開するという。
「商品同士がつながっても、デザインがバラバラでは快適な生活にはならない。お客様がキッチン空間のインテリアと、シャープの家電の統一感をトータルコーディネートできるような商品を提供し、デザイン統一が行われたAIoT家電同士が連携することで快適生活の実現を図る」とした。
シャープでは、2022年3月に、大阪府八尾事業所内に、次世代のスマートホームを体感できる「AIoTショールーム」を開設。AIoT家電やCOCORO+サービスを核に、Smart Living RoomやSmart Kitchin、Smart Washroomを展示。新規事業を展示する「Creative Business Linkage」により、クラウドにつながることで実現する新たな家電の活用を提案する考えだ。
2つめは、「AIoTで、ビジネスシーンの課題を解決できるBtoBソリューション事業の強化」だ。
ヘルスケアソリューションとして、耳にかけて、噛むことを計測する咀嚼計「bitescan(バイトスキャン)」、月経管理アプリとIoT収納ケースによって、生理日の記録と生理用品の在庫管理を実現する「フェムテック」の2つを製品化。また、ストック管理ソリューションでは、トレーと専用アプリで、冷蔵庫内の食品や缶飲料、調味料の個数および購入時期などのストック管理を行い、関連するECビジネスと連携する「ストックアシストシステム」を製品化している。「bitescanは、2018年に研究者向けビジネスとして実用化。大学の研究施設や食品メーカー、高齢者向けイベント、学校での教材として活用されている。フェムテックは若手の声を反映して製品化したものであり、生理用品メーカーとの連携も行い、最終的には一般ユーザーに届けるサービスになる。だが、量販店で販売するものとは違うルートでの提供を模索している。その点でも新たな挑戦となる。また、ストックアシストシステムでは、在庫を管理するだけでなく、データを活用して、調味料の使用量から、健康ソリューションにつなげることも考えている」という。
さらに、集中管理ソリューションとして、ホテルや高齢者施設、寮などの業務用空間を集中管理するシステムを2022年度から提供を開始。複数のエアコンや空気清浄機、洗濯機などの設備や、それらが稼働する空間を、PCやタブレットで一元管理し、労働負荷の低減や入居者の健康管理、省エネや生産性向上、利便性向上に貢献できるという。高齢者施設では、夏場に部屋に温度があがりすぎている場合に警告を出し、管理者が各部屋を巡回しなくても入居者の熱中症対策が行えるといった活用が行えるという。
また、COCORO HOMEアプリを活用した他社連携ソリューションも2022年度から順次拡充。他社製照明器具との連動、見守りサービスの展開、レシピや食材の提供、洗剤や柔軟剤のECサービスなど、クラウドを活用した各種サービスを提供していく考えだ。
現在、スマートライフグループにおけるBtoB事業比率は10%以下。これを早期に20%にまで高める計画だという。
3つめは、「AIoTで、地域ニーズに寄り添った海外事業の拡大」への取り組みである。
日本で培ったオープンプラットフォームやサービス基盤を活用し、各地域のニーズに寄り添ったローカルフィットサービスを推進することにより、グローバルにAIoT家電やサービスの拡大を狙うという。2021年度の海外比率は約5割弱だが、2022年度には5割にまで高め、2023年度には逆転させる計画だ。
たとえば、台湾では、日本で展開しているCOCORO HOMEをベースに、ローカルフィット化を図る。シャープ スマートライフグループ アジアスモールアプライアンス事業部長の呉國賢(サム・ウー)氏は、「2022年からは、現地のことをよく知ったメンバーが中心となり、AIoT技術を活用した製品や、COCORO+サービスの提供を台湾で開始する。台湾から日本への旅行者数は10年間で大幅に増加しており、日本の文化にも好意的である。AIoTに関する受容性も高いと考えられる。COCORO+サービスには、人それぞれの生活スタイルや嗜好にあわせた柔軟性もある。現地の文化と融合させ、ローカライズしたソリューションを提供できる」とし、「今後、マレーシアやインドネシア、ベトナムなどにも展開していく」と述べた。台湾では、すでに空気清浄機やエアコンなどの販売実績があるが、2022年秋には、ヘルシオの販売を開始する予定であり、それにあわせてCOCORO HOMEをベースにしたサービスを提供することになる。
