5Gに対応した低価格のスマートフォンが急増しているが、そのほとんどが携帯電話会社からしか購入できないモデルだ。MVNOなどで利用できるSIMフリースマートフォンには、5G対応でリーズナブルなモデルが増える兆候が見られないのだが、一体なぜだろうか。

携帯大手が2~3万円台の5Gスマートフォンを積極投入

2020年に日本で5Gの商用サービスが始まってから、およそ1年が経過した。狭すぎて使い物にならないと言われてきた5Gのエリアも、2021年に入ってようやく大手3社が面でのエリア展開を本格化し始め、徐々にではあるがアンテナピクトが「5G」となるエリアも増えつつあるようだ。

それに伴って増えているのが5G対応スマートフォンである。1年前は5G対応機種がハイエンドモデルに限られ、その価格も10万円を超えるものが少なくなかったことから購入しづらかったのだが、2021年に入ると急速に低価格の5G対応スマートフォンが増えてきているようだ。

実際、NTTドコモやKDDIのauブランドが販売するシャープ製の「AQUOS sense5G」や、auが販売するサムスン電子製の「Galaxy A32 5G」はいずれも3万円台から購入できる。ソフトバンクのソフトバンクブランドで販売しているシャオミ製の「Redmi Note 9T」に至っては2万円台、当時は税抜き価格で2万円を切るという低価格で大きな話題にもなっていた。

  • KDDIのauブランドで2021年2月から販売している「Galaxy A32 5G」

    KDDIのauブランドで2021年2月から販売している「Galaxy A32 5G」。6.5インチディスプレイと5000mAhのバッテリー、そして4眼カメラを搭載しながら価格は3万円台だ

さらに今後も、ソフトバンクのワイモバイルブランドで2021年4月8日の販売を予定しているZTE製の「Libero 5G」、auから5月に販売予定のオッポ製の「OPPO A54 5G」も、それらの低価格モデルと同等の水準か、それ以下の価格で販売されるものと見られている。1年前と比べれば、いかに低価格の5Gスマートフォンが急増しているか理解できるだろう。

  • ワイモバイルブランド初となる5G対応Androidスマートフォン「Libero 5G」。低価格モデルと見られるが、FeliCaやIP57の防水・防塵性能を備えるなど機能面の充実度は高い

だがよく見ると、これら低価格5Gスマートフォンを積極販売しているのは携帯大手3社であり、先にあげた端末のうちSIMフリーモデルとしても販売されているのはAQUOS sense5Gだけ。そもそも低価格モデル以外に対象を広げても、実はSIMフリースマートフォンで5Gに対応した機種は少ないのが現状だ。

アップルの「iPhone 12」シリーズや、グーグルの「Pixel 5」「Pixel 4a(5G)」などは元々SIMフリーモデルも併売されていることから、それらも含めればある程度対象機種は増えるのだが、純粋にSIMフリー市場だけに向けて5G対応スマートフォンを投入しているのは、米国の制裁によって携帯大手とのビジネスにも制約が出ているファーウェイ・テクノロジーズくらいだろう。

SIMフリー端末で使われるMVNOのニーズは4Gが中心

大手向けとSIMフリー市場向けとで、スマートフォンの5G対応にこれだけ大きな差が出ているのはなぜかといえば、5Gに対する力の入れ具合の違いが影響しているといえそうだ。

自らネットワークを敷設している携帯電話会社、とりわけ新興の楽天モバイルを除いた3社は、今5Gのエリア整備を積極的に進めているだけにその利用拡大にも力を入れる必要がある。そのため自ら5G対応スマートフォンを積極調達して販売を拡大することによって、今後5Gのエリアが広がるとともに5Gの利用を増やしていきたいと考えている訳だ。

一方でSIMフリースマートフォンの場合、利用者が使う通信サービスは主にMVNOのものとなるが、そのMVNOの5G対応がまだあまり進んでいない。インターネットイニシアティブの「IIJmio」は新料金プラン「ギガプラン」で5Gへの対応を打ち出しているが、オプテージの「mineo」は新料金プラン「マイピタ」でも、5Gを利用するのに別途オプション料金が必要であるなど、大手の中でも対応はまちまちだ。

  • IIJmioの新料金プラン「ギガプラン」は、2021年6月より無料で5Gに対応するとしているが、5G対応を積極的に打ち出すMVNOはまだあまり多くない

なぜならMVNOを利用するユーザーは、高速大容量通信よりも低価格を求める傾向が強い。そのためMVNOの側も、コストをかけて整備途上の5Gへの対応を急ぐより、広く普及している4Gに絞って低価格を追求した方が、現時点ではユーザーに提供できるメリットが大きいのである。

そしてメーカー側もそうした市場性の違いを意識し、SIMフリー市場に向けては5G対応に力を入れるよりも、4Gのみの対応で低価格かつ高機能であることを追求した方がビジネスメリットが大きいと判断しているようだ。実際シャオミは、2021年3月31日にSIMフリー市場向けの新機種「Redmi Note 10 Pro」を発表、1億800万画素のカメラを搭載するなど高性能、かつ34,800円という低価格を実現しているが、5Gには対応していない。

  • シャオミが2021年3月31日に発表したSIMフリースマートフォン「Redmi Note 10 Pro」。1億800万画素のカメラを搭載するなど高性能と低価格をアピールする一方、5Gには対応していない

シャオミの東アジア担当ゼネラルマネージャーであるスティーブン・ワン氏は、SIMフリースマートフォンの5G対応に関して「考えている」とする一方、「日本では今5Gの展開をしている最中で、消費者と話すと大半の人は現在も4G製品を探していることが分かった」と、4G端末の方がニーズが大きいことから5G非対応のRedmi Note 10 Proを投入するに至ったと答えている。

そうした状況を考慮すると、5G対応のSIMフリースマートフォンが市場に積極投入されるのは、携帯大手が5Gのエリア整備を進め、多くの人が5Gのメリットを受けられるようになった頃、具体的には半年から1年後になるといえそうだ。今後いち早く5Gを使いたいというのであれば、やはり携帯大手から端末を購入するのが無難といえるだろう。