スマートフォン市場への参入を表明していた家電メーカーのバルミューダが「BALMUDA Phone」を発表しました。細部にまでこだわりを見せた一方、性能に比べ非常に高額な値段もあって、発表直後から失望の声が少なからず挙がりました。ですが、意外にも予約状況は悪くないようです。一体なぜなのでしょうか。

高額な値段に批判が集まるも、予約は好調

2021年5月にスマートフォンへの参入を発表して大きな驚きをもたらした、家電メーカーのバルミューダ。独自の技術とデザインによって、成熟市場である家電市場で扇風機やトースターなどの人気商品を作り出したバルミューダがスマートフォンを出すとあって、その期待は大きく高まっていました。

そして2021年11月16日、バルミューダは満を持して「BALMUDA Phone」をお披露目し、2021年11月25日に販売開始することを発表しました。BALMUDA Phoneは4.9インチという非常にコンパクトなサイズのスマートフォンで、すべて曲線で構成されたボディデザインが特徴。スケジューラーや時計、電卓などの基本アプリをすべて自社で開発し、コンパクトなスマートフォンでも使いやすい独自のインターフェースを取り入れているのが大きな特徴といえます。

  • バルミューダが発表した「BALMUDA Phone」。4.9インチディスプレイの非常にコンパクトなサイズ感で、曲線を多く取り入れ手にフィットしやすい丸みのあるボディが特徴だ

同日に実施された発表会では、同社の代表取締役社長兼チーフデザイナーである寺尾玄氏が、その開発の経緯や特徴などについて熱心にプレゼンテーションしました。ですが、SNSなどでの声を見る限り、その評価は大きく割れたというよりも、むしろ失望感や批判の声が多かったというのが正直な印象です。

  • BALMUDA Phoneを手にするバルミューダの寺尾氏。発表会では、BALMUDA Phoneの開発の経緯について熱く語っていた

そうした評価に至った要因は、やはり価格が非常に高いことでしょう。BALMUDA Phoneは、先にも触れた通り画面は4.9インチと非常に小さいですし、背面のカメラは約4,800万画素のものが1つだけ。チップセットはクアルコムのミドルハイクラス向け「Snapdragon 765」と、性能は必ずしも高いとは言えません。

それでいて、バルミューダの直販価格は104,800円、国内携帯電話会社では独占的に取り扱うソフトバンクでの販売価格は143,200円と、とてもスペック相応とは言えない高さです。これだけ高額になった理由として、寺尾氏はアプリの開発費や、曲線のみを採用した独自のデザインを実現するため、ディスプレイなどの部材を新たに開発する必要があったことなどを挙げています。ですが、それがバルミューダの製品にふさわしい価値に結びついていない、と感じた人が多かったからこそ、批判の声が多く出たといえるでしょう。

ただ、執筆時点(2021年11月19日)の動向を見ますと、そうした評価が販売不振につながっているわけではないようにも見えます。実際、バルミューダのオンラインストアを見ますと、BALMUDA Phoneのホワイトモデルが予約段階で既に品薄となっているようで、出荷が2021年12月下旬となっています。

  • BALMUDA Phoneのオンラインストアを確認すると、ホワイトモデルの出荷時期が「12月下旬」と、予約時点で品薄になっている様子がうかがえる

プロダクトアウト製品ならではの利点と弱点

なぜ、SNSでの評価と実際の販売に差が出てくるのかを考えた場合、浮かんでくるのは「プロダクトアウト」という言葉です。プロダクトアウトとはマーケティング用語の1つで、要は「作り手が作りたい商品を開発して売ること」です。BALMUDA Phoneは、プロダクトアウト型の典型的な商品といえるでしょう。

寺尾氏は、BALMUDA Phoneの開発にあたって心がけたことが「スマートフォンを使っている時間を短くすること」であり、やりたいことを素早くこなしてスマートフォンに縛られない生活を送るために開発したと説明していました。これは、BALMUDA Phoneがスマートフォンを積極的に利用する多くの人たちの声を聞いて作られたわけではなく、あくまで寺尾氏の考えのもとに作られたものであることを示しています。

  • BALMUDA Phoneは、寺尾氏自らデザインを手掛けるなど、寺尾氏の考え方が強く反映されたスマートフォンとなっている

そのプロダクトアウトの対極にある言葉が「マーケットイン」で、こちらは顧客の声を聞いてそのニーズを優先し、商品を開発・販売することです。現在の多くのスマートフォンは、どちらかといえばマーケットインの考えを重視しており、年々ディスプレイサイズが大きくなったり、カメラの数やバッテリーの容量が増えたりしているのは、市場ニーズの高い機能を積極的に取り入れて開発がなされているが故といえるでしょう。

マーケット重視の商品は、顧客が望んでいるものを提供するだけに確実に“売れる”商品となりやすいのですが、一方で同様の考えのもとに開発を進めるメーカーが多いことから製品の画一化が進みやすく、競争が激化しやすいのも確か。スマートフォン市場でいえば、高いシェアを持ち部材の大量調達による低コスト化が可能なメーカーが圧倒的優位となってしまいます。

一方で、プロダクトアウトの商品は特徴が非常に際立っているだけに、市場でまったく評価されず売れないリスクも大きいのですが、一方で高い評価が得られれば空前の大ヒットにつながることもあります。そこまでには至らなくても、独自性に魅力を感じるコアなファンがつくことで、他社が入り込みにくいニッチな市場を形成できる可能性もあります。

スマートフォン市場においてバルミューダは新規参入事業者で、市場シェアはゼロですから、マーケットインの手法を取って成功するのは難しいといえます。それだけに、バルミューダらしさを生かしたプロダクトアウトの手法で参入し、ニッチを追及することでコンセプトを気に入った人達の評価を得たことが、予約の好調に結びついたといえそうです。

ただ、BALMUDA Phoneがそこまでのこだわりを追及できたのには、ソフトバンクという強力なパートナーをあらかじめ獲得していたことも大きいでしょう。非常に強力な販路を持つソフトバンクの存在があったからこそ、製品の高額化のリスクを負うことができたともいえるのではないでしょうか。

  • BALMUDA Phoneは、発表前からソフトバンクが販売パートナーとなることが明らかにされており、大きな販路を獲得できていたからこそこだわりを追及できたともいえる

とはいえ、プロダクトアウト型の商品は強い関心を持つ層が一通り購入してしまうと、その後販売が大きく落ち込んでしまう傾向にもあることから、予約が好調だからといって油断できないのも確かです。継続的に販売を伸ばすには、商品の価値を理解してもらう取り組みが必要でしょうし、そのためには2021年11月19日にオープンした「BALMUDA The Store Aoyama」など、実際に商品に触れて価値を理解してもらうための場をいかに増やしていくかが重要になってくるといえそうです。