膨大な種類が存在するプラグインエフェクト、現在のDAWソフトならば同時に複数使うこともできるが、ソフトウェアである以上はCPUの処理能力が問題となる。今回はCPU負荷を低減できる、DAWソフトならではのエフェクト機能について紹介しよう。
エフェクト処理にはリアルタイムとノンリアルタイムが存在
製品によって多少の違いはあるが、現在のDAWソフトの基本的な概念としては、トラック/バスに好みのエフェクトをセットすることができる。たとえばインサーションエフェクトであれば各トラック→エフェクト→ミキサーと音声信号が流れることになるが、この場合、各トラックにはオーディオデータが貼り付けられている。このオーディオデータを"楽器"と読み替えれば、ギターに接続するハードウェアとしてのエフェクト、と同じであることがわかるだろう。
各エフェクトは入力された音声信号、つまりオーディオデータをその場で処理し、変化させ、出力する。つまりリアルタイムで処理しているため、これをリアルタイムエフェクト、などと呼ぶ。このリアルタイムエフェクトは楽器音をレコーディングするなどして用意した、オリジナルのオーディオデータを書き換えないのがメリットだ。
ただし、処理としてのリアルタイムエフェクトにはデメリットもある。それはリアルタイムで処理しているため、どうしてもCPUに負荷がかかることだ。プロジェクト中に複数トラックがあり、それぞれに複数のエフェクトをセットしている場合、CPUの処理能力の限界を超えてしまう場合がある。そういう状況に陥ってしまうと、再生が途切れるなど問題が発生する。
では、そうならないためにはどうすればよいか。DAWソフトにはそのための選択肢も用意されており、それがノンリアルタイムエフェクトと呼ばれるエフェクトの使い方。これはオーディオデータをエフェクトが適用された状態に書き換えてしまう方法だ。
「SONAR 6 Producer Edition」ではトラックのFX欄にエフェクトをセットしておき、特定のオーディオデータを選択した状態で「オーディオエフェクトの反映」を実行すると、ノンリアルタイムエフェクト化が行われる |
ノンリアルタイムエフェクトとすると同時に、FX欄のエフェクトを外す設定も可能となっている |
いったんオーディオデータを書き換えてしまえば、トラックにセットしたエフェクトは不要となるため、エフェクトを外すことでCPU負荷を低減できる。この方法ですべてのトラックのエフェクトをノンリアルタイム化してしまえば、CPU負荷としては単純にオーディオデータを再生するのと同じになるわけだ。
CPU負荷を低減し、使い勝手にも優れるフリーズ機能
ノンリアルタイムエフェクトはCPU負荷の低減という意味では効果が大きいが、その反面、もちろんデメリットもある。それはオリジナルのオーディオデータを書き換えてしまうということ。
もちろんDAWソフトの操作で「元に戻す(アンドゥ)」することは可能ではあるものの、曲作りの工程を考えれば、全トラックのオーディオデータをオリジナルに戻すことは実用上は難しい。そのため、必要に応じてオリジナルをコピーして残しておくことになる。また、いったんオーディオデータを書き換えてしまうと、たとえばミキシング中にエフェクトのパラメータを再調整する、といったこともできない。
ところが、最近のDAWソフトにはリアルタイムエフェクトの便利さと、ノンリアルタイムエフェクトのCPU負荷低減、このメリットを両立できる処理が用意されている。それがフリーズと呼ばれる方法だ。
このフリーズとは、簡単な操作でエフェクトが適用された状態にオーディオデータをいったん書き出しておき、エフェクトを外してCPU負荷も低減する、という機能。オーディオデータを書き換えるという点ではノンリアルタイムエフェクトと同じなのだが、逆にワンタッチで元に戻すことも可能なのだ。これはアンフリーズなどと呼ばれる。
SONAR 6ではフリーズしたいトラックを右クリックして「フリーズ」から「トラックのフリーズ」を実行するだけでフリーズ処理ができる |
フリーズ中のトラックにセットされたエフェクトはグレーアウトで表示され、このままではパラメータの変更などはできない。また貼り付けられたオーディオデータは波形が変化し、エフェクト処理が適用された状態であることがわかる |
このフリーズ/アンフリーズにより、オリジナルのオーディオデータをコピーして管理するといった手間が省け、CPU負荷も低減できる。またフリーズ中はエフェクトのパラメータを調整して音を変えることはできないのだが、いったんアンフリーズすればそれが可能となる。アンフリーズ→エフェクトの調整→再びフリーズ、といった手順を繰り返すことで、リアルタイムエフェクトとノンリアルタイムエフェクトのよいとこ取りができるシステムなのだ。
このフリーズ、今回はSONAR 6を例に紹介したが、Cubaseシリーズなどにも用意されている。またエフェクトに限らず、CPUへの負担が高いソフトシンセに対しても使えるため、曲作りにおいてかなり役立つ機能だ。