続く円安によって、「iPhone 14」シリーズの価格が高騰したことが話題となりました。政府の端末値引き規制でスマートフォンの大幅値引きが難しくなっている現状、高額なスマートフォンを少ない負担で購入するには分割払いを活用する必要がありますが、実はここ最近、アップルも分割払いの活用に力を入れています。そしてその影響は、意外なところに出てくる可能性がありそうです。

  • 日本でも販売が始まった「iPhone 14」シリーズ。さまざまな進化を遂げた一方、円安の影響で値上がりした価格にも注目が集まっている

端末購入プログラムと同様のサービスに注力するアップル

新しいiPhone「iPhone 14」シリーズの販売が始まりました。その内容は既報の通りですが、スタンダードモデルのiPhone 14シリーズには「mini」がなくなった代わりに大画面の「Plus」が追加されるなど大画面化が進んだのに加え、日本ではまだ利用できませんが衛星通信による緊急SOSの発信機能、そして上位モデルのiPhone Proシリーズにはパンチホール構造のフロントカメラや4800万画素の広角カメラが搭載されるなど、さまざまな進化ポイントを見て取ることができます。

ですがある意味、そうした機能や性能よりも注目されたのが価格ではないでしょうか。ロシアによるウクライナ侵攻を機としたさまざまな要因によって、2022年に入って急速なドル高・円安が進んでおり、110円台から140円台にまで急速な円安が進んでいるのはご存知の方も多いことでしょう。

その影響は、とりわけ輸入品に大きく出ています。iPhoneもその例に漏れず、2022年7月には既存のiPhoneが一斉に大幅な値上げがされたことで大きな話題となりました。そしてiPhone 14シリーズも、最も安い「iPhone 14」の128GBモデルでさえ10万円を超え、非常に買いづらくなってしまったことは確かです。

しかも現在は、政府によるスマートフォン値引き規制によってiPhone 14のような新しいスマートフォンの値引きは非常に難しくなっています。そこで携帯各社は、高額なスマートフォンを3~4年といった長期間の分割で購入してもらい、途中で返却すると残債を免除、あるいは減額することで購入時の負担を減らす、いわゆる端末購入プログラムを使って購入してもらうことに力を入れているようです。

  • 端末購入プログラムの1つ、auの「スマホトクするプログラム」の概要。スマートフォンを分割払いで購入し、25カ月目で返却すると残りの支払いが不要になる仕組みだ

ですが最近、その分割払いに力を入れるのは携帯電話会社だけではないようです。実際、アップル自身もApple Storeなどで、Paidyという会社が提供する「ペイディあと払いプランApple専用」による分割払いに力を入れています。

Paidyは「BNPL」と呼ばれる、クレジットカードとは違った新しい後払いサービスを国内で提供する企業で、2021年に決済サービス大手のPayPalに買収されたことでも話題となっています。そのPaidyが提供するペイディあと払いプランApple専用は、手数料0円の分割払いでiPhoneを購入できるというものなのですが、なかでも携帯各社の端末購入プログラムに近いのが「iPhone 36か月分割払いオファー」というものです。

これは、36カ月の分割払いでiPhoneを購入し、24カ月目に新しいiPhoneに機種変更すると古いiPhoneの下取り額が保証され、残金の支払いが不要になるというもの。新しいiPhoneへの機種変更が必要という条件があることを除けば、携帯各社の端末購入プログラムと非常に似た仕組みであることが分かるでしょう。

  • Apple Storeで実施している「ペイディあと払いプランApple専用」の「iPhone 36か月分割払いオファー」。対象のiPhoneを36回払いで購入すると金利が0%になり、24回目の支払い時点で新しいiPhoneに買い替えると残金の支払いが不要になる

海外への流出を続ける中古iPhone、その理由は

なぜ、メーカーであるアップル自身が端末購入プログラムのような仕組みに力を入れるようになったのでしょうか。理由の1つは高額なiPhoneを買いやすくするためでしょうが、より大きな理由となるのはエコシステムではないかと考えられます。

実際、iPhone 36か月分割払いオファーでは、下取り額を保証することでユーザーに対して継続的に新しいiPhoneに買い替えやすい環境を整えることにより、他社への流出を防ぐ狙いがあることが分かります。それだけでなく、端末を自社で下取りして集めることにより、中古iPhoneの流通をアップル自身が主導したい狙いもあるといえそうです。

ただ、このことで懸念が出てくるのが、国内での中古iPhoneの流通量です。iPhoneの価格高騰で日本でも人気が高まっている中古のiPhoneですが、実は国内で販売するiPhoneの数が多い割に、日本の中古市場で流通するiPhoneの数が少ないことが以前より指摘されていました。

その理由は、海外の方が中古iPhoneの買取価格が高く、携帯各社が端末購入プログラムで回収したiPhoneなどが、値段が高い海外に流通してしまいやすいため。国内での中古iPhoneの流通が少ないことを問題視した総務省が、中古端末市場の活性化と国内での流通を活性化するよう携帯各社などに求め、結果携帯各社が自社認定済みの中古品を販売するようになるなど、国内で流通量を増やす取り組み自体は増えています。

  • 中古スマートフォンの利用拡大に注力する総務省の影響から、携帯各社はここ最近自社基準の整備済み中古iPhoneを販売するようになった。画像は、NTTドコモの「docomo Certified」のWebサイト

ですが、アップルは現在のところ日本でリファービッシュ(認定整備済製品)のiPhoneを販売した実績はなく、アップルが回収したiPhoneは海外で流通させているものと考えられます。それゆえ、アップル経由でiPhoneを下取りに出す人が増えるほど、中古のiPhoneが国外に流れる量が増える、ともいえるわけです。

  • アップルは、以前から自社基準のリファービッシュ品を販売しており、日本でもMacやiPadなどは販売されているが、iPhoneだけはいまだに販売がなされていない

現在の円安が続く限り、iPhoneが値下がりすることは考えにくいでしょうし、ここ最近活性化していた携帯各社のスマートフォン大幅値引きも、行政が厳しい対応を取り続けているだけに今後減少が予想されます。それゆえ、安くiPhoneを使いたい人が中古品を選ぶという傾向は一層強まると考えられますが、現在のように中古のiPhoneが海外に流れやすい状況が続くようであれば、日本で中古iPhoneが品不足となりiPhone難民が続出する……といったことも十分起き得るでしょう。

一方で、中古端末が海外に流通しないようにするには、日本の中古市場での流通量を大幅に増やし需要を高め、買取量と価格を高める必要があるのですが、人口規模などを考えるとそれもハードルが高いというのが正直なところ。容易な解決策がないだけに、悩ましい問題だともいえそうです。