2024年1月1日に発生した能登半島地震が、非常に大きな被害をもたらしている。その影響は携帯電話のネットワークにも及んでいるが、2011年の東日本大震災以降、携帯各社はさまざまな技術を駆使した災害対策の強化に当たっており、能登半島地震での復旧にもそれら技術が積極活用されているようだ。

2社の船上基地局が同時に稼働し沿岸のエリアを復旧

2024年の年明けとなった1月1日に発生し、非常に大きな衝撃を与えた能登半島地震。震度7の非常に強い地震と、それに伴う津波が発生するなどして石川県を中心に大きな被害をもたらしており、その全容は現在も把握できない状態にある。被害を受けた方々には心よりお見舞い申し上げるとともに、被災地のいち早い復旧・復興を願ってやまない。

今回の能登半島地震では道路や水道、電気などのインフラにも大きな影響が出ているようで、それが被災者の生活、そして現地での救助や復旧活動などにも大きな支障をもたらしているようだ。それはもちろん、重要なインフラの1つでもある携帯電話のネットワークにも大きな影響を与えている。

実際携帯各社が公表しているエリアマップを見ると、能登半島の広範囲で携帯電話のサービスが中断していることが分かる。その要因は主に電力の途絶による停電と見られ、各社の基地局だけでなく、その根幹となる光ファイバー網を担う西日本電信電話(NTT西日本)においても、停電の長期化で非常用電源が枯渇し、通信が利用できないエリアがいくつか生じているという。

  • NTT西日本の2024年1月6日の報道発表資料より。停電の影響は同社の固定通信網にも及んでおり、非常用電力の枯渇でサービス提供できない地域もある

    NTT西日本の2024年1月6日の報道発表資料より。停電の影響は同社の固定通信網にも及んでおり、非常用電力の枯渇でサービス提供できない地域もある

地震の影響により道路が寸断しており、救助や物資の輸送などもままならず、孤立している地域がいくつか生じている状況では、電力の復旧が思うように進まず停電のさらなる長期化が予想される。そこで携帯各社も、持ち得る技術や設備を積極投入していち早くネットワークを復旧することに全力を注いでいるようだ。

  • KDDIの復旧エリアマップ(2024年1月6日時点)。移動基地局などを配備して復旧に当たっている様子がうかがえるが、それでも灰色の復旧していないエリアが多く見られる

実際、通信の途絶が長期化している2024年1月6日には、携帯各社が大きな取り組みを相次いで打ち出している。その1つとなるのが、NTTドコモとKDDIが「船上基地局」の運用を開始したことだ。

船上基地局とは文字通り、船の上に設置した携帯電話基地局である。衛星通信をバックホール回線として用い、船上から電波を射出して対岸の地域でモバイル通信を利用できるようにするというもの。今回はNTTドコモグループのNTTワールドエンジニアリングマリンが運用する海底ケーブル敷設船「きずな」に搭載された2社の船上基地局を用い、石川県輪島市野町の沿岸付近の復旧を図るとしている。

  • NTTドコモとKDDIは、NTTワールドエンジニアリングマリンの海底ケーブル敷設船「きずな」に基地局を搭載し、復旧が困難なエリアを海上から復旧している

船上基地局はKDDIが2018年の胆振東部地震で大きな被害を受けた北海道と、2019年の台風15号でやはり大きな被害を受けた千葉県で運用した実績があるが、NTTドコモの運用は初だ。実はNTTドコモの親会社となる日本電信電話(NTT)とKDDIは2020年に社会貢献連携協定を締結しており、NTTグループの船にKDDIの船上基地局も搭載しているのは、この協定により災害時の相互協力がなされているからこそなのだ。

  • 「きずな」に搭載されたKDDIの船上基地局。KDDIはバックホールの衛星回線にStarlinkを用いているようだ

ソフトバンクはドローンで空からの復旧を図る

一方、ソフトバンクも2024年1月6日に、ネットワーク復旧に向けた取り組みの一環として、石川県輪島市門前町の一部エリアで「有線給電ドローン無線中継システム」の運用を開始したことを明らかにしている。

これはある意味、移動基地局の電波をドローン経由で射出することにより、通常の移動基地局より離れた場所を、広範囲でカバーする仕組み。具体的には基地局接続した無線中継装置(親機)から、有線でドローンの無線中継装置(子機)に中継し、そこから携帯電話の電波を射出して周辺をカバーする形となる。

またドローンとは有線接続していることから電力を供給することも可能。それゆえ連続で100時間、およそ4日以上連続してドローンを飛ばし、そのエリアをカバーし続けることができるという。

  • ソフトバンクは2022年より有線給電ドローン無線中継システムの運用を進めており、それを活用して遭難者の位置を特定する実証実験なども実施している

このシステムはソフトバンクが2022年7月から運用開始しているもので、それを活用した実証実験を実施してきた実績もある。ドローンの活用ということもあって天候に左右される部分も大きいが、人が入りにくい場所を復旧するのに大きく貢献することは確かだろう。

NTTやKDDIは海底ケーブルの敷設船を長きにわたって運行している実績があるし、ソフトバンクはドローンだけでなく、係留気球を用いた無線中継システムも保有しているほか、成層圏を飛行して上空からモバイル通信をカバーする「HAPS」(High Altitude Platform Station、成層圏通信プラットフォーム)の研究にも力を入れている。そうした各社の強みを生かして、通常の手段では復旧が難しいエリアのカバーを積極的に進めている様子を見て取ることができるだろう。

こうした取り組みが進んだのは、2011年に発生した東日本大震災の経験が大きいだろう。東日本大震災では非常に広範囲にわたってインフラが破壊されただけでなく、福島第一原子力発電所の事故も招いたことで立ち入るのが難しい場所なども生じ、各社とも従来の手段だけではネットワークの早期復旧が困難な状況に陥っていた。そこで大規模災害発生時により迅速にネットワークの復旧を進められるよう、さまざまな技術や手段の開発が進められていった経緯がある。

  • 東日本大震災の教訓から、携帯各社は大規模災害時の早期復旧に向けたさまざまな技術開発を進めてきた。実際船舶に基地局を搭載する取り組みも、KDDIは2014年から実証実験を進めてきている

それだけに今回の各社の災害対応を見ると、2011年の状況と比べ大幅に進化した印象を強く受ける。ただそれでも通信の途絶を完全に防ぐことはできていないこともまた確かであり、今後はNTN(Non-Terrestrial Network、非地上系ネットワーク)の進化による、衛星やHAPSとスマートフォンが直接通信できる仕組みの確立などで、非常時でも通信が途絶しない仕組みの構築が求められるだろう。