ここまでは陸上、あるいは空中で使用する起爆装置(信管)の話を中心に取り上げてきた。しかし、爆発物が関わる戦闘空間はもう1つある。水中である。ということで今回は、水中で使用する武器、つまり魚雷・機雷・爆雷の起爆装置について。

直撃する VS 真下で爆発させる

まずは、魚雷。今では魚雷(torpedo)という言葉が一般的になっているが、元をたどると「魚型水雷」の略だそうだ。それはそれとして。

魚雷の主要な構成要素は、走るための推進器と、破壊するための弾頭である。ただし、今の魚雷はホーミング魚雷なので、さらに誘導機構も備えている。もっとも、誘導機構がない魚雷でも、ジャイロスコープを使って針路を維持する仕掛けや、指定した深度を航走する仕掛けは備えている。

ただ単に「炸薬に推進器をつけただけ」ではなくて、実は高度な技術力を求められるのが、魚雷という製品である。そもそも、外乱によって針路を乱されることもあるのだから、実はまっすぐ走らせるだけでも難しい。ちなみに、魚雷が走ることを駛走(しそう)という。

魚雷の一般的なイメージとしては、ターゲットとなる敵の艦船にぶつけて、そこで弾頭を起爆させるというものだろう。確かにそういう使い方はあって、その場合の起爆装置は比較的シンプルだ。魚雷が命中した時に、撃針が慣性の法則によって前進して雷管をひっぱたけば、それで起爆する。以前に取り上げた撃発信管である。

魚雷の強みは、海中で爆発するので、船体の損傷に加えて浸水を引き起こせる点。命中した相手の艦船は、浸水を止められなければ沈んでしまう。ただし、それを避けようとして相手もいろいろ対策しているから、土手っ腹に魚雷をぶつけて破口を開ければ必ず撃沈できます、とは限らない。

そこで、船体に直撃させるのではなく、船体から離れた真下の海中で魚雷を起爆させる方法が考え出された。炸薬が起爆すると、それによって一種の気泡が発生するが、それはすぐに終息する。

すると、船体は下部から持ち上げられるとともに曲げられる。それに続いて、今度は落とされるとともに反対方向に曲げる力がかかる。その結果、船体がジャックナイフのように折れてしまう。これでは防水対策も何もあったものではない。この一連の動きをバブルパルスと呼ぶ。

参考 : バブルパルス(Wikipedia)

ところが、これを実現するには1つ、重大な問題がある。駛走している魚雷は、どうやって「船体の真下」に到達したことを知るのだろう?

船体は磁気を帯びている

そこで考え出されたのが、磁場を利用する方法だった。軍艦でも商船でも、普通は鉄でできている。そして鉄は磁性体である。だから、周囲からの影響によって、船体が磁場を帯びてくることになる。

ということは、駛走している魚雷が目標艦船の真下に行くと、磁場の変化が生じるはずである。それを感知して起爆装置を作動させれば、船体の真下、ないしはそれに近いところで起爆させられるはずである。

これがいわゆる「磁気信管」。第2次世界大戦の頃から、魚雷で広く使われている信管である。バブルパルスを実現するには不可欠のアイテムである。

ところが、磁気を利用するとなると、少々、厄介な問題が発生する。磁気というのは、艦船の船体から発生するものだけではないのだ。

実際、第2次世界大戦の初めの頃、ノルウェー方面でドイツ海軍の潜水艦が磁気信管付きの魚雷を使用したところ、作動不良が続発した。スカンジナビア半島方面は良質な鉄鉱石の産地として知られているが、鉄鉱石とは鉄の原材料である。したがって、磁力による影響は避けられない。どうやら、その鉄鉱石が磁気信管に「わるさ」をしていた、ということのようであった。

このほか、深度調定という問題もある。駛走深度が浅いと、船体の真下を通過するのではなく船体に直撃してしまうから、意図した通りの威力を発揮できない。

したがって、磁気信管を付けた魚雷を発射する時は、目標艦船の吃水よりもさらに何メートルか深いところを駛走するように設定する必要がある。ということは、まず目標艦船の吃水を判断するなり調べるなりして、それより深い駛走深度を指定しなければならない。

ところが、ときどき出来そこないの魚雷があって、調定した通りの深度を駛走しないことがある。それでは役に立たない。

さて。

艦船の船体は鉄で作らざるを得ないので、そのままでは磁気信管の餌食になりやすい。そこで軍艦の場合、磁気信管を作動させないように邪魔をしようとして、船体が帯びている磁気を消すようにしている。船体が帯びている磁性を測定してから、それとは逆向きの磁気を浴びせることで、打ち消しあって磁性が消える仕組み。

この、磁性の測定と消磁を行うのが「消磁所」と呼ばれている施設。実は、これが誰でも見られる場所にある。場所は横須賀軍港の港外だが、その近くを「横須賀軍港めぐり」の船が通るのである。

  • 横須賀消磁所。外から見ると、海面上に謎の構造物がいくつか突き出ているだけだが、肝心の仕掛けは海中にあるので、こういうことになる

たぶん、その横須賀消磁所の脇を通る時、あるいはその先で船越地区に行った時に軍港めぐりのガイドさんが教えてくれると思うが、掃海艇の船体は鋼鉄を使用しないのが一般的だ。昔なら木造、最近だとガラス繊維強化樹脂が主流である。なぜか。

著者プロフィール

井上孝司


鉄道・航空といった各種交通機関や軍事分野で、技術分野を中心とする著述活動を展開中のテクニカルライター。
マイクロソフト株式会社を経て1999年春に独立。『戦うコンピュータ(V)3』(潮書房光人社)のように情報通信技術を切口にする展開に加えて、さまざまな分野の記事を手掛ける。マイナビニュースに加えて『軍事研究』『丸』『Jwings』『航空ファン』『世界の艦船』『新幹線EX』などにも寄稿している。