楽天モバイルは2024年5月2日、新たな割引サービス「最強こどもプログラム」の提供を開始した。12歳以下の人に対し、データ通信量が3GB以下であれば毎月440ポイントを還元するというものだが、楽天モバイルは2月に「最強家族プログラム」、3月に「最強青春プログラム」を提供開始したばかりでもある。なぜ料金のシンプルさを損なう割引施策を、立て続けに導入しているのだろうか。
新たな割引のターゲットは小学生
ゴールデンウィークの真っただ中となる2024年5月2日、楽天モバイルは新サービス発表会を実施し、新たな割引施策「最強こどもプログラム」の提供を開始することを発表している。
これはその名前の通り、12歳以下の子供を対象にした割引施策である。具体的には12歳以下のユーザーが、同社の料金プラン「Rakuten最強プラン」を契約してこの割引を申し込むと、月当たりの通信量が3GB以下であれば楽天ポイントを440ポイント還元するという。
それゆえ、家族契約により月額110円を割り引く「最強家族プログラム」と併用することで、3GBまでであればRakuten最強プランの料金が実質月額550円引きとなり、満13歳の誕生日を迎える前月までは毎月、実質520円で利用できる計算となる。
また利用できるサービスは通常のRakuten最強プランと同じで、端末も子供向けの専用デバイスなどではなく、一般的なスマートフォンを利用できるとのこと。楽天モバイルはスマートフォンが「基本的人権」であるとし、あらゆるサービスの入り口となるスマートフォンを、子供世代にもっと利用してもらうため今回の施策を展開するに至ったとしている。
ただし注意点もいくつかあり、データ通信が3GBを超えた場合はポイント還元額が110ポイントに減少するとのこと。また13歳を超えるとこのプログラムは適用できなくなり、22歳まで適用される「最強青春プログラム」へ移行することから、通信量が3GB以下であってもポイント還元額が110ポイントに減少する。
また18歳未満が楽天モバイルを契約する際は、法律に従ってフィルタリングサービス「あんしんコントロール by i-フィルター」(月額330円)の契約が必須なので、これを加えると最も安い場合の実質料金は月額850円ということになる。楽天モバイルとしては、フィルタリングは親権者の申請によって外すことも可能だとはしているが、フィルタリングサービスが有料であることは契約時の落とし穴となりそうなので十分注意すべきだろう。
顧客は「シンプルな料金」より「割引」を求めている
とはいえこの施策が、とりわけ12歳以下の小学生を持つ親世代にとって非常にお得なことは確かだろう。だが楽天モバイルが、2024年に入って割引施策を相次いで打ち出しているのは非常に気になる所だ。
実際2月には「最強家族プログラム」、3月には「最強青春プログラム」、そして5月には今回の最強こどもプログラムを提供するに至っている。短期間のうちにこれだけ相次いで割引施策を打ち出すことは異例ともいえるのだが、その背景には何があるのだろうか。楽天モバイルのマーケティング企画本部 本部長である中村礼博氏によると、そこにはこれまでの割引施策の実績が大きく影響しているようだ。
中村氏によると、最強家族プログラムの提供後に家族の新規申し込み数がおよそ2倍となったほか、その契約数も2024年4月末時点で50万を突破しているとのこと。さらに最強青春プログラムの提供によって22歳以下の新規申し込み数が約2倍に増加、若年層の獲得にもつながっている様子を示している。
それら一連の施策もあって、MVNOによるサービスを除いた楽天モバイルの契約数は2024年4月3日に650万回線を超えており、700万契約の突破もそう遠くないと中村氏は話している。一連の割引施策が具体的にどの程度契約数を伸ばしたかについては言及を避けているが、割引施策が従来獲得できていなかったファミリー層の獲得に一定の効果を上げたことが、今回の最強こどもプログラムの提供に至る要因となったことは確かなようだ。
大規模な赤字に苦しむ楽天モバイルは、売上を増やすためにも契約数の拡大が至上命題となっており、同社では2024年12月までに契約数を800万~1000万回線にまで増やすことを目標に掲げている。それだけに、成果が出た割引施策を拡大して契約数を増やしたいというのが楽天モバイルの本音と言えるだろう。もちろん割引が増えればARPUが下がってしまう懸念もあるのだが、同社としては当面、契約数を大幅に増やすことでそれをカバーしていく考えのようだ。
ただこれだけ割引施策を増やすと、従来楽天モバイル打ち出していた「シンプルなワンプラン」という特徴が失われ、割引施策を前提とした値引きを打ち出す競合他社の料金プランと大きな違いがなくなってしまうのも確かだ。現在も楽天モバイルの料金プランは、プランが1つでベースの料金が安いという点でまだ競合と差異化できているが、今後もし、ARPUを引き上げるためその料金に手を加えた場合、競合との差が大幅に減少してしまいかねないだろう。
とはいえ競合他社のこれまでの動向を振り返ってみても、複雑な割引施策の導入は顧客の声に応えた結果であったこともまた確かだ。楽天モバイルも顧客の声を聞いて競争に勝ち抜くため、シンプルさという理想を捨てて携帯各社の轍を踏まざるを得なくなったというのが正直な所であり、今後同社の料金プランは徐々にシンプルさを失い、競合他社のプランに近づいていくのではないかと筆者は見ている。