また、北米では、現地で主流となっているビルトイン家電を中心に、独自のスマートキッチンを展開。米国の文化、生活、環境にフィットしたAIoT活用を目指す。
Sharp Electronics Corporation (SEC) 家電本部長のJames Sanduski(ジム・サンダスキー)氏は、「日本の商品開発チームと緊密に連携するとともに、米国のライフスタイルにあわせた商品を開発するために、テネシー州メンフィスで、家電の研究開発、設計、製造を行っている。大型冷蔵庫、大型オープン、IHコンロ、レンジフード、食洗機、過熱水蒸気オーブンレンジ、電子レンジなどを提供しており、これだけの製品を提供できる唯一の日本メーカーである。北米におけるシャープの家電の販売実績は過去10年で約2倍に増加している。今後もAIoT家電の開発を強化し、シャープ独自のスマートキッチンを提案していく」とした。
さらに、欧州でのスマートキッチン事業の拡大、中国やインド、米国での空質ビジネスの拡大のほか、今後、白物家電の普及が見込まれるアジアでの展開も強化する。
「3つの重点戦略のうち、最も高い成長率を見込んでいるのが海外である。付加価値のあるブランド商品の比率を高めたい」とした。
環境貢献にも取り組むAIoT技術
一方、AIoTを活用した環境貢献にも取り組む。AIoT技術により、家庭内の消費電力を削減するとともに、太陽光と蓄電池の効率運転により、CO2削減に貢献。気候変動対策に取り組むほか、AIoTが持っている使えば使うほど、商品が進化するメリットを生かし、長期利用と新たな循環型利用サービスを提供し、地球にやさしい企業を目指すとした。
「エアコンでは、これから先の時間帯の温度変化のデータを読み込み、AI制御により、無駄な冷房や暖房を省くなど、ソフトウェアを活用した省エネの広がりに可能性がある。エネルギーソリューションにより、停電対応や省エネ対応を図る」などとした。
シャープのスマートライフ事業は、8Kエコシステム、ICTとともに、シャープが推進する3つのブランド事業のひとつで、白物家電や美容家電、空調関連機器のほかに、太陽電池や蓄電池、HEMSなども担当領域となっている。白物家電事業とエネルギーソリューショュン事業の連携により、エネルギーを効率よく活用し、人と地球に優しいスマートライフの実現を目指すという。
シャープは1956年に白物家電事業を開始し、約65年の歴史を持つ。1966年に発売した国産初のターンテーブル式家庭用電子レンジは、調理が完了した際に「チン」という音を初めて採用。それが一般化し、いまでは「レンジでチン」や「レンチン」という言葉が定着している。さらに、1988年には業界初の左右開き冷蔵庫、2000年には独自技術のプラズマクラスターを搭載した空気清浄機、2004年には独自の過熱水蒸気技術を採用したウォーターオーブン「ヘルシオ」をそれぞれ発売。2012年には、人工知能であるココロエンジンを搭載したロボット掃除機を発売。これがAIoT家電のルーツとなっている。その後、ヘルシオやエアコン、空気清浄機、冷蔵庫などでAIoT対応を図ってきた。
現在では、白物家電事業で培った技術をもとに、BtoB事業を拡大。高齢者施設や幼稚園、保育園などに納入している業務用プラズマクラスター、コンビニ向け業務用レンジ、ホテル向けのコイン式洗濯乾燥機、ホテル向け冷蔵庫、コンビニ向け冷凍ストッカーなどでも実績を持つ。2022年2月には、新たにコインランドリー向け靴用洗濯乾燥機を投入した。海外では、タクシーやライドシェア、鉄道にプラズマクラスター機器を納入しているほか、業務用レンジをファストフード店舗向けに展開したり、小売店舗に設置する冷蔵・冷凍ショーケースも販売。「国内外の事業主の困りごとに対して、白物家電技術とAIoT技術を組み合わせて、ソリューション事業の拡大を進める」としている。