これまで、最新レーダーについてメーカー単位で紹介してきたが、今回は趣向を変えて、用途にフォーカスしてみる。お題はミサイル防衛(MD : Missile Defense)用のレーダー。

BMEWSからSSPARSを経てUEWRへ

冷戦期にアメリカ軍は、ソ連からのICBM攻撃に備えて、飛来するミサイルを探知・追尾するためのレーダー網を構築していた。それがBMEWS(Ballistic Missile Early Warning Radar System)で、地上にばかでかいレーダー・アンテナを固定設置していた。メーカーはRCA、制式名称はAN/FPS-50、設置場所は以下の3カ所。

  • トゥーレ空軍基地(グリーンランド)
  • フィリングデール英空軍基地(イギリス)
  • クリアー空軍施設(アラスカ州)
  • かつてクリアー空軍施設に据えられていたBMEWSのアンテナ群 写真 : USAF

    かつてクリアー空軍施設に据えられていたBMEWSのアンテナ群 Photo : USAF

アメリカ本土に飛来するミサイルの監視場所としては奇異に感じられるかもしれないが、地球を真上から見ると、ソ連から飛来する弾道ミサイルは主として北極圏越しに飛来することがわかる。だから、この配置になった(同じ理由で、爆撃機やICBMの基地はアメリカ本土・中央のカナダ国境寄りに多い)。

フィリングデールのレーダーは3面のアンテナを持ち、全周をカバーできるが、他の2カ所は2面のアンテナなので、カバー範囲は240度程度となる。この違いは、脅威が飛来する想定方向の違いによるものと思われる。

なお、後日にAN/FPS-92追尾レーダーが加わったが、これは84ft(約25.6m)径のアンテナをレドームに収める構造だった。

BMEWSについては、1980年代にソリッドステート化したフェーズド・アレイ・レーダー・SSPARS(Solid State Phased Array Radar System)への更新を実施した。アンテナ・アレイの数が異なるためなのか、場所によって形式が異なり、2面設置のトゥーレとクリアーはAN/FPS-120、3面設置のフィリングデールはAN/FPS-126という。使用する電波の周波数帯はUHF。

このほか、アメリカ東西両海岸にもレーダー施設を設けたが、これは潜水艦から発射するSLBMを探知するためのもの。使用するレーダーはAN/FPS-115 PAVE PAWS(Phased Array Warning System)といい、設置場所は2ヵ所。

  • ケープ・コッド空軍施設(マサチューセッツ州)
  • ビール空軍基地(カリフォルニア州)

直径72.5ft(22.1m)のアンテナ面に2,677個のダイポール・アンテナを並べており、うち1,792個は送受信兼用、残りは受信専用、使用する電波の周波数帯はUHF。こちらも1980年代に、ソリッドステート化したAN/FPS-123に交替した。

21世紀に入ってから、これら5カ所の早期警戒レーダーをAN/FPS-132 UEWR(Upgraded Early Warning Radar)に更新する計画がスタートした。担当メーカーはレイセオン。まずビール、フィリングデール、トゥーレのレーダーを更新して、その後にクリアーとケープ・コッドのレーダーを更新するという順番になった。

同じUEWRだが場所によってサイズが異なり、フィリングデールとトゥーレのものは84ft(25.6m)径、ビールのものは73ft(22.25m)径となっている。過去に据え付けていたレーダーの違いによるのだろう。

  • トゥーレに据え付けられたUEWR 写真 : USAF

    トゥーレに据え付けられたUEWR Photo : USAF

究極のネットワーク化交戦

ミサイル発射を探知するのは、赤外線センサーを備える早期警戒衛星の仕事だが、その後の追尾を引き受けるのが前述したレーダー施設。探知可能距離が長くないと仕事にならないので、電波の周波数帯はUHF(300~3GHz)、探知可能距離は3,000マイル(約4,800km)とされている。

そして、探知情報を指揮管制システムに送る。今なら、これはC2BMC(Command, Control, Battle Management, and Communications)だ。そこでデータを集約して、警報を発したり、最適な地点にいる迎撃用資産に交戦の指示を飛ばしたりする。

だから、早期警戒衛星、早期警戒レーダー、イージス艦や各種の迎撃ミサイル・システムはすべてネットワーク化しておく必要があるわけで、ミサイル防衛は究極の「ネットワーク化された交戦」といえる。

弾道ミサイルの場合、いったん大気圏外に飛び出して弾道飛行を行うから、探知可能距離が長いレーダーがあれば、捕捉・追尾は可能である。しかし、低空を飛来する巡航ミサイルが増えてきているのに加え、弾道飛行を行わない極超音速飛翔体が出現したため、今後は早期警戒のあり方も見直さざるを得なくなると思われる。

以前に、飛行船に下方監視用のレーダーを搭載して巡航ミサイルの飛来を監視させる、JLENS(Joint Land Attack Cruise Missile Defense Elevated Netted Sensor)などの計画が持ち上がったことがあったが、実現せずに終わってしまった。

他国の状況は?

ここまではアメリカの話だが、対する旧ソ連~ロシアはどうか。最新のヴォロネジ・レーダーの場合、VHFを使用するヴォロネジ-Mと、UHFを使用するヴォロネジ-DMの2機種がある。ヴォロネジの前に使用していたレーダーは、VHFのみだった。

拠って立つ物理法則が同じだから当然の帰結といえるが、低めの周波数を使用して、探知距離の長さを重視しているところは同じである。

なお、弾道ミサイル早期警戒レーダーの輸出事例には、台湾向けのAN/FPS-115と、カタール向けのUEWRブロック5がある。どちらの国も自前の弾道ミサイル早期警戒レーダーは持ち合わせていないから、輸入に頼ったわけだ。カタールの想定脅威はイラン、台湾の想定脅威は中国だろうから、発射地点は比較的自国に近い。すると、発射されたミサイルは程なくしてレーダーの覆域に入る、ということだろうか。

著者プロフィール

井上孝司


鉄道・航空といった各種交通機関や軍事分野で、技術分野を中心とする著述活動を展開中のテクニカルライター。
マイクロソフト株式会社を経て1999年春に独立。『戦うコンピュータ(V)3』(潮書房光人社)のように情報通信技術を切口にする展開に加えて、さまざまな分野の記事を手掛ける。マイナビニュースに加えて『軍事研究』『丸』『Jwings』『航空ファン』『世界の艦船』『新幹線EX』などにも寄稿している。