米アップルは2022年10月18日に新製品を発表し、「iPad」「iPad Pro」の刷新を図りました。ですが、急速に進んだ円安の影響によって、新しいiPadは前モデルの発売時の価格と比べ4割近く値上がりし、エントリーモデルとは言えない価格となってしまいました。競合他社が低価格タブレットで攻勢をかけるなかにあって、iPadが“定番タブレット”の座を維持し続けられるのでしょうか。

  • 10月27日に販売が始まった第10世代の「iPad」。チップセットの性能こそ違えど、ホームボタンやLightning端子の廃止など「iPad Air」に近い内容となっている

大幅リニューアルと円安で7万円近い値段に

新しいiPhone「iPhone 14」シリーズの発売からおよそ1カ月となる2022年10月18日、アップルは再び新製品の発表を実施しました。今回の新製品発表はイベントなどもなく、リリースのみでの発表となるなど地味ではありましたが、いくつか注目すべき要素もありました。

なかでも注目されたのが、iPadの新製品でしょう。アップルは今回の発表で、エントリーモデルの「iPad」の第10世代モデルと、プロユースに向けた11インチ「iPad Pro」第4世代、12.9インチiPad Proの第6世代モデルを発表していますが、とりわけ大きく変わったのがiPadです。

第10世代iPadは、指紋認証の「Touch ID」に用いるセンサーを電源キーと一体化したことで前面のホームボタンがなくなり、ディスプレイサイズが10.9インチとより大画面化がなされたほか、チップセットには「iPhone 12」シリーズなどに搭載されていた「A14 Bionic」を採用。そして、充電や周辺機器の接続に用いる端子が、LightningからUSB Type-Cに変更され、iPadシリーズでの端子の統一がなされています。

  • 第10世代iPadは、前面のホームボタンを廃止して大画面化を図り、接続端子をUSB Type-Cに変更するなどの改良が加えられた

ホームボタンの廃止やUSB Type-C端子の採用などは、上位モデルの「iPad Air」シリーズですでに実現していること。対応する「Apple Pencil」が第2世代ではなく従来通り第1世代のみで、充電するには別売のアダプターが必要というのはやや意外な印象も受けましたが、基本的にはiPad Airのボディをベースに共通化を図り、コスト効率化を進めながらも大幅なモデルチェンジを実現したものといえそうです。

ですが、気になるのはやはり価格です。アップル製品は、ここ最近の急速な円安を受けて大幅な値上げが進んでいますが、第10世代iPadの価格もその例に漏れず68,800円からと、1つ前のモデルとなる第9世代iPadの発売当初の価格(39,800円から)と比べ4割近く値段が上がってしまっています。

もちろん、第10世代iPadはドルベースでの価格でも449ドルと、機能やデザインの変更、そして米国で進んでいるインフレの影響などによって、第9世代iPad(329ドル)からアップしており、価格上昇は円安だけが原因ではないことは断っておく必要があります。ですが、7万円近い価格となると、もはや“購入しやすいエントリー向けモデル”とは言えなくなってしまったことは確かでしょう。

安価なタブレットを投入する競合、アップルの対抗策は旧機種か

その一方で、ここ最近は競合他社から低価格のタブレットが相次いで投入されており、エントリー向けタブレットの競争は激化しつつあります。実際、中国のシャオミは、第10世代iPadの発表からわずか3日後の2022年10月21日に新しいタブレット「Redmi Pad」を発表しています。

これは、シャオミの低価格ブランド「Redmi」を冠した、コストパフォーマンスの高さが特徴のタブレット。採用するチップセットはメディアテックの「Helio G99」で性能的にはミドルクラスのようですが、10.61インチ、90Hzのリフレッシュレートを誇るディスプレイを搭載し、「Dolby Atmos」対応のスピーカーを搭載するなど、映像を楽しむ上での性能には力が入れられています。それでいて、希望小売価格は最も安いRAM3GB、ストレージ64GBのモデルで39,800円と購入しやすくなっています。

  • シャオミは2022年10月21日に新しいタブレット「Redmi Pad」の国内投入を発表。性能は高いわけではないが、軽量で映像や音楽を楽しめる機能が充実しており、最も安いモデルは希望小売価格が4万円を切っている

同じ中国のオッポも2022年9月30日に、日本市場では同社初となるタブレット「OPPO Pad Air」を発売しています。こちらも10.3インチと、第10世代iPadに近い画面サイズでDolby Atmos対応のスピーカーを搭載しており、性能はあまり高くないものの、価格は37,800円と、やはり4万円を切る価格を実現しています。

  • オッポが2022年9月30日に発売した「OPPO Pad Air」。こちらも10インチクラスのタブレットで性能はそれほど高くないものの、価格は4万円を切っており購入しやすい

また、グーグルも2023年にPixelシリーズ初のタブレット「Pixel Tablet」を投入予定だというのも気になるところです。現時点で明らかにされているのは、グーグル独自のチップセット「Tensor G2」を搭載することくらいで詳細はまだ不明ですが、グーグルが日本市場開拓を積極化していることもあり、円安の中にあって「Pixel 7」シリーズを比較的購入しやすい値段で投入したことを考えれば、Pixel Tabletも手ごろな価格で投入されることが期待できるからです。

アップル製品は、ユーザーの忠誠心が高いことでも知られていますが、急速な円安による物価上昇で家計が厳しいという家庭も増えているだけに、値上げが著しいアップル製品にこだわってはいられないという人が今後増えてくることも考えられます。とりわけ、タブレットはスマートフォンと違って、映像視聴やビデオ会議など用途がある程度限定されていることから乗り換えもしやすく、競合他社による低価格価格攻勢によってシェアが奪われる可能性はiPhoneより高いといえます。

もちろん、アップルもそうした競合への対抗策を打っていない訳ではなく、それが併売される第9世代iPadになります。実は今回の新製品発表に合わせて、現行の「iPad mini」「iPad Air」の再値上げがなされているのですが、第9世代iPadだけは再値上げがされず4万9800円に価格が据え置かれているからです。

こうしたアップルの姿勢を見るに円安が進む当面の間、日本では旧世代のiPadでエントリー層をカバーしていきたい方針なのではないかと考えられます。ですが、さらなる円安が進めば第9世代iPadの値上げも余儀なくされる可能性があるだけに、日本市場でのシェア維持に向けてアップルには難しい判断が求められることとなりそうです。