「買って燃やしてまた買え」

自著が出るたびに私が読者に対し言っている言葉だ。

電子書籍が台頭してきてからは「買って端末を叩き割ってまた買え」「買ってアカウント消してまた買え」などバリエーションが増えたが、「買って燃やしてまた買え」の語呂の美しさに比べたらあまりにも冗長である。

利便性の問題ではなく、紙は日本人にとって文化なのだ。

このハラスメント全盛時代に下ネタ誤認すら恐れず弁当を「チンして」と若人にさしだす文化人がいるように、私も紙の本が絶滅しても概念として「買って燃やしてまた買え」と言い続けていきたい。

それと同様に「私の本をステマしてください」と言っていた時期もあったが、こちらは早々に言うのをやめた。

そもそも「ステマしてください」の時点で「明日の会議はギンギラギンにさりげなくして来い」と言っているようなものであり、現代では新人にこういう指示が一つ飛ぶたびに退職代行の電話が一本鳴るシステムになっている。

だが逆に「ステマしてください」と公に言わずに宣伝させていたら、普通にステマをさせたとして燃えていたかもしれないので、言動が無能で命拾いしたとも言える。

ただ、そうだったとしても私は宣伝に対する「対価」を提示したわけではなく、お前らには何の得もないが俺の本を宣伝しろと言い続けただけなので、ステマとは認定されなかったと思う。

つまり無能な上に、飲み会になると周囲を女性社員で固めて無料キャバクラを開店させようとする上司ムーブで本当に助かったということだ。

ステマ規制後、初の行政処分が下される

そもそも「ステマ」とは何かというと「ステルスマーケティング」の略である。

事業主によるCMやPR広告の場合「これは販売元が制作し、タレントなどに報酬を支払って演じてもらっているCMであり、菊池風馬さんが個人的にボーノレドの洗い上がりに感動し、大名のコスプレをしてまでそれを伝えようとしているわけではありません」と消費者にわかるようにしなければならない。

だが事業主側がそれを隠し、「偶然見つけたこのプラグ全ての全身の穴に完全フィットして感動!」など、あたかも「口コミ」であるかのように宣伝させる手法が「ステマ」である。

  • ステマお願いしゃっす! ※この記事は原稿料を貰って書いています。

    「この法案は経団連から献金を受けています」とかは表記義務がないのになぁ

なぜステマがダメかというと、売り主のCMやPRであれば商品が絶賛されているのは当たり前であり、本当に良い商品かはわからない。

よって消費者はレビューや口コミなど、実際使った人の忖度のない意見を参考にしようとするのだ。

そこに胸やケツの間に金を挟まれたストリップダンサーたちの忖度しかない意見が紛れ込むと、消費者は商品に対し正確な判断ができなくなってしまう。

詐欺とはまた違うため、やってはいけないことと知らずにステマに加担してしまう者も多く、「ステマ騒動」は定期的に起こっていたのだが、特に罰則があるわけでもなかった。

しかしついに2023年にステマは規制され、今年6月、初の行政処分が行われることとなった。

初の行政処分となったのは何と「病院」である。

都内の某病院がインフルエンザワクチンを打ちにきた患者に対し、500円割引する代わりにグーグルマップの評価を☆4か5にしてくれ、と依頼をしたそうだ。

その結果269件の投稿があり、そのほとんどが☆5、同院の評価は「☆3.2」まで上昇したそうだ。

269件近い☆5評価を集めて☆3.2止まりとはどういうことだ、と思うかもしれないが、それ以前の病院の評価は「☆1.3」だったそうだ。患者の懐に500円をねじ込んででも評価を上げたくなる気持ちもわかるが、その結果☆1.3でも与えすぎなヤバ院であると全国に知らしめる結果となってしまった。

飲食店であれば、客前でバイトを叱責する店主の唾が粉チーズより降り注いでくる長方形パスタに1300円を支払うだけの被害で済むかもしれないが、病院という健康や命に直結する施設でステマが行われているのはまずいとして、今回初の行政処分となったのかもしれない。

へへ、うちらの仲じゃねえですか、お代は結構ですぜ旦那。←これは?

しかし、ホットペーパーで予約した美容院などが「レビューをしてくれたら今度シャンプー奢る」など、対価と引き換えにレビューを促してくることは今でも普通にある。

これもステマに当たるのではないかと思うが、ステマ規制のひどく難しい内容をよく読むと、どうも「広告主が表示内容の決定に関与した」というのが基準になっているようだ。

つまり病院も、☆の数を指定せず「評価してくれ」だけであれば処分はされなかったかもしれない。

それだと、500円もらって上で星☆1をつける、☆0.3以下のクソ客ばかりだった場合さらに評価を下げることになってしまうが、心理として何かもらっていたら☆を1個ぐらい増やしてしまいそうなので、やっぱり500円やシャンプーだけでも、レビューの信憑性を損ねる行為といえなくもない。

結局のところ美容院のシャンプーサービスはステマに当たるのだろうか? 今後は対価を払ってレビューを書かせる行為自体が禁止とみなされたり、もしくは「このレビューは次回来店時からあげを4つ与えられる約束のもと書かれています」と明記されるようになるかもしれない。