KDDIは2025年4月10日、衛星とスマートフォンの直接通信サービス「au Starlink Direct」の提供を開始した。ロケット打ち上げ技術を持ち多数の衛星を打ち上げている米Space Exploration Technologies(スペースX)との提携により、KDDIが衛星・スマートフォンの直接通信サービスで大幅にリードした形となるが、競合は追いつけるのだろうか。
50機種以上で利用可能な「au Starlink Direct」
近年大きな進化を遂げている衛星通信だが、その中でも昨今注目を集めているのが、スマートフォンと衛星が直接通信するサービスの実現だ。とりわけ日本は山が多い島国で、自然災害も非常に多いだけに、手持ちのスマートフォンで衛星と直接通信ができることには大きな期待が寄せられている。
スマートフォンと衛星との直接通信サービスとしては、既に米アップルが緊急SOSの通報用として提供しており、2024年7月には日本での対応も進められている。だが緊急用途だけに限らない、幅広い用途で衛星とスマートフォンの直接通信を目指す動きもいくつか出てきており、中でも最も早くそれを実現したのがスペースXである。
スペースXは地上約340kmという低い軌道に衛星を多数打ち上げ、通信サービスなどに利用できる低軌道衛星群「Starlink」を構築しているが、同社はそこに、スマートフォンと直接通信できる機能を備えた衛星をおよそ600機追加。世界各国の携帯電話会社と提携し、地上のスマートフォンと直接通信できるサービスを提供している。
そして2025年4月10日、スペースXと提携関係にあるKDDIが、そのStarlinkを活用してスマートフォンと衛星による直接通信サービス「au Starlink Direct」の提供を開始している。
au Starlink Directは、KDDIのメインブランド「au」のユーザーのみが利用できるサービスで、当面の利用料金は無料。理論上は衛星と電波のやり取りができる、空が見える場所であれば利用可能なのだが、あくまでKDDIの基地局からの電波が入らない場所でのみ利用できる仕組みとなっている。
サービス開始時点で利用できるのは、SMSなどでのテキストによるメッセージのやり取りのほか、対応機種であれば緊急地震速報や国民保護情報(Jアラート)の受信、Androidスマートフォンであればさらに、Googleメッセージアプリを通じて「Gemini」とのチャットも利用できる。コミュニケーションだけでなく調べものをするのにも役立てられるようだ。
なお対応機種はauが販売したスマートフォンのうち、2022年以降発売のものを中心とした50機種。AndroidスマートフォンだけでなくiPhoneも含まれており、非常に幅広いユーザーが利用できる仕組みが整えられているようで、夏以降にはデータ通信への対応も進められるとのことだ。
競合のサービスが大きく動くのは2026年頃か
競合に先んじてスペースXがこうしたサービスを実現できたのは、他社が持ち合わせていないロケットの打ち上げ技術を持つからこそ。それだけに、衛星通信に関するスペースXの優位性は非常に大きく、そのスペースXと提携したKDDIがau Starlink Direct、そして衛星通信関連の活用では当面優位性を保つものと考えられる。
では、競合はKDDIにどうやって対抗しようとしているのだろうか。KDDIと同様に、衛星・スマートフォンの直接通信サービスの提供を進めようとしているのが楽天モバイルだ。
楽天モバイルは低軌道衛星を活用した通信サービスの提供を目指す米AST SpaceMobileに出資し、同社の衛星を用いたスマートフォンとの直接通信サービスを、2026年内に提供することを目指すとしている。それゆえ現在はサービス提供に向けた試験を進めている段階と見られており、具体的なサービス提供に向けた次のステップをいつ見せるのかが注目される。
一方で、衛星以外の手段でそれに対抗すると見られているのがNTTドコモだ。NTTドコモを含むNTTグループは衛星通信に関して米Amazon.comと提携しており、同社の低軌道衛星群による通信サービス「Project Kuiper」を活用すると見られている。
だがProject Kuiperの衛星打ち上げは日本時間の2025年4月10日に開始予定だったものの、悪天候で延期がなされている。それゆえ低軌道衛星を活用したサービスの提供にはまだ時間が掛かると考えられる。
一方でNTTグループは、成層圏を飛行して地上のスマートフォンと通信ができる「HAPS」にも力を入れており、2024年にはそのHAPSの機体を開発するエアバス・ディフェンス&スペース傘下のAALTO HAPSに出資。2025年3月3日にはケニア上空の高度約20kmを飛行するHAPSと、地上のスマートフォンとの通信によるデータ通信に成功したことを発表している。
そしてNTTドコモも、やはり2026年にHAPSによるサービス提供を目指すとしている。そうしたことから、各社のサービス提供が順調に進めば、およそ1年から1年半後くらいには、KDDI以外からも衛星またはHAPSを用いたスマートフォン向けの通信サービスが登場することになるようだ。
もちろん衛星、HAPSともに安定して通信できる技術開発と環境整備の難易度は非常に高いことから、各社のサービス提供が順調に進むとは限らない。それだけに、既に環境が整い具体的なサービスを提供しているau Starlink Directの優位性が簡単に揺らぐことはないだろうが、その優位性が将来にわたって続くとは限らないことも、また確かなようだ。