台湾TSMCが設立した、日本で半導体生産を行うJapan Advanced Semiconductor Manufacturing(JASM)に、ソニーセミコンダクタソリューションズが1月25日に初回出資を完了。デンソーも2月15日に10%超の株式を取得することと発表した。

熊本県に設置されるJASMのファウンドリーは、2022年の建設開始を予定しており、2024年末までに生産開始を目指している。

TSMCでは、当初は22nmおよび28nmプロセスでの生産を公表していたが、新たに12nmおよび16nmの FinFETプロセス技術による生産が行えるように能力を強化すると発表。月間生産能力は、300mmウェーハーで5万5,000枚とする計画だ。

TSMCでは、今回の生産能力増強に伴い、同ファウンドリーへの設備投資額は約86億ドル(約9,800億円)になる見込みを発表。日本政府からの強力な支援を受ける前提で話し合いを進めることを示している。

2021年12月の臨時国会で、特定高度情報通信技術活用システムの開発供給・導入促進法」(5G促進法)と、「新エネルギー・産業技術総合開発機構法」(NEDO法)の一括改正により、先端半導体の生産設備にかかる計画の認定基準を追加。事業の実施の確実性、一定期間以上の継続的な生産、需給逼迫時の増産体制、生産能力強化のための投資や研究開発体制、技術上の情報管理のための体制整備などを政府が確認することを前提に、施設整備についても助成できるようにした。NEDOの新たな基金による資金の助成を行い、「事業者による生産設備への投資判断を後押しすることが狙い」としている。

これが、半導体で遅れを取る日本にとって、巻き返しに向けた最初の一歩となる。

  • 動き出す日本の半導体戦略、甘利氏「強国、復活に向けて」展望と課題

    まだ世界で戦うプレーヤーも残るが、「凋落」し、「ジリ貧」も危ぶまれる日本の半導体産業

半導体産業のミッシングリンクを解消する

日本における半導体製造を巡る動きについては、臨時国会が開催されていた2021年12月に開催されたSEMICON Japan 2021 Hybridで、岸田文雄首相が、初めて半導体製造技術展でメッセージを発信。オープニングキーノートでは、自由民主党半導体戦略推進議員連盟の甘利明会長が「半導体強国、復活に向けて」と題して講演。また、経済産業省商務情報政策局審議官(IT戦略担当)の藤田清太郎氏が「我が国の半導体・デジタル産業政策とその具体的取り組みについて」と題した講演を行い、日本が置かれた状況や政府の施策について説明した。主催者であるSEMIジャパンによると、オープニングキーノートには、リアル会場には過去最多となる721人が参加。94.9%が内容に満足と回答したという。会期中には延べ8,000人がセミナーに参加するという関心の高さをみせた。

  • 自民党 半導体戦略推進議員連盟の甘利明会長

甘利会長は、「日本は、半導体材料では世界の6割のシェアを抑え、製造装置は3分の1を抑えている」と切り出した。実際、日系企業のシェアは、シリコンウェハで約6割、レジストで約7割、封止材で約8割となり、半導体製造装置でも塗布装置で約9割、CVD装置で約3割、エッチング装置で約3割のシェアを持つ。

「だが、半導体そのものでは遅れがある。半導体の進化に対する戦略策定と、日本の半導体産業のミッシングリンクを解消することで大切である」と指摘。「研究開発に予算を投じることはあっても、製造工程に国費を投じたことはなく、そのために法律を作って、予算を計上することになる。2021年12月の臨時国会の最大の法案はTSMCに国費を投入することを可能にするための法律を作ることであった。台湾のTSMCが熊本に工場を建設し、その半分を国費で補填する」と語る。

そして、「10年前の技術である22nmと28nmの生産ラインを作ってもらうために国費を出すだけでは終わりたくない。そこで意味を持つのがソニーである。今後は、CMOSセンサーをどうやってインテリジェント化するかが重要であり、これによって、エッジ環境において、最先端を走ることができる。インテリジェントセンサーを自動運転車に搭載したり、スマートファクトリーにも装填したりすることにも期待している。そのための生産拠点になる」などと述べた。

この言葉からもわかるように、JAMSへの投資が、半導体の進化に対する戦略策定の第一歩ということになる。

甘利会長が指摘したもうひとつの課題であるミッシングリンクの解消では、「日本の課題は、3nmや2nmといったハイエンドロジックのファウンドリーがない点である」とし、「そこに日米連携が浮上する。米国の技術を引き込み、日本の技術と融合させて、超ハイエンドのファウンドリーを作りたい。これがミッシングリンクを埋めることにつながる」とする。

