海外のスマートフォンメーカーは、これまで日本市場にフラッグシップスマホの中でも最も性能が高い、最上位モデルを積極投入する傾向にあった。だが2020年はサムスン電子やファーウェイ・テクノロジーズの最上位モデルが投入されないなど、傾向が大きく変化しているようだ。一体なぜだろうか。
フラッグシップの最上位モデルが販売されず
2020年は3月に携帯大手3社が5Gの商用サービスを開始した影響もあってやや変則的になったものの、夏商戦に向けたスマートフォン新製品がおおむね発表されたようだ。新型コロナウイルスの影響で携帯電話ショップの営業時間が短縮されるなど販売面では少なからず影響が出ているものの、今後スマートフォン新製品が市場をにぎわすことは確かだろう。
だがそれらの新製品を見ていると、従来と傾向にやや違いが出ていることに気づく。それは海外メーカーが、フラッグシップスマホの最上位モデルを日本市場に投入していないことだ。
世界的に高いシェアを持つ大手のスマートフォンメーカーは、最近フラッグシップスマホを1機種ではなく複数用意し、その中から各市場に合った機種を選んで提供する傾向が強い。例えばサムスン電子の2020年のフラッグシップスマホ「Galaxy S20」の場合、ディスプレイサイズやカメラの性能に応じて「Galaxy S20 5G」「Galaxy S20+ 5G」「Galaxy S20 Ultra 5G」の3機種を用意している。
だが日本市場において、NTTドコモとKDDI(au)がGalaxy S20 5GとGalaxy S20+ 5Gの販売を発表しているものの、Galaxy S20 Ultra 5Gの販売は打ち出されていない。Galaxy S20 Ultra 5Gは1億800万画素のカメラを搭載し、最大で100倍のデジタルズームが可能なカメラを搭載した最上位モデルなのだが、両社は採用しなかったようだ。
またファーウェイ・テクノロジーズも、2020年のフラッグシップスマホとして「HUAWEI P40」シリーズを発表しており、「HUAWEI P40」「HUAWEI P40 Pro」「HUAWEI P40 Pro+」をラインアップに揃えている。だが2020年6月2日に実施された同社の日本向け新製品発表会で投入が発表されたのは、このうちHUAWEI P40 Proのみ。光学10倍相当の望遠カメラをはじめとした5眼カメラを搭載し、やはり100倍のデジタルズームが可能なHUAWEI P40 Pro+は投入が見送られている。
スマートフォンメーカー各社はこれまで、日本市場に向けてフラッグシップスマホの中でも最上位モデルを積極的に投入する傾向が強かった。実際両社も、2019年の夏商戦に向けては、フラッグシップスマホの最上位モデル「Galaxy S10+」「HUAWEI P30 Pro」を日本市場に向けて投入している。にもかかわらず、なぜ2020年には最上位モデルの投入が見送られたのだろうか。
主因は値引き規制、低価格モデルは大幅増加
その理由はやはり日本市場の変化にあるといえそうだ。それは本連載でもたびたび取り上げている、2019年10月に実施された電気通信事業法の改正によるスマートフォンの値引き規制である。
この値引き規制によって携帯電話各社は高額なスマートフォンの大幅値引きが困難となり、その結果高額なハイエンドモデルの売れ行きが急速に鈍ってきているのだ。そのため携帯電話各社はハイエンドモデルの調達を減らしており、人気の高いアップルのiPhoneシリーズを除けば、あまりに高額なモデルは採用しない傾向が強まっているのである。
実際、Galaxy S20 Ultraの海外での価格を見ると約15万円~18万円、HUAWEI P40 Pro+は約16万円といったところで、スマートフォンの中では相当高額な部類に入る。そうしたことから最上位モデルは性能が高くても値段が高すぎて売れないと判断し、採用が見送られたと言えそうだ。
もちろんスマートフォンメーカーとしては、こうした端末をSIMフリースマートフォンとして独自に販売するという道も残されている。だがこれだけ高額な端末を日本で多数販売するには、やはり携帯電話会社の端末購入補助による大幅値引きが欠かせないとの判断から、独自での販売も見送られた公算が高い。
その一方で、急拡大しているのが非常に安価なスマートフォンだ。携帯電話大手が5Gスマートフォンのラインアップに、低価格な中国メーカー製スマートフォンを多く採用したことが話題となったが、同様の事象はSIMフリースマートフォンの市場でも拡大しているようだ。
実際ファーウェイ・テクノロジーズはHUAWEI P40 Proの発表と同時に、5G対応ながら4万円を切る「HUAWEI P40 lite 5G」と、大画面でトリプルカメラを搭載しながら2万円半ばで購入できる「HUAWEI P40 lite E」の2機種も発表。ハイエンドモデルよりも低価格モデルに力を注いでいる印象を受ける。
同じく2020年6月2日に国内向けの新製品発表会を実施したシャオミも、有機ELディスプレイと4眼カメラを搭載しながら4万円を切る「Mi Note 10 Lite」、そして同じく4眼カメラを搭載しながら、2万4800円から購入できる「Redmi Note 9S」の2機種を発表。Redmiシリーズは価格の安さと性能の高さで新興国を中心に高い人気を獲得しているシリーズであり、それを日本市場に投入したことで、同社は低価格を武器に日本市場を攻める姿勢を明確にしたといえよう。
そうした傾向は総務省が値引き規制に力を注ぐ限り続くと考えられ、今後日本のスマートフォン市場には低価格の端末が急増する一方、先進的なハイエンドモデルは投入数が激減するものと考えられる。「最先端のスマートフォンが欲しい」という人に冬の時代が訪れることは確実で、日本のスマートフォン市場の先進性は大きく落ちることとなりそうだが、それを先導しているのが日本の政府というのは何とも残念な話である。