ピアノやギターといった楽器を用意しなくても、パソコンだけでさまざまな音色を演奏し、曲作りが可能となるソフトシンセ。今回からはDTMに不可欠ともいえる、ソフトシンセの基本について確認してみよう。

ソフトシンセってそもそもなに?

音楽を演るには楽器が必要、当たり前のようではあるが、それがある意味では当てはまらないのがパソコンでの音楽制作だ。パソコンでは楽器やマイクを接続して録音、つまりオーディオレコーディングで音楽を製作することももちろんできるが、それ以外に音源としてソフトシンセというものを使い、さまざまな楽器音を再現しながら曲を作っていくこともできるからだ。

ソフトシンセとはそもそもソフトウェアシンセサイザの略で、機材としての(ハードウェア)シンセサイザに対する言葉。わかりやすい例を挙げれば、あるハードウェアシンセサイザがあったとして、その出音や動作をプログラム化し、パソコン上で再現したものである。そのため現在では入手が難しい、またメンテナンスなどの面で使いづらい、いわゆるビンテージシンセなどもソフトシンセとしてリリースされており、手軽に使えるため人気を呼んでいる。

コルグの「microX」はコンパクトなハードウェアシンセサイザだがUSBポートも備え、パソコンからの音色エディットや、microX上のノブでDAWソフトのリモートコントロールも可能と多機能だ

アナログシンセ黎明期の製品として知られるMoog Modularのサウンドを再現したArturiaのソフトシンセ「Moog Modular V」

また、ソフトシンセはソフトウェア音源と呼ばれることもある。これは正確にはソフトシンセだけではなく、さまざまな楽器音を録音し、そのデータをサンプルファイルとして使うタイプのソフトであるソフトサンプラーも含む、もう少し広義の言葉だ。つまりソフトシンセとソフトサンプラーというのは厳密には違うタイプのソフトだが、パソコンで音源として使えるソフト=ソフトシンセとひとくくりにされていることも多いようだ。この記事では、特にソフトシンセとソフトサンプラーの区別はせず、取り上げていくことにする。

合計4GB以上ものサンプルライブラリが付属し、フィルタやモジュレーション、エフェクトを利用して強力な編集も可能となっているSteinbergのソフトサンプラー「HALion 3」

ソフトシンセならではのメリットがいろいろ

ソフトシンセを使うことにはいろいろとメリットが多い。まずは先に述べたように、パソコンだけで完結すること。これは楽器やハードウェアシンセサイザを購入するコストがかからないという点もあるが、音楽を生業としているわけではないアマチュアには機材の設置や保管場所でもメリットがある。大型のハードウェアシンセサイザを複数セッティングし、常に音が出せるようにしておくのは、一般家庭ではなかなか難しいはずだ。

Propellerheadの統合型ソフトシンセ「Reason」は仮想ラックにさまざまなシンセだけでなく、ミキサーやエフェクトまで含めて複数の機材を組み込み、自分だけの環境を作り出すことができる

さまざまなソフトシンセを同時に使えるのもポイントだ。ソフトシンセは1本でもさまざまな音が出せ、たとえばドラムを鳴らすにしても複数のドラムセットが用意されており、すぐに音色を切り替えることができる。さらに複数のソフトシンセをパソコンにインストールしておけば、それだけ使える音色が増えるわけだ。

そしてソフトシンセは持ち運びも手軽だ。なにせパソコンの中にインストールされているので、ノートパソコンならどこにでも持っていける。MIDIキーボードなどを接続すればリアルタイムで演奏できるので、ステージ上で曲によりさまざまな音を使い分けたいといったことが実現できる。

もちろん、ソフトシンセを購入するにもコストがかからないわけではない。ただ、一部の高価なソフトシンセを除けば、実際に楽器やハードウェアシンセサイザを購入するのに比べ、手軽なものが多い。たとえばグランドピアノを曲作りに使いたいと思ったとき、手軽に本物のグランドピアノを買うわけにはいかないだろうが、グランドピアノの音色が含まれているソフトシンセは安価なものでもたくさんある。中には無料で使えるフリーソフトのソフトシンセまであるほどだ。

アナログシンセを再現した「Synth1」は2基のオシレータを搭載、無料で使えるフリーソフトのソフトシンセだ

また、詳しくは次回以降に解説するが、音楽制作に広く活用されるDAWソフトには多くのソフトシンセがバンドルされていることがほとんどだが、さらに追加することもできる。これにより、使い慣れた環境でどんどん新しいサウンドを加えていくことができるのだ。次回からは、そのあたりについてもう少し詳しく触れていこう。