10年間で最低7兆円、できれば10兆円の投資

主要国では、半導体分野に向けて、大規模な産業政策が実施されている。

  • 各国がすでに政策として大規模な半導体支援を加速している状況

米国では、1件あたり最大3,000億円という補助金や、多国間半導体セキュリティ基金の設置を含む国防授権法を可決。さらにバイデン政権では、5兆7,000億円の半導体投資を含む米国イノベーション・競争法案も成立に向けた動きが見られている。中国との長期的な競争を念頭に、米国内の半導体産業を強化するための取り組みが加速していることが浮き彫りになる。

欧州では、2030年に向けたデジタル戦略のなかで、ロジック半導体、HPC、量子コンピュータなどに1,345億ユーロ(約17兆5,000億円)を投資することを決定。2021年9月には、欧州委員長により、新欧州半導体法の制定が宣言され、製造を含む欧州の最先端チップおよびエコシステムの構築を目指し、欧州半導体研究戦略の策定や、供給の安全の確保、欧州の画期的技術のための新たな市場発展につなげることについて、欧州各国が合意している。

それに対して、中国では、国家集積回路産業投資基金を設置し、半導体関連技術に5兆円を超える大規模投資を計画。これに加えて、地方においては、5兆円を超える半導体産業向け基金を用意しているという。

「日本はいま、半導体の国家戦略を作っているところであり、この10年間の投資は、最低でも官民あわせて7兆円、できれば10兆円は必要である。官で5兆円、民で5兆円となる。そうしないと半導体の国際競争を勝ち抜けない」と言い切る。

経済産業省では、2021年11月に、半導体産業基盤緊急強化パッケージを公表した。

半導体産業基盤緊急強化パッケージでは、今後の成長が期待される分野に向けて生産ポートフォリオを緊急強化する「IoT用半導体生産基盤の緊急強化」、2025年以降の社会実装を目指し、日米連携プロジェクトによって次世代半導体技術の習得と国内での基盤確立を目指す「日米連携による次世代半導体技術基盤」、2030年以降をターゲットとした「グローバル連携による将来技術基盤」の3つのステップで進めることになる。

ステップ1の「IoT用半導体生産基盤の緊急強化」では、材料メーカーや半導体装置メーカーは、世界トップレベルの競争力を有しているが、半導体の製造拠点、技術基盤が不足しているのが日本の大きな弱点であることを指摘。「高性能な半導体の生産能力の確保によって、日本の産業基盤の強靭化や戦略的自律性、不可欠性の向上の観点から大変重要である」として、先端半導体の製造拠点の整備に取り組むことで、直接の取引先である国内の部素材メーカー、装置メーカー、周辺の半導体関連企業の活性化に加えて、地域での雇用創出効果も目論む。日本に半導体関連産業の集積や、エコシステムの形成を進めていくことになる。

そして、そのためには、他国に匹敵するための支援とそれを支える法的枠組みを構築し、複数年度に渡る継続的支援を行う必要があるとする。また、「各半導体メーカーの既存の製造基盤は、サプライチェーン上、不可欠なものになっている。これらにかかるリスクへの適切な対処が必要であり、半導体メーカーによる生産性向上により、安定供給につながるような製造装置の入れ替え、増設に対する支援策も必要である」とも指摘している。

ステップ2の「日米連携による次世代半導体技術基盤」では、2020年代中盤から後半の実用化を目指して、海外ファウンドリーと連携して先端半導体製造プロセスの前工程の微細化技術、後工程の3Dパッケージ技術、次世代パワー半導体の技術開発を行う。いずれもNEDOのポスト5G情報通信システム基盤強化研究開発基金や、グリーンイノベーション基金を活用して、国としても支援していくことになる。

ここでは、日米連携が必要であり、産総研による研究開発やコンソーシアムを通じて連携を強化。つくばでは産総研によるBeyond 2nmに向けた研究開発コンソーシアムも活用していく。

甘利会長はこんな指摘もする。

「データドリブンの社会が進展するなかで、データの安全性の問題は、経済安全保障そのものである。DX、半導体、経済安全保障は三位一体で捉えなくてはならない」とし、「米国とは緊密に話をしているが、オランダ、フランス、ドイツ、オーストラリアからも問い合わせがあった。西側連携が進んでおり、このなかに、経済安全保障上、リスクがある国が入ってくると、システム全体が大きなリスクにさらされ、国や機能がサプライチェーンからデカップリングされるケースが出てくる。米国は情報漏洩のリスクを極小化するために、サプライチェーンに経済安全保障上の責任を持たせようとしている」と指摘した。

