ZホールディングスとZフィナンシャルは2020年7月31日、傘下及びソフトバンク系の金融事業6社の社名及びサービスを、スマートフォン決済で知られる「PayPayブランドに変更すると発表した。延期になったとはいえLINEとの経営統合を控える中にあって、金融事業のブランド統合を打ち出したのは何を意味しているのだろうか。

ジャパンネット銀行も「PayPay銀行」に

ポータルサイト大手の「Yahoo! Japan」を展開するヤフーを傘下に持つ、ソフトバンク系のZホールディングス。そのZホールディングスは2019年10月に持株会社制へと移行するに当たって、Yahoo! Japanの主力サービスである広告やメディア、Eコマース関連の事業を同社子会社となったヤフーに移管する一方、「ジャパンネット銀行」などの金融関連事業は、中間持株会社であるZフィナンシャルを設立してそちらに移管している。

そのZホールディングスとZフィナンシャルが2020年7月31日に、金融サービスのブランド統一と、両社傘下の金融関連事業者6社の社名を2020年秋以降順次変更すると発表した。その内容を一言で表すと、ヤフー関連の金融が全て、スマートフォン決済の「PayPay」ブランドに変わるというものだ。

具体的には「Yahoo! Japanカード」が「PayPayカード」に、「ジャパンネット銀行」が「PayPay銀行」に変更され、ソフトバンクの連結子会社であるスマートフォン向けの証券サービス「One Tap BUY」も「PayPay証券」へと名前変更がなされるとのこと。もちろん企業名もそれに合わせる形で、PayPayが付いた名称へと変更されるようだ。

  • Zホールディングスやソフトバンク傘下の金融会社とサービスの名称は、今後「PayPay」ブランドへと一本化されることとなる

    Zホールディングスのプレスリリースより。Zホールディングスやソフトバンク傘下の金融会社とサービスの名称は、今後「PayPay」ブランドへと一本化されることとなる

そのリリース内容を見ると、名称変更の背景にはZホールディングスも出資している「PayPay」が、2020年6月時点で累計ユーザー数が3,000万に達し多くの顧客を持つようになったことがあるという。既にヤフーとPayPayは、ヤフー提供のオンラインサービスにPayPayによる決済を導入したり、「PayPayモール」「PayPayフリマ」を提供したりするなど積極的な連携を図っている。

そうしたことから金融事業に関しても、PayPayとの連携を強化することで成長に結びつけるべく、会社やサービスの名称を「PayPay」に統一して分かりやすくするのが狙いとなるようだ。Zホールディングスの代表取締役社長CEOである川邊健太郎氏は、PayPayをヤフーの「第2の創業」と位置付け注力してきただけに、そのPayPayとヤフー関連のあらゆる事業を連携させ、一層の事業拡大を実現したいのだろう。

またPayPayの側もPayPayのスーパーアプリ化を進めるに当たって、2020年より金融サービスを積極展開することを打ち出している。それだけに今回の名称変更には、Zホールディングスやソフトバンク系の金融事業の総力を挙げて、PayPayの金融事業強化を推し進める狙いも大きいといえそうだ。

  • PayPayは2020年1月に金融サービスを積極展開することを打ち出しており、一連の名称変更はそれに関連した動きと見ることもできそうだ

    PayPayは2020年1月に金融サービスを積極展開することを打ち出しており、一連の名称変更はそれに関連した動きと見ることもできそうだ

苦境が続くLINE Pay、経営統合後はPayPayが主導権を持つか

だがここで気になるのは、やはりZホールディングスとLINEとの経営統合であろう。両社は2019年に経営統合の計画を打ち出しているおり、新型コロナウイルスの影響によって一部の国での手続きに遅れが生じ、当初予定していた2020年10月からは遅れるとしているものの、経営統合に関する方針は変わっていないようだ。

  • ZホールディングスとLINEは2019年11月に経営統合の計画を発表。新型コロナウイルスの影響で統合は当初より遅れるようだが、統合の方針自体は変わっていない

広告やEコマースに強いZホールディングスと、コミュニケーションやコンテンツに強いLINEとでは相互に補完し合える事業が多い一方、重複する事業も少なからず存在する。中でも両社が最近まで非常に激しく争っていたのが金融・決済の分野である。

特にPayPayと、LINE系の「LINE Pay」は、2019年に顧客獲得のキャンペーン合戦で激しい争いを繰り広げていたことから、経営統合に際してはいかにしてこの部分を整理していくのかが注目されている。だが今回の名称変更と、ここ最近のLINE Payに関する動向を見るに、その方向性が徐々にではあるが見えつつあるようにも感じる。

LINEはLINE Payの大規模キャンペーン展開による支出がかさんで、ここ最近は赤字決算が続いており、2019年後半からは比較的キャンペーンを抑制するようになった。またLINE Payでの利用がお得になる「Visa LINE Payクレジットカード」の発行が大幅に遅れ、当初のカード発行パートナーだったオリエントコーポレーションとの提携を解消し、三井住友カードに変更しての発行となるなど混乱も見られた。

  • 「Visa LINE Payクレジットカード」は当初2019年中の発行を予定していたが、その後延期がなされた上に発行パートナーも変更され、2020年4月下旬にようやく受付が開始されるなど混乱が続いた

さらに2020年5月に実施されたメンバーシッププログラムの変更によって、LINE Payでの決済時に「LINEポイント」が付与されるのは、Visa LINE Payクレジットカードを用いた「チャージ&ペイ」のみとなっている。従来通りLINE Pay残高にチャージした料金で決済をしても、ポイントは一切付与されなくなったのだ。

こうした動きからは、LINEがLINE Payの拡大路線をやめ、支出を抑え収益を重視した堅実路線へと転換しつつあることが分かる。その一方でPayPayはキャンペーンこそ以前より抑え気味になってはいるものの、今回の名称変更が象徴しているように依然として金融を中心とした事業拡大路線を取り続けていることから、両者の優劣は一層目立って見える。

提携関係にあるNTTドコモとメルカリが「d払い」と「メルペイ」を両立させている前例があるだけに、経営統合によって必ずしもPayPayとLINE Payの一本化が図られるとは限らない。ただ双方が置かれている状況を見るに、経営統合後の金融・決済関連事業は、現在のZホールディングス側が主導権を持つ可能性が高いのではないかと筆者は感じている。