先日夫が防災セットを購入していた。

うちには一応防災袋があるのだが、買ったのはもう数年前である、いくら防災用の水や食料が長持ちと言っても定期的に入れ替えは必要である。

その結果、賞味期限切れの乾パンと「えいようかん」2箱が交換となった。

えいようかんとはその名の通り栄養が豊富な羊羹なのだが、メーカーが井村屋なので保存食であることを感じさせない美味さであり、普通におやつとして完食した。

しかし何せえいようかんなので、1本200カロリーぐらいある。

ろくに汗をかかない奴が塩飴を食いすぎて腎臓を破壊するように、飢餓状態にない人間が間食としてこれを食ったら別の生命の危機が訪れそうな気もするが、食べ物は粗末にできない。

地震や台風ではなく「滅亡」への備え

別に不自然なこともなく、私の血糖値がスパイクしたのも相まってこの出来事のことはすっかり忘れていたのだが、後日になって、この夫の行動が例の「7月5日に日本滅亡」に備えてだったことが判明した。

日本が両断(縦か横かは不明)しようかというときに、たかだか羊羹の1000カロリー(5本入り)で防げるものなのか、どうせなら仕事を辞めて手製の箱舟を作り出すぐらいわかりやすくしてほしい。

滅亡に対する備えとしてあまりにも地味すぎたため、ただ家の防災グッズを刷新した人になっただけで済んだが、夫がネットの陰謀論を鵜呑みするタイプだったというのは衝撃である。

そういえば、「呪術廻戦」が終わる前にも「YouTubeで見たけど五条先生って実は」などと言っていたのを思い出した。

これが他人であれば「いい年して陰謀論を信じるなカス、俺のように一周回ってキムタクの娘姉妹がやってるショート動画を見ろ」と言えるのだが、近しい身内がこうなると意外と強く言えないものであり「そういうのって大概デマだからね」程度のぬるい苦言しか呈せないのだ。

配偶者相手でもこれなのだから「高齢の親が陰謀論にハマった人」の苦労は想像に余りある。

リアルを生きてきた人がハマりやすい陰謀論

一つ言えることは、デマや陰謀論は私のようにダイヤルアップの時代から1日86時間ネットを見続けた人間より、今までネットで情報収集などしていなかった人間の方が真に受けやすいということだ。

確かにネットには「社員のクビが二桁以上飛ぶ」という意味で、テレビでは放送できない情報が溢れている、それを「テレビでは放送できない真実!」というサムネで目にしたら「今まで自分が知らなかった世界」として衝撃を受け真に受けてしまうかもしれない。

だからと言って「私のように定職につかず1日中XとYouTubeに貼りついてネットリテラシーを学べ」というわけにはいかない。

現代においてネットリテラシーがないのは恥ずべき事かもしれないが、我々中年世代以上でネットリテラシーがない人間は、それだけ青春時代をネットに依存せず生活してきたことを意味し、逆に「ネットリテラシー以外の成長が高校で止まった中年」も存在するので、どちらがいいとは言い切れない。

それに、ネット漬けの人間がネット上のデマを見破れているかというと、もちろんそんなことはないのだ。

確かに7月5日ごろ日本が縦か横に割れるという、あからさまなデマを瞬時に信じない程度の判断力はあるが、微妙なものになれば難しいし、デマの中から正しい情報を選び出せと言われたら完全に無理である。

実際総務省の調べによると「日本人の半数がネットのデマを信じる」そうだ。

さらに当事者たちにも自信があるわけではなく、ネットを利用している7、8割がデマに騙されない自信がないと返答しているらしい。

先の兵庫県知事選の結果により「国民はテレビなどのオールドメディアではなくSNSなどのネットの情報を信じるようになった」と言われるようになった。

確かにSNSは個人で情報が発信できるため、規制も統制もなく幅広い情報を得ることができるのだが、逆に言えば無法地帯なため、その中にはデマも遠慮なく混ざっており、その真偽を見極めるのは至難の業である。

よってSNSを使った選挙活動には何らかの規制をするべきと議論されているのだが、特に規制なく始まってしまったのが、今回の参議院選挙である。

SNSで自党のアピールをするより、ライバル党のデマを流して票を入れさせない方に舵を切って活動している者もいるであろう中で、正しい判断をするのは至難の業であり、これではまた「どこも嘘しか言っていないのでどこに入れても同じ、よって投票する必要がない」という方程式が完成してしまう。

投票率の低さは日本人の政治に対する意識の低さの現れかもしれないが、同時に絶望度の高さでもあるのだ。

確かに我々にネットデマを見破る判断力があるとは言い難いし、政治知識もメロスレベルだが、それゆえに我々の目に入る前に何らか規制が必要だとは思うが、それでメディアが戦前化するのもよくはない。

しかし、先日夫がまた「最近参政党に関する動画を良くみかけるのだが」と不穏なことを言っていたので、やはり何か対策は必要な気がする。