台湾エイスーステック・コンピューター(ASUS)は2022年9月30日、最新のゲーミングスマートフォン「ROG Phone 6」シリーズ2機種を国内で販売することを発表しました。かつては「Zenfone」シリーズでSIMフリー市場を席巻した同社ですが、最近はゲーミングスマートフォンに注力する姿勢を見せています。なぜでしょうか。

最新の「ROG Phone 6」を東京ゲームショウでいち早く展示

2022年9月15日からの4日間にわたり、3年ぶりにリアルで開催された「東京ゲームショウ2022」。以前よりも規模を縮小しての開催とはなりましたが、それでも4日間で10万人を超える来場者が訪れ、大きな注目を集めたようです。

その東京ゲームショウでは、ゲームに関連したさまざまな展示がなされていたのですが、スマートフォン関連で注目されたのが、快適なゲームプレイの実現に特化したゲーミングスマートフォンであり、なかでも日本で発表前の新製品を展示していたのがASUSです。実際同社は、ゲーミングスマートフォン「ROG Phone」シリーズの最新モデル「ROG Phone 6」を、東京ゲームショウの会場でいち早く展示していました。

  • 「東京ゲームショウ2022」では、ASUSのゲーミングブランド「ROG」のブースに「ROG Phone 6」が展示されていた。国内正式発表前の展示とあって注目を集めていた

同機種は、海外では2022年7月に発表されたもので、クアルコム製のハイエンド向け最新チップセット「Snapdragon 8+ Gen1」と6,000mAhの大容量バッテリー、上位モデルの「ROG Phone 6 Pro」は18GBのRAMと512GBのストレージを搭載するなど、非常に高い性能を備えています。それでいて冷却機能に力が入れられており、パフォーマンスの低下を防ぎ長時間ゲームをプレイしやすくなっているのが特徴です。

  • ROG Phone 6はゲーミングに特化し非常に高い性能を備えながらも、冷却に力を入れパフォーマンスの低下を防いでいるのが特徴。背面のデザインもゲーミングデバイスならではだ

その後、ROG Phone 6シリーズは2022年9月30日に国内での正式発売が発表されたのですが、ゲームショウの開催は正式発表前でした。国内発表に先駆けてROG Phone 6を展示し積極的にアピールする様子からは、同機種に対するASUSの力の入れ具合を見て取ることができるでしょう。

ASUSは、ゲーミング関連の独自ブランド「ROG」を掲げ、パソコンや周辺機器などゲームに関連する機器を多数提供するなど、ゲーミングには非常に力を入れていることから、スマートフォンでもゲーミング市場を積極開拓するべくROG Phoneシリーズの提供に力を入れるというのは自然な流れだともいえます。ですが、最近ではROG Phoneシリーズの方が、スタンダードなスマートフォンの「Zenfone」シリーズよりも目立つようになってきているのが気になるところです。

価格競争を避け、ニッチかつハイエンドに特化

Zenfoneシリーズといえば、かつてSIMフリースマートフォン市場で高い人気を博し、一時は米国から制裁を受ける前のファーウェイ・テクノロジーズと1、2を争う高いシェアを獲得していました。それだけになぜ、同社のスマートフォンの主軸がZenfoneからROG Phoneに変化しているのか?という点には疑問を抱く人も多いかと思います。

  • かつて「Zenfone」シリーズで国内のSIMフリースマートフォン市場を席巻していたASUSだが、現在その存在感は大幅に低下している

そこに大きく影響しているのは、やはり価格競争でしょう。シャオミやオッポといった中国メーカーがコストパフォーマンスの高いスマートフォンを世界各国で投入するようになったことで、ソニーやLGエレクトロニクス、HTCなど多くのスマートフォンメーカーが苦境に追い込まれ、事業撤退や規模縮小を余儀なくされました。

ASUSも例外ではなく、価格競争の影響でスマートフォン事業は赤字が続き、苦しい状況にあることに変わりありません。それゆえ同社は、以前のミドル・ローエンドを主軸とした戦略から、ニッチながらも性能が高く値段も高い、ハイエンドを主軸としたスマートフォンに注力するようになりました。

その傾向は、ここ最近のZenfoneシリーズからも見て取れます。例えば、2019年発売の「ZenFone 6」や2021年発売の「Zenfone 8 Flip」などは、背面のカメラが回転してフロントカメラとしても使えるフリップカメラの機構が特徴となっていました。また、2022年に海外で発表された「Zenfone 9」は、チップセットにROG Phone 6と同じ「Snapdragon 8+ Gen 1」を搭載しながら、ディスプレイサイズが5.9インチという、販売不振で「mini」が姿を消したiPhoneの逆を行くコンパクト・ハイエンドモデルとなっています。

  • 2019年発売の「Zenfone 6」からは、背面カメラが回転してフロントカメラも担うフリップカメラ機構に注力。2021年発売の「Zenfone 8 Flip」まで同様の機構が採用されている

そして、ゲーミングスマートフォンのROG Phoneシリーズも、スマートフォンでのゲーミングにこだわる人と明確にターゲットを絞っており、価格は高いですが性能も非常に高いという、やはりニッチかつハイエンドな分野に注力していることが分かります。モバイル通信の重要性が高まる5G時代、自らスマートフォンを手掛けることは他の事業にもメリットとなり得るだけに、今後もASUSは特徴ある製品に特化し、利益重視の姿勢でスマートフォン事業を継続していくのではないでしょうか。

ただ、そこで気になるのは、ASUSが得意とするゲーミングの分野でも中国メーカーの攻勢が激しくなっていることです。実際、東京ゲームショウの会場には、シャオミから出資を受けている中国のブラックシャークの日本法人が、同社製のゲーミングスマートフォン「Black Shark 5」シリーズを展示していました。

  • 東京ゲームショウ2022には、ブラックシャークの日本法人が「Black Shark 5」を出展。性能はROG Phone 6と比べて落ちるが、その分販売価格は69,800円とかなり安い

ほかにも、ZTE傘下のヌビアテクノロジーなど、ここ最近はゲーミングスマートフォンを提供する中国メーカーは増えてきています。シャオミもゲーミングスマートフォンとはうたっていないものの、最新機種の「POCO F5 GT」はデザインや機能面などから見てゲーミングを強く意識したモデルとなっており、それでいて価格は74,800円からとゲーミングスマートフォンとして見れば安価です。

こうした状況を見れば、ゲーミングスマートフォン、ひいてはROG Phoneの優位性も絶対とは言えないのは確かでしょう。この分野でも価格競争に巻き込まれないためにも、ASUSは高い性能に徹底的にこだわるなどして優位性を保ち続け、明確なブランドを確立することが求められるといえそうです。