野外フェスなどの大規模イベントでは、狭いエリアに非常に多くの人が集まってスマートフォンを使うため、混雑が発生しやすくなります。それだけに、携帯各社は大規模イベントでの通信対策に力を入れているのですが、対策の方法は会場の環境に応じて違いがあるようです。香川県仲多度郡で2024年8月24日から開催された「MONSTER baSH 2024」における、NTTドコモのネットワーク対策から確認してみましょう。

  • 香川県で実施された野外フェスイベント「MONSTER baSH 2024」は、中国四国地方では最大級のイベントだ

起伏のある場所では周波数の高い5Gが不利に

コロナ禍で中止や縮小が相次いだ、野外フェスなどの大規模イベント。ですが、それが落ち着いて以降は復活を果たしており、2024年夏は多くの大規模イベントが実施されました。

そうした大規模イベントでは、多数の人が訪れることからさまざまな対策が求められるのですが、スマートフォンもその例外ではありません。実際、野外フェスなどでは、普段それほど人が多くない場所で多数の人が一斉にスマートフォンを使うわけですから、周辺の基地局だけではトラフィックを処理しきれず、通信ができなくなる、あるいは非常に遅くなるといった問題が生じてしまいます。

それゆえ、携帯各社は大規模イベントに備え、ネットワークに問題が起きないよう、臨時の移動基地局などを設置するなどして設備を増強し、トラフィック対策にあたっています。ただ、大規模イベントは実施される場所によって環境が大きく異なるため、どの会場でも一律に同じ対策を打てばよいわけではないようです。

そこで今回取材したのは、香川県仲多度郡まんのう町で2024年8月24日から2日間にわたって実施された「MONSTER baSH 2024」というイベント。2024年で25周年を迎える歴史の長い野外ロックフェスで、来場者数は2日間で約5万人という、中四国地方では最大級のイベントとなるようです。

その会場となる国営讃岐まんのう公園は山間部にあることから、公園内には起伏も多く存在します。それゆえ、平地が多い首都圏で実施される野外フェスとは、また違った対策が求められるようです。

  • イベント前日の会場の様子。国営公園ということもあって、会場内は起伏や樹木が多い

なかでも大きな違いとなるのが5Gの活用です。例えば、2024年8月3日から千葉県の千葉市蘇我スポーツ公園で実施されていた「ROCK IN JAPAN FESTIVAL 2024」で、同イベントに協賛するKDDIに取材をした際には、移動基地局車に5Gの高速大容量通信が可能な3.7GHz帯を活用し、なおかつ多数のアンテナ素子を搭載し大容量通信に強いとされる「Massive MIMO」のアンテナを活用したトラフィック対策を実施していました。

ですが、ROCK IN JAPAN FESTIVALの会場は見通しのいい平地であったのに対し、MONSTER baSHの会場は先にも触れたように起伏が多く、電波を遮る樹木も多い状況です。バックホール回線には光回線が利用できるなど、インフラ面での環境には恵まれているものの、トラフィック対策に有効な5Gの高い周波数が場所によって遠くに届きにくく、効果を発揮できる場所が限られるという難しさがあるようです。

実際NTTドコモでも、2023年のMONSTER baSHの会場内では人が多く集まる観客エリア付近に移動基地局車を設置して5Gを活用していたのですが、そうした事情もあって2024年は方針を大きく転換。5Gではなく、周波数帯が低い4Gでの対策を強化したのだそうです。

  • 2023年と2024年の対策の違い。2023年は多くの人が集まる観客エリア付近に5Gを用いていたが、2024年はそのエリアに4Gを用いる方針に転換したという

具体的には、4G向け2GHz帯を活用したマルチビームアンテナを移動基地局車に新たに設置したとのこと。通常のアンテナは、3~6方向に広く電波を射出して360度をカバーする仕組みであるのに対し、このアンテナは10~15度の角度に集中して電波を射出し、1方向あたりのトラフィックを減らす仕組み。それを5方向に射出することで、トラフィックが多いエリアを集中してカバーし、トラフィック対策につなげるのだそうです。

  • 観客エリア付近をカバーするNTTドコモの移動基地局車。右側上部にある四角いアンテナが、2GHz帯に対応するマルチビームアンテナとなる

フェスでも重要性高まるスマートフォン決済

一方で、多くの野外フェスイベントで共通した対策が取られていたのが、スマートフォン決済への対応です。コロナ禍以降、スマートフォン決済が急速に普及し、野外フェスでも物販や飲食などのブースでスマートフォン決済が利用できるケースが増えたことから、ネットワークが混雑してしまうとスマートフォン決済自体が使えなくなってしまう、という問題が浮上しているのです。

  • MONSTER baSH 2024の物販ブースはスマートフォン決済の利用も可能で、「d払い」専用のレーンも設けられている

それゆえ携帯各社も、スマートフォン決済を円滑に進めるためのネットワーク対策に力を入れるようになってきています。実際、先に触れたROCK IN JAPAN FESTIVAL 2024では多くの移動基地局車が、スマートフォン決済が多く利用される場所にアンテナを向けてトラフィック対策を強化していたほか、「Starlink」による衛星通信サービスを積極的に導入し、飲食ブースなどの周辺にWi-Fiスポットとして設置するなどして対策が取られていました。

それはMONSTER baSHの会場でも同様で、NTTドコモは2024年のイベントで、飲食・物販エリア近くの見通しが比較的良い場所に移動基地局車をもう1台設置。4G専用の車両に5Gのアンテナも追加で設置するなどして、トラフィック対策を進めていました。

  • 物販・飲食ブース付近をカバーする移動基地局車。こちらは4Gの基地局車に5Gのアンテナを追加で搭載し、スマートフォン決済に重点を置いたトラフィック対策が進められている

それに加えて、Starlinkを活用した「d Wi-Fi」のスポットも2箇所設置しているとのことで、スマートフォン決済に向けた対策にはかなり力が入れられていました。とりわけ、野外フェスは若い世代が多く訪れることからスマートフォン決済の利用が多く、会場にはNTTドコモのスマートフォン決済サービス「d払い」専用のレーンを設けるなど、その利用促進にも力が入れられているだけに、ネットワーク面での対策にもかなり力を入れている様子でした。

コミュニケーションだけでなく決済にも影響するなど、スマートフォンは一層多くの人々の生活に根付いた存在となっているだけに、環境が変わってもスマートフォンの快適利用を維持することの重要性は大きく高まっています。そして、大規模イベント時の通信対策は、臨時で広いエリアをカバーする必要がある、大規模災害時のネットワーク対策にもつながる部分があるだけに、今後も一層の対策強化が求められます。