政府主導による新たなキャッシュレス決済の還元施策となる、総務省の「マイナポイント事業」が2020年9月に開始予定だ。そこでキャッシュレス決済各社は、マイナポイント事業に合わせた顧客獲得キャンペーンを相次いで実施しているのだが、あまり大きな盛り上がりには至っていない。なぜだろうか。

マイナポイント開始を見据えたキャンペーンが増加

マイナポイント事業は、2020年6月末で終了した経済産業省の「キャッシュレス・消費者還元事業」に続く、政府のキャッシュレス決済による第2弾の還元策。マイナンバーカードに特定のキャッシュレス決済を登録し、その決済手段を用いて決済したり、料金をチャージしたりすることで、最大5,000円分がポイントなどで還元されるというものだ。

  • 総務省「マイナポイント事業」のWebサイト。マイナンバーカードと特定のキャッシュレス決済を登録することで、最大5,000円分の還元が受けられる

    総務省「マイナポイント事業」のWebサイト。マイナンバーカードと特定のキャッシュレス決済を登録することで、最大5,000円分の還元が受けられる

キャッシュレス・消費者還元事業と大きく異なるのは、1つには還元を受けるのにマイナンバーカードが必要になること。そしてもう1つは、マイナンバーカードに登録できるキャッシュレス決済は1つだけで、その決済手段を使わなければ還元は受けられないということ。後から登録するサービスを変えることもできない。

それゆえキャッシュレス決済事業者にとっては、マイナポイント事業の開始前に、いかに自身のサービスをマイナンバーカードと紐づけてもらうかが重要となってくる。その登録受付は2020年7月より始まっていることから、キャッシュレス決済各社は利用者獲得のためのキャンペーンを相次いで実施しているようだ。

中でもここ最近、取り込みを強化するべくキャンペーンの拡大を打ち出しているのがスマートフォン決済事業者である。例えばメルペイは、当初登録者に対してマイナポイントによる還元のほか、最大1,000円相当のポイントを上乗せして還元するキャンペーンを実施していたのだが、イオンの「WAON」がその倍となる2,000円相当の上乗せキャンペーンを実施していたことを受け、2020年8月31日までに登録した人にはさらに最大1,000円のポイントを上乗せするキャンペーンを追加。WAONと並ぶ還元額を実現している。

さらにNTTドコモは、「d払い」を登録すると500円相当のdポイントを付与するキャンペーンを展開していたが、2020年7月17日には、利用者からの期待に応える形で複数のキャンペーンを追加し、最大2,500円相当のdポイントが付与されることとなった。マイナポイントによる還元と合わせると最大7,500円相当の還元が受けられるので、非常にお得であることに間違いないだろう。

  • NTTドコモは2020年7月17日、「d払い」のマイナポイント向けキャンペーンを改変。独自のdポイント還元額を500円から、最大2,500円にまで増やしている

    NTTドコモは2020年7月17日、「d払い」のマイナポイント向けキャンペーンを改変。独自のdポイント還元額を500円から、最大2,500円にまで増やしている

キャンペーンの盛り上がりを欠く2つの要因

ただ2019年に繰り広げられたスマートフォン決済事業者同士による大規模還元キャンペーン合戦のことを考えると、マイナポイント事業でのキャンペーンに対する取り組みはかなり大人しい印象で、還元額もそれほど大きくないように見える。

実際、かつては100億円還元キャンペーンを繰り返し実施していたソフトバンク系のPayPayが、マイナポイント事業に合わせて実施しているキャンペーン「マイナポイントペイペイジャンボ」を見ると、上乗せされる額がが抽選で決まる仕組みとなっている。1等が当たれば100万円相当のPayPayボーナスがもらえるが、その対象は10人と少なく、外れれば何ももらえない。キャンペーンに費やす金額も1億円と、かつてと比べれば見劣りする印象だ。

  • マイナポイント事業に向けたPayPayの「マイナポイントペイペイジャンボ」は、独自の上乗せ還元額が抽選によって決まる仕組みなので、全く当たらない可能性もある

LINE傘下のLINE Payに至っては登録ユーザーへの還元策がポイントの上乗せですらなく、特定の店で利用するとお得になるクーポンを毎月5枚、3カ月間進呈するという内容にとどまっている。激しいキャンペーン合戦を繰り広げていたこれらサービスのキャンペーンが低調なこともあり、マイナポイント事業でのキャンペーン合戦は過熱する可能性が低いというのが正直な所だ。

その要因は、やはり2019年後半から2020年初頭にかけてスマートフォン決済事業者の再編が急速に進んだことであろう。LINE Payを有するLINEが、PayPayを有するZホールディングスとの合併を発表し実質的なソフトバンクの傘下となる予定であるほか、メルペイがOrigamiを買収し、さらにNTTドコモと提携したことで、スマートフォン決済はKDDIと楽天を含む携帯電話4社の系列に収れんしてしまったのだ。

  • メルペイとメルカリ、NTTドコモが2020年2月に提携を発表し、2020年9月にはQRコードの共通化を実施する予定であるなど、両者の連携を急速に進めている

スマートフォン決済各社は大規模キャンペーンで著しく企業体力を消耗した上、ライバルが減少したことで体力勝負のキャンペーンによるつぶし合いをする必要もなくなった。それゆえマイナポイント事業では、積極的に大規模キャンペーンを実施する必要性が薄くなっているのだ。

またそもそも、マイナポイント事業はマイナンバーカードを作らなければ還元が受けられないという、非常に大きなハードルがある。総務省によると、マイナンバーカードの発行枚数は2020年7月1日時点で約2225万枚。また各種報道によると、マイナポイントの予約をすると発行される「マイキーID」の発行済数は200万件前後のようで、日本の人口を考えれば積極的に利用しようという人はまだあまり多くないように見える。

そうしたことから新規利用者の獲得につなげにくいというのも、スマートフォン決済事業者のキャンペーン過熱につながらない要因としては大きいのではないかと感じる。再びキャンペーンが過熱するには、マイナポイント事業自体が一層盛り上がり、登録者が急増することが求められそうだ。