筆者は、軍用機についてしばしば「ドンガラ(機体)よりもアンコ(ミッション・システムやウェポン・システム)のほうが大事」と言っている。どんな機体にも共通する話ではあるが、特にアンコが大事な機体と言えば、「AWACS(Airborne Warning And Control System)機」ではないだろうか。ドンガラの部分は既存の民航機と基本的に同じである。
E-3セントリーの場合
AWACSを名乗れる機体は目下のところ、2機種のみ。その1つがボーイングE-3セントリーである。アメリカ、イギリス、フランス、NATO、サウジアラビアで運用している。ドンガラはボーイング707で、そこにレーダーやコンピュータや通信機器を満載している。航空自衛隊のE-767もそうだが、電力消費も電子機器からの発熱も膨大だ。だから、ベースモデルよりも電源や空調の能力を強化する必要がある。
E-3は登場してから30年かそこら経過しているだけに、昔と同じミッション・システムで済ませるわけにはいかない。だからE-3は、1度どころか、2度も3度もアップグレード改修を受けている珍しい機体である。
そのアップグレード改修により、「ブロック20/25」「ブロック30/35」「ブロック40/45」と複数の仕様に分かれていて、最新仕様が「ブロック40/45」。米空軍ではこれをE-3Gと呼んでいる。
AWACS機のミッション・システムが備える性能というと、ついつい「レーダーの探知距離の長短」にばかり目がいってしまう。それがどうでもいいわけではないが、それだけでは決まらない。
探知距離が長くなれば、探知する可能性がある目標の数が増えるのだから、情報処理能力も強化しないと追いつかない。だから、コンピュータの処理能力や管制員の数も大事だ。
また、得られた情報に基づいて指揮下の戦闘機に指令を出したり、上級司令部や本国に報告を上げたりするには、通信能力がモノをいう。E-3の実機を見ると一目でわかるが、背中に衛星通信などのアンテナがズラッと並んでいて壮観だ。実は、これこそがE-3の任務を支える神経線だと言える。
そのE-3のアップグレード改修は、「レーダーの能力向上」「レーダー以外のセンサーの追加や能力向上」「コンピュータの処理能力向上」「通信能力の向上」に大別できる。
このうちレーダーの能力向上については、当初のAN/APY-1レーダーが洋上捜索能力を強化したAN/APY-2レーダーに変わり、さらにRSIP(Radar System Improvement Program)適用による能力向上改修を受けている。探知能力や耐妨害性の向上、信頼性の向上を狙ったものだ。
レーダー以外のセンサーとしては、AN/AYR-1(V)というESM(Electronic Support Measures)装置がある。機首の両側面に張りだしたアンテナ・フェアリングがそれで、電波を受信して発信源の種類や方位を突き止める。レーダーで探知した目標は、それだけだと「電波を反射してくる誰かさん」にすぎないが、ESMの場合、(事前に電子情報を収集してあれば)何者なのかを知ることができる可能性がある。
手前側の胴体側面にある張り出しがAN/AYR-1。奥の胴体上に載っている円盤がAN/APY-2レーダーのロートドーム。「U.S. AIR FORCE」と書かれたあたりの屋根上に、衛星通信などのアンテナが並んでいる |
コンピュータは、初めに使っていた1970年代モノのCC-1セントラルコンピュータをIBM製のCC-2Eに変更、さらに最新のブロック40/45ではWindowsやLinuxが動作するCOTS(Commercial Off-The-Shelf)品に変更した。当然、処理速度も記憶容量も桁違いに増大している。
通信能力の向上は、通信機を新型化するとか、通信機の数やチャンネル数を増やすとかいった話になる。見通し線範囲内にいる戦闘機などとの通信ならVHF/UHF通信機を使うし、見通し線圏外の通信なら衛星通信を使う。初期のE-3と今のE-3の最大の外見的な違いは、この衛星通信アンテナの数かもしれない。
なお、E-3には「非協力的目標識別(NCTR : Non-Cooperative Target Recognition)」なる機能があって、IFF(Identification Friend or Foe)で正体を誰何するのとは別に、相手機による応答が得られなくても探知した機体の正体を調べられるらしい。一説によると、レーダーが受信した反射波の内容を調べているのではないかというのだが、機密度が高く、詳細は不明である。
アップグレード改修で必要になる作業
では、アップグレード改修の作業は具体的にどうやるのか。
AN/AYR-1(V)は機体構造に手を入れなければ取り付け不可能だが、コンピュータやレーダー機器の変更であれば、既存の機器を取り外して新しい機器を搭載する、という流れになる。もちろんフォームファクタが変われば取り付け用の金具などは変えなければならないだろうし、機器の外形やサイズや重量が変わるのだから、重量配分が狂わないように配慮しながら設置位置を検討する作業も必要になる。
ダウンサイジングの御時世だから、基本的にはコンピュータが新型化すれば小さくなりそうなものだが、新しい機材を追加する場面も少なくないので、機内の空きスペースが増える期待は持てないと思われる。
もちろん、機器が増えれば電源や空調の強化も必要になる可能性がある。艦載コンピュータだと水冷を多用するが、航空機に搭載するコンピュータでは、それはない。なんとかして空気で冷やさなければならない。
もちろん、一番大事なのはレーダーやその他のミッション・システムのアップグレード改修だが、飛行機として安全に飛べることも大事である。だから、「通信・航法・監視・航空管制(CNS/ATM : Communication Navigation Surveillance and Air Traffic Management)」関連の改修も行われている。
日本のAWACSは?
米空軍のE-3がアップグレード改修を実施すると、その後を追うようにして他のE-3カスタマーも同内容のアップグレード改修を実施している。性能が向上するのだからそのほうが良いし、米軍の機体と仕様が異なると、ハードウェアやソフトウェアの互換性が保てなくなり、将来的な保守や維持管理に支障を来すからだ。
その辺の事情は、E-3のアンコをボーイング767のドンガラに搭載した航空自衛隊のAWACS機・E-767も変わらない。こちらも米空軍と足並みをそろえて、RSIP適用やミッション・システムの更新といったアップグレード改修計画が進行中だ。
ただ、E-767を外から眺めた限りでは、明らかに通信用アンテナの数が違う。衛星通信アンテナの数が少ないのだ。また、現時点ではAN/AYR-1(V)らしきモノも見当たらない。だから、空自のE-767が搭載するミッション・システムが、まるっきり米空軍のE-3と同じというわけでもなさそうである。