今回は、区画配置の話について書いてみたい。「軍事とIT」という看板にマッチしていないような気もするが、そこは後の方で強引にこじつけてみることにする。

区画配置とは

艦艇の設計には「区画配置」の話が欠かせない。艦艇がフネとしての機能や戦うための機能を果たすには、さまざまな区画が必要になるが、それをどこにどう配置して、どの程度の面積・容積を割り当てるか、という話である。

極端な話、武器や弾薬を収容するための区画が、その武器や弾薬のサイズよりも小さかったのでは、使い物にならない。司令部要員を50人載せるのに、居住区画が40人分しかなかったのでは具合が悪い。もっとも、第2次世界大戦の頃は、この手の話は続発したようである。

ただし、単に場所さえ確保すればよいというものでもない。機能を果たす上で、効率の良い場所とそうでない場所がある。例えば、艦長は普段なら艦橋に陣取って指揮を執るし、戦闘の際には戦闘情報センター(CIC : Combat Information Center)が定位置になる。だから、艦長室は艦橋ともCICとも行き来しやすい場所に置かないと具合が悪い。いざというときに、艦長が艦内を駆けずり回る羽目になってしまう。

こうした事情を考慮すると、一般的な水上戦闘艦の場合、艦橋構造物あるいはその直下に、士官室や士官居住区、艦長室、司令室、CICなどといった「頭脳」にあたる区画が集中することになる。そして、コミュニケーションの手段となる通信室も、その近隣に配置する。

これは、旗艦関連施設についても同じことがいえる。司令や司令官、その幕僚などのスタッフのために設ける居室と仕事場は、近いほうが好ましい。今の海上自衛隊のヘリコプター護衛艦が、司令部が使用する指揮所として旗艦用司令部作戦室(FIC : Flag Information Center)を設置している話は以前に書いた。それなら、司令の居室や司令公室、司令部の幕僚が使用する事務室など、関連する区画をFICの近所にまとめるのが合理的となる。

既存の水上戦闘艦を後から旗艦に改造すると、そういう理想的な配置が難しい。区画を増やすために甲板室を増設するといっても、普通、艦橋やCICの近くにそんな空きスペースはない。後方の離れた場所に甲板室を増設して司令部区画を押し込めたのでは、行き来が面倒になってしまう。

ミッドウェイなら現物を見られる

空母ないしは空母型の艦では、上部構造物のサイズはできるだけ小さくしたいし、主船体の上の方は格納庫で占められている。だから、別の場所を探さなければならない。

すると、飛行甲板と格納庫甲板の間にギャラリー・デッキと呼ばれる甲板を設ける配置は都合がよい。艦橋から比較的近いし、飛行甲板の平面型と同じ規模の甲板を設けることができるから、広いスペースを確保するにも向いている。

あいにく、艦艇の一般公開があっても、CICまで見せてくれるケースは極めてまれだし、艦長室や司令室を見せてくれたなんて話は聞いたことがない。艦長や司令のお客様として個人的に艦を訪れた場合は、話が違うだろうけれど。

ところが良くしたもので、(本連載では何回も引き合いに出しているが)カリフォルニア州サンディエゴで博物館になっている米空母ミッドウェイを訪れると、その辺の事情を垣間見ることができる。CICに隣接する区画に、(あくまで軍艦としては、という意味で)立派な内装を施して調度類を整えた区画がある。

  • 空母ミッドウェイでは、CICに隣接する、こんな区画がある。奥にあるハッチの向こうはCICだ 撮影:井上孝司

    空母ミッドウェイでは、CICに隣接する、こんな区画がある。奥にあるハッチの向こうはCICだ

椅子のカバーに二つ星が書かれているから、そこに座る人は海軍少将だ。空母の艦長は大佐だから、この区画は艦長よりも上級の人が陣取る場所、つまり司令用の公室だとわかる。ここで会議をしたり食事をとったりするから、食器室も隣接している。そして、公室だけでなく専用のシャワーとトイレを備えた寝室も隣接している。

これが何を意味するか。司令は職住近接どころか職住隣接というわけだ(筆者の自宅と同じである)。何かあればすぐに、公室にもCICにもすっ飛んでいくことができる。せっかく立派な寝室を用意してもらっても、そこで十分に寝ていられるかどうかは別の問題。何かあればすぐに叩き起こされるのが、司令や艦長である。

区画配置が決まれば機器配置も決まる

こうして諸区画の設置場所が決まれば、それは旗艦としての機能を支えるさまざまな機器、つまり指揮管制システムを構成するコンピュータ機器や、通信機などの配置場所にも影響する。わざわざCICやFICから離れた場所に機器を設置するのは合理的な話ではないから、隣接する、あるいは近所の区画に置くのが理想的となる。

そして、メンテナンス性やアップグレード改修の際の利便性を考慮すると、機器室にも相応に広い区画を確保したい。艦型を空母型にして、ギャラリー・デッキに機器室を含む諸区画を集中することのメリットは大きい、と理解していただけると思う。

それに、普通の水上戦闘艦で艦橋構造物直下にあたる艦の中央、空母型の艦で上部構造物に近いギャラリー・デッキ内に指揮管制関連の機器や区画を設置すれば、上部構造物に設けるアンテナ類との距離も近くなる。その分だけ、配線を引き回す手間が減る、といえるかもしれない。

  • ヘリコプター護衛艦「ひゅうが」のエレベーターを降ろしたところ。格納庫甲板の天井を直に飛行甲板にしないで、間にギャラリー・デッキを設けている様子が分かる。主要区画はここに集中している 撮影:井上孝司

    ヘリコプター護衛艦「ひゅうが」のエレベーターを降ろしたところ。格納庫甲板の天井を直に飛行甲板にしないで、間にギャラリー・デッキを設けている様子が分かる。主要区画はここに集中している

機器配置の話が出たところで、旗艦の話からは外れるが、余談をひとつ。仏海軍では、FDI(Fregates de Defense et d'Intervention)という新型水上戦闘艦の建造計画を進めている。このFDIで面白いのは、CICの配置。

普通の水上戦闘艦では、戦闘被害をできるだけ抑制するために、CICをはじめとする指揮管制関連区画は主船体内に設けて、さらにその両側に通路や区画を配置している。昔は、艦橋との行き来のしやすさを考えて上部構造物の内部に設ける事例が多かったが、それでは危ないというわけだ。

ところがFDIは、艦橋直後の上部構造物内にCICを設置する。すると、CICで使用する機器類は、上部構造物に設置するレーダーや通信などのアンテナ類と近いところに位置することになる。つまり、艦の頭脳にあたる機能を上部構造物にひとまとめにしてしまうわけで、艤装や後日の改修はやりやすそうだ。しかし素人目には、抗堪性の面で不安があるんじゃないかと思える。そこをどう解決するつもりなのか、興味は尽きない。

著者プロフィール

井上孝司


鉄道・航空といった各種交通機関や軍事分野で、技術分野を中心とする著述活動を展開中のテクニカルライター。
マイクロソフト株式会社を経て1999年春に独立。『戦うコンピュータ(V)3』(潮書房光人社)のように情報通信技術を切口にする展開に加えて、さまざまな分野の記事を手掛ける。マイナビニュースに加えて『軍事研究』『丸』『Jwings』『航空ファン』『世界の艦船』『新幹線EX』などにも寄稿している。