経済圏ビジネス拡大のため金融事業の拡大を進める携帯電話会社。各社が金融関連企業の囲い込みを進める一方で、KDDIが「auカブコム証券」(現・三菱UFJ eスマート証券)を手放し、SBI証券との提携検討を発表して証券会社とのオープンな提携関係を推し進める動きを見せている。一体なぜだろうか。
証券会社を手放したKDDIが別の証券会社とも提携
市場飽和や国策による料金引き下げにより、主力の携帯電話事業での成長がほぼ見込めなくなっている携帯電話会社。そこで携帯各社は、携帯電話サービスで多く抱える顧客基盤を軸に、自社系列の周辺サービスを利用してもらうことで優良顧客の囲い込みを進める、いわゆる経済圏ビジネスに力を入れるようになった。
そしてここ最近、その経済圏ビジネスで重要性が高まっているのが金融・決済関連の事業だ。自社系列の金融・決済サービスに顧客を取り込めば、金の流れそのものを囲い込めるだけあって、各社が競って関連事業の強化を図っている。
中でもそのことを象徴しているのがNTTドコモだ。同社はクレジットカードの「dカード」やスマートフォン決済の「d払い」などに強みを持つ一方、傘下に金融サービスを持っていなかったことから、相次ぐ企業買収で金融事業を急速に強化している。
実際、同社は2024年には証券会社のマネックス証券と、消費者金融のオリックス・クレジット(現・ドコモ・ファイナンス)を子会社化。2025年5月にはSBIホールディングスから住信SBIネット銀行の株式を公開買付で取得し、子会社化することを発表。念願の銀行を傘下に持つ目途が立ったことで、今後金融事業の強化に大きく舵を切るものと見られている。
だが一方で、それと逆行する動きを見せているのがKDDIだ。KDDIは2008年に、三菱東京UFJ銀行(現・三菱UFJ銀行)と「じぶん銀行」(現・auじぶん銀行)を設立、2019年には金融・決済事業の中間持ち株会社である「auフィナンシャルホールディングス」を設立するなど、携帯大手の中では金融関連の事業に古くから力を入れ、この分野では優位性を保ってきた。
だが同社は2024年11月に三菱UFJフィナンシャル・グループとの提携関係の見直しを発表、auじぶん銀行を100%子会社化する一方、やはり三菱UFJ証券ホールディングスと合弁で展開していた「auカブコム証券」を手放しているのだ。なおauカブコム証券は三菱UFJ銀行の100%子会社となり、名称も「三菱UFJ eスマート証券」に変更したものの、KDDIやauじぶん銀行との提携関係は継続している。
この見直しによって証券会社を失い、証券会社を傘下に持つ競合と比べ弱みが出てきたKDDIだが、同社は2025年7月30日に新たなアクションを起こしており、それは証券大手であるSBI証券との業務提携検討開始を発表したこと。この提携が実現すれば、auじぶん銀行口座からSBI証券の口座への入金がリアルタイムで可能になる「リアルタイム口座振替」を提供、さらにリアルタイム口座振替の利用者にauじぶん銀行の普通預金金利を優遇する施策も実施するとしている。
オープン戦略はこれから投資する人の獲得に不利
このことは、KDDIが自社傘下に証券会社を持ち顧客を強固に囲い込む戦略から、複数の証券会社とパートナーシップを組むオープンな戦略に転換したことを意味している。なぜKDDIは証券会社に関する戦略を大きく転換したのだろうか。
2025年8月1日にKDDIが実施した決算説明会で、代表取締役社長の松田浩路氏はこの点について「証券会社は顧客のニーズによってなかなか切り替えが難しい部分もあると思っている」と答えている。既に証券会社を利用している人が、KDDIに乗り換えたからといって新しい証券会社に切り替えるにはハードルがある。そこで提携する証券会社を増やすことにより、顧客の乗り換えハードルを下げながら携帯電話サービスやauじぶん銀行などの顧客増につなげたいというのがKDDIの狙いといえそうだ。
それゆえKDDIは今後、SBI証券以外にも提携する証券会社を増やしていきたい方針で、SBI証券ともauじぶん銀行での優遇だけでなく、三菱UFJ eスマート証券と同様にauマネ活プラン+での連携も実施するなど、他のサービスにも連携を広げていきたい考えのようだ。
ただ昨今の消費者は物価高の影響もあって、よりお得であれば強固な囲い込みも受け入れる傾向にあることから、オープン化による“薄く広く”の戦略は経済圏ビジネスであまり有利に働かない印象も受ける。実際、NTTドコモは元々、金融事業に関して幅広い事業者と提携するオープンな姿勢を重視していたが、昨今の“ポイ活”系プランなど競合の強固な囲い込み戦略が好評を得たことを受け、囲い込みの強化へと戦略を大きく転換している。
また日本では現状証券会社の口座を持つ、さらに言えば投資をしている人自体がそもそも多いとは言えない。一方で、昨今では日本政府が「貯蓄から投資へ」という方針を掲げ、新NISAの拡大に注力するなど、これから証券口座を持つ人を大きく増やそうとしている状況にある。
それゆえ将来を見据えるならば、今後証券口座を持つ人の獲得に重きを置いた方が、メリットがあるのではないかという見方もできる。実際NTTドコモは、2025年7月31日に「d払い」アプリ上でマネックス証券の口座開設から投資信託の積立までを簡単にできるようにする「かんたん資産運用」の提供を開始しており、まさにこれから証券口座を持つ人を、自社経済圏に取り込むことに力を入れようとしている。
オープン化戦略は入口を広げる上でメリットに働くことは間違いないのだが、そうしたことを考えるならば、現時点で証券口座を持つ人に重きを置いたKDDIの戦略が、将来的にはかえって裏目に出る可能性もある。証券会社を手放したことが経済圏ビジネスにどのような影響を与えるか、今後のユーザーの判断をしっかり見据えておく必要がありそうだ。




