かつては多数存在した日本の携帯電話メーカー。だがスマートフォンの影響などを受けて淘汰が進み、残る大手メーカーは4社のみ。国内市場が飽和し、海外進出も厳しい状況の中、どうやって生き残ろうとしているのだろうか。

市場変化で撤退が相次いだ日本メーカー

日本市場には現在、多くのスマートフォンメーカーが参入しているが、実はその中で日本のメーカーが占める割合は、年々減少傾向にある。

特に、国内大手キャリア向けにスマートフォンを提供しているメーカーに絞った場合、現在日本メーカーで残っているのはソニーモバイルコミュニケーションズ、シャープ、富士通コネクテッドテクノロジーズ、京セラの4社のみ。フィーチャーフォン時代は10社以上のメーカーが存在したことを考えると、かなり寂しい状況となっている。

なぜ日本のメーカーが減少してしまったのかというと、その理由は市場環境の変化にある。フィーチャーフォン時代、日本メーカーの多くはキャリアとの強いパイプを生かして端末を共同開発していた。このビジネスはキャリアが端末を買い上げ、キャリアの商品として販売するためメーカー側にとってはリスクが小さく、高い性能を備えた端末も開発しやすいメリットがあったが、一方で日本市場に合った端末しか開発できず、海外への進出がしづらいという弱みもあった。実際、先に挙げた4社で海外進出に成功しているのは、ソニーモバイルと京セラのみである。

そうしたことから日本の携帯電話メーカーは、国内市場中心のビジネスを展開していたのだが、スマートフォン時代に入って状況が一変。大手キャリアがスマートフォンの取り組みに遅れたことから、メーカーもその影響を大きく受けたのに加え、そうした隙をつく形で海外メーカーが相次いで日本市場に参入、競争が激化したのだ。

スマートフォン時代に入り、サムスン電子が「Galaxy」シリーズを投入するなど、日本市場に本格参入する海外メーカーが急増した

中でも最も大きな影響を与えたのはアップルで、iPhoneの販売が急拡大し高いシェアを獲得するなど、短期間のうちに日本市場を圧倒する存在となった。そうした環境変化によって撤退するメーカーも相次ぎ、2013年にはNECカシオモバイルコミュニケーションズとパナソニックモバイルコミュニケーションズが、相次いでスマートフォンの開発から撤退している。

フィーチャーフォン時代には全盛を極めたNECカシオモバイルコミュニケーションズも、スマートフォン参入に遅れた影響などもあって2013年に撤退してしまった

だが生き残った4社を取り巻く環境も厳しいことに変わりはない。国内市場は相変わらずiPhoneが圧倒しているのに加え、総務省が昨年、スマートフォンの「実質0円」販売を事実上禁止するなど、キャリアの端末値引き販売に厳しい姿勢を取るようになった。日本のキャリアを主体にビジネスしている日本メーカーにとって、値引きの規制は非常に大きな打撃だ。

一方で世界市場に目を移すと、既にスマートフォンの販売が大きく伸びる時期は過ぎており、現在伸びているのはスマートフォン自体の単価が安い、新興国向けが主体だ。安価なスマートフォンは利益率が低く、世界規模で多数の端末を販売しないと利益が出ない。そうした市場で勝ち抜けるのはサムスン電子などの大手メーカーや、コスト効率や販売力に強みを持つ中国企業などに限られ、規模がものをいう戦いとなりつつある。

独自技術で生き残りをかける

国内外ともに厳しい環境にあるスマートフォン市場で、アップルやサムスンなどと比べ事業規模がはるかに小さい日本のメーカーが、正面を切って戦うのは困難だ。では日本のメーカーは、どうやって厳しいスマートフォン市場競争を生き残ろうとしているのだろうか。

それは技術による付加価値である。規模では大手メーカーに劣るが、日本のメーカーは多くの独自技術を持っている。そうした技術をスマートフォンに取り入れることで、他社にはない付加価値を提供し、特定のターゲットから確実な支持を得るなど、確実な販売につなげる戦略をとっているのだ。

例えばソニーモバイルの「Xperia」シリーズは、ソニーがスマートフォンのカメラに用いるイメージセンサーの最大手であることを生かし、カメラ機能に重点を置く戦略を取っている。実際、最新の「Xperia XZs」「Xperia XZ Premium」は、センサーにメモリを搭載した「メモリ積層型イメージセンサー」を世界で初めてスマートフォンに採用。これを活用することで、業務用カメラ並みのスーパースロー撮影を実現している。

ソニーモバイルの最新機種「Xperia XZs」「Xperia XZ Premium」は、最新のカメラセンサー搭載で、動きのある被写体を従来以上のスーパースローで撮影できるようになった

シャープも自社が強みを持つ「IGZO液晶」をフル活用し、スマートフォンの機能を向上させている。最新機種の「AQUOS R」は、描画が高速なハイスピードIGZOディスプレイを搭載。反応速度が速く、しかもスクロール時の残像が出ないなど、非常に滑らかな操作性を実現している。

「AQUOS R」はハイスピードIGZOディスプレイの搭載による高速描画で、従来以上に反応速度が速く、快適な操作性を実現している

京セラや富士通は、耐衝撃性能を備えるなどスマートフォンの頑丈さに力を入れているようだ。壊れにくいスマートフォンといえば、京セラのアウトドア向けスマートフォン「TORQUE」シリーズがよく知られているが、最近では日常の利用シーンでも、画面割れがしにくいなど壊れにくさが求められることから、スマートなデザインながら、米国国防総省が定めるMIL規格に準拠するなど、非常に頑丈なスマートフォンを実現している。

富士通の最新スマートフォン「arrows Be」は、あらゆる方向から落としても画面割れを防ぐなど、一般的なスマートフォンの形状ながら頑丈さに力が入れられている

8月に入り、富士通が富士通コネクテッドテクノロジーを売却するとの報道がなされていることからも、国内メーカーを取り巻く環境が非常に厳しいことはよく理解できるだろう。もはや規模で勝つことができない日本のスマートフォンメーカーに求められているのは、ニッチな市場であっても確固たる足場を築き、シャープのように外資の資本を受け入れるなど、どのような形であっても今の市場を生き残り、次の大きな市場変化を待つことであろう。多少値段が張ってでも、特定のユーザーやニーズに確実に刺さる価値を提供できるかが、今の日本メーカーにとって重要といえるのではないだろうか。