甘利会長によると、2021年には、日本のエレクトロニクスメーカーが、米国国防総省から、1,000億円近い契約を解除されたという。「その理由は、納入企業には、米国防総省が求めるサイバーセキュリティ基準を満たしておらず。その企業から納入するとマルウェアが組み込まれる危険性が排除できないということだった。技術は良くても、サイバーセキュリティ基準が満たされていないとデカップリングされる時代に入ってきている。それは企業だけでなく、国全体もそうである。機微技術の共同研究をしていくのに、日米で組んだ際に、日本側に米国が求めるセキュリティ基準に達していない場合には、日本から情報が洩れる可能性を指摘され、手を組めないという話になる」と語る。そして、「半導体に関わる企業は、納入している製品のサプライチェーン全体が、サイバー攻撃から逃れることができるということを証明しなくてはならない。よりナーバスに考えなくてはいけない」とする。

半導体産業の復興に向けて日米連携を推進するには、日本の企業の姿勢、国の姿勢も、経済安全保障の観点から、より強固なものにすることが前提になるというわけだ。

  • 強みのある分野でも、空洞化の懸念が

そして、ステップ3の「グローバル連携による将来技術基盤」では、ゲームチェンジとなる将来技術の開発を進める。具体的には、2030年以降に向けた研究開発のトレンドとなっている光電融合技術の研究開発にさらに取り組むことになる。経済産業省の藤田審議官は、「欧米の代表的な研究組織は、グローバル企業との産学連携を進めており、こうした取り組みを参考にしたい。半導体オープンイノベーションに関する枠組みを早急に立ち上げて、経済産業省や文部科学省、企業、大学、国立研究所が連携して、官民の適切な負担のもとで次々世代に向けた基礎研究から、直近の実用化を見据えた研究開発を戦略的に推進していくことを考えている」とし、「これらの活動を継続的に発展するには、事業環境の整備が必要であり、電力コスト対応、再エネ調達促進、産学官の人材や物流面でのグローバルに、有機的に連携する体制の構築が必要になる。どんな課題があるのかを認識して取り組んでいく必要がある」と語る。

失われた30年、巻き返しはこれが最後のチャンス

日本は、半導体市場において、1980年代後半には、世界の50%のシェアを持っていた。だが、半導体市場が成長するなかで、2019年には10%のシェアにまで落ち込んでいる。

この背景にあるのは、日米貿易摩擦によるメモリでの敗戦、諸外国が国家的育成事業に早くから取り組んだのに対して、日本の政策が十分ではなかったこと、産業界における設計と製造の水平分業への対応の遅れ、デジタル産業化の遅れ、日の丸自前主義へのこだわり、国内企業の投資縮小などだ。

その一方で世界の半導体市場は、PCやインターネット、スマホ、データセンターといったデジタル化の急速な進展により、右肩あがりで成長し、その勢いはますます加速する見られている。2030年には、現在の2倍となる100兆円の市場規模が見込まれている。

  • 成長から取り残され、いまや縮小すら見られる日本の半導体産業

「現在のボリュームゾーンは、スマホやPC、データセンター、5Gインフラで使用されるロジック半導体やメモリであるが、ここは米国、台湾、韓国が市場を席巻している。今後、5Gやポスト5G基盤の上に、エッジコンピューティングやアプリケーション、自動運転やEVなどの車載関連、IoTやロボティクスなどの産業機械向け分野、スマート家電などのエッジデバイスなどが、新たな半導体需要の成長を担うことになる。この領域が日本にとって、参入機会のラストチャンスになる」(経済産業省の藤田審議官)と危機感を募らせる。

  • 新たな半導体需要の成長、これが最後の参入チャンス

そして、「半導体は様々な製品に組み込まれており、デジタル社会を支える重要な基盤であり、あらゆる産業の下支えをしている。また、国民生活に必要不可欠な基盤であるということは、安全保障にも直結する死活的に重要な戦略技術である。だからこそ、政府としてもしっかりとした産業政策が必要になる。今後は成長市場を見極めて、日本の強みを生かして、低下傾向を食い止め、反転させる必要がある。その具体的な戦略が必要になっている」と警鐘を鳴らす。

  • 半導体はデジタル社会を支える重要基盤であり、安全保障にも直結する死活的に重要な戦略技術。これまでの日本はこれを後回しにしてしまった

日本の半導体産業は巻き返すことができるのか。30年間の遅れの溝を埋める取り組みは、並大抵のことではないのは明らかだ。