「旅先などで写真を撮影した際、他の人が写ってしまった」。こういうケースは、ほとんどの人が経験したことがあると言っていいのではないでしょうか。家族だけでこうした写真を共有する場合は問題はありませんが、不特定多数が閲覧するインターネット上で公開するとなれば、肖像権やプライバシーの問題が起こってきます。いわゆる「写り込み」の問題です。

今回は、こうした写真をブログにアップしたい場合、どのような対応をすればいいかについて考えていきます。写り込んだ人物が誰であるか特定できるかどうかが焦点となります。(編集部)


【Q】旅先での写真をブログにアップしたいのですが、他の人の姿が…

観光旅行に行ったときに撮った写真やビデオ映像を、私個人が趣味で作っているブログにアップして掲載したいと思っていますが、その中に他の観光客の写り込んだものがあります。私のブログは旅行先の雰囲気を紹介する全くの趣味サイトなのですが、これらの写真やビデオ映像は、そのまま掲載しても大丈夫でしょうか?


【A】権利侵害の恐れがあるので、個人が判別できないようにしましょう。

個人が特定できるような写真や映像をウェブページで公開することは、肖像権またはプライバシー権侵害となることがあります。画像の解像度を落としたり、ぼかしやモザイクなどの画像処理を行ったりして、個人が判別できないようにしておくのがよいでしょう。


何が問題となるのか?

ご質問のケースでは、写真やビデオに写り込んだ人の、いわゆる「肖像権」が問題となります。肖像権とは、自己の容ぼうや姿態を、みだりに他人に撮影されたり、公表されたりしない人格的利益を指します。肖像権をプライバシー権の一つとして位置づける見解も有力ですが、ここでは端的に肖像権の語を用いて説明することとします。

なお、民間事業者がホームページに写真などをアップする場合には、小規模事業者の場合を除き、さらに個人情報保護法が適用されることがあることに注意して下さい。これに対し、本件では、あくまでも個人が趣味で作っているブログにすぎず、この法律の適用はありませんので、以下ではテーマを肖像権に限定して説明します。

肖像権とは?

実は、肖像権という言葉自体は、憲法や法律のどこにも規定されていません。しかし、上記のような肖像写真に関する個人の利益が、少なくとも人格的利益として保護に値することはほぼ争いのないところです。

最高裁の古い判決にも、刑事事件に関するものですが、何人も、その承諾なしに、みだりにその容ぼうなどを撮影されない自由を有するとした上で、警察官が正当な理由もないのに個人の容ぼうなどを撮影することは憲法第13条の趣旨に反して許されないとしたものがありました(京都府学連事件の最高裁昭和44年12月24日判決)。

そして、上記判決以降、民事事件においても、実質的に肖像権の保護を認める下級審の裁判例が相次ぎ、最高裁も、民事事件において、人は、みだりに自己の容ぼうなどを撮影されないことや、自己の容ぼうなどを撮影された写真をみだりに公表されないことについて、法律上保護されるべき人格的利益を有することを明らかにするに至っています(和歌山毒カレー事件報道事件の最高裁平成17年11月10日判決)。

したがって、いわゆる肖像権は、それが明確な権利性を有するといえるかどうかはともかく、少なくとも法律上保護されるべき人格的利益であることは明らかであり、その侵害に対しては、損害賠償や差止めの請求があり得ることになります。

肖像権の保護範囲

もっとも、そのような肖像権の保護にも一定の制約があることは当然です。

この点、前記の和歌山毒カレー事件報道事件最高裁判決は、「ある者の容ぼう、姿態をその承諾なく撮影することが不法行為法上違法となるかどうかは、被撮影者の社会的地位、撮影された被撮影者の活動内容、撮影の場所、撮影の目的、撮影の態様、撮影の必要性などを総合考慮して、被撮影者の上記人格的利益の侵害が社会生活上受忍すべき限度を超えるものといえるかどうかを判断して決すべき」としています。

したがって、肖像権に対する侵害が違法となるかどうかは、このような比較考量により、受忍限度を超えているかどうかで判断されることになると考えられます。

今回の質問のケースは?

今回のご質問のケースは、単に旅行先の雰囲気を紹介するために写真などを掲載するというものですので、上記のような報道目的での写真の掲載と同一に扱うことはできません。これを前提に、以下、ケース分けをして解説します。

1. 写り込んだ人物が誰であるか特定できない場合

まず、そもそも写真やビデオに写り込んだ人物が誰であるか特定できない場合は、誰が本人なのか特定できないので、肖像権の侵害が問題となることは考えられません。また、仮に侵害があると仮定しても、権利侵害の程度が低いことから、特段の事情のない限り受忍限度の範囲内といえますので、肖像権侵害は成立しないものと考えられます。

2. 写り込んだ人物が誰であるか特定できる場合

次に、写真やビデオに写り込んだ人物が誰であるか特定できる場合ですが、この場合には肖像権侵害が問題となり得ます。

この点、観光地などを訪れている観光客は、他の観光客の撮影する写真やビデオ撮影に写り込むことがあることは十分に予知しているといえます。もっとも、そのようにして撮影された写真などがブログ等で広く公開されることまでは一般には承諾したものとはいえないと考えられますので、個人が特定できる態様での利用の場合、撮影された観光客の行動の様子や写り込みの態様によっては、肖像権侵害となる可能性も否定できないものと考えられます。

結論

したがいまして、他の観光客の写り込んだ写真やビデオをブログで公開する場合には、画像の解像度を落としたり、ぼかしやモザイクなどの画像処理を行ったりして、個人が判別できないようにしておくのが望ましいでしょう。

(木村栄作/英知法律事務所)

弁護士法人 英知法律事務所

情報ネットワーク、情報セキュリティ、内部統制など新しい分野の法律問題に関するエキスパートとして、会社法、損害賠償法など伝統的な法律分野との融合を目指し、企業法務に特化した業務を展開している弁護士法人。大阪の西天満と東京の神谷町に事務所を開設している。 同事務所のURLはこちら→ http://www.law.co.jp/