先日、ある芸能事務所が所属タレントの不倫報道に対し、某Xのインフルエンサーを名指しして、報道は全くのデマであり、デマを広める行為に対しては法的措置も辞さないと声明を出して話題になっていた。

注目すべきは、デマの発信ではなく「デマの拡散」に加担することを大きく批判している、という点だ。

つまりたまたま拡散力のあるインフルエンサーが名指しされているが、これはSNSなどをやっている我々全てへの警告文でもある、ということだ。

実際この声明は「皆様におかれましては、憶測や虚偽の投稿にくれぐれもお気を付けください。」で締めくくられている。

これは社会に反し気味の方たちが「夜道にお気を付けください」もしくは「娘さん、かわいい盛りですね」と言っているようなものであり、一見こちらへの気遣いだが、要約すれば「お前もおかしな真似をしたらどうなるかわからんぞ」と背中に銃口をつきつけているようなものなのだ。逃げるは恥だが逃げたくなる。

時はまさに大ネット時代、私もアナタも油断したら加害者に

さて、どれだけ暇でも見ず知らずの芸能人の不倫デマを捏造して流してやろうと考える人間は少数派だろう。同じ事実無根なら、あのアイドルは実は俺とつきあっている、という夢小説でも考えた方がまだ建設的だ。

しかし、たまたまSNSに流れて来た芸能人の不倫報道を、へえボタン感覚でリポストしてしまうぐらいのことは、誰でもし得る。

だがそれすらも「デマの拡散の加担した」として、罪に問われる可能性がある、ということだ。

某芸能事務所が青龍刀で肩をとんとんしながら「憶測や虚偽にお気をつけください」と言ってくれているように、真偽不明の情報には迂闊触れないように気をつけなければいけないが、不倫がガチ情報なら拡散してもいいというわけでもない。

内容の真偽は問わず、公の場で相手の名誉を棄損するようなことを吹聴すれば名誉棄損になってしまうのである。

不倫しておいて、その事実を拡散されたことを逆に訴えるツラの皮が関東ローム層な奴がいるのかというと、私の地元で最近似たようなことが起こっている。

夫に社内不倫をされたサレ妻が、不倫相手と会社側の不誠実な対応にキレて、不倫相手の実名や顔写真など、次々に相手の個人情報をXに晒しはじめたのだ。

ビッグモーターや、猿に集落の人間が66人倒されて以来の地元のホットニュースだが、結局サレ妻側が名誉棄損で逮捕されることになってしまった。

全貌は明らかになっていないし、サレ妻が発信した情報に虚偽があった可能性もあるが、どうやら不倫があったこと自体は本当のようである。

不倫をされた側が罪に問われるという結果に同情する者も多く、不倫の罪の軽さを疑問視する声もあがっていた。

しかし、不倫の罪も軽いが、実は名誉棄損の罪もそこまで重くないのである。

よって名誉棄損によって損害賠償を命じられたとしても、情報を流すことで得られる利益の方が遥かに大きいため、実質ノーダメであり、訴訟をちらつかせることも大した抑止力になっていないという意見もあり、ネットの誹謗中傷が問題になっている今、誹謗中傷や名誉棄損をもっと厳罰化すべき、という声も大きい。

だが、昔よりもネット上の誹謗中傷に関する訴訟件数が増えているのは確かであり、それが得意であると謳う法律事務所も少なくない。

スキャンダルに対しては言及や拡散を控え、対岸からオペラグラスで眺めるだけでノータッチ、というある意味最も下品なスタンスを取るのが無難と言える。

井戸はなくとも、井戸端会議であらぬウワサが流れてる

しかし、逆に「ノータッチ」を貫いたことで訴えられる事案も発生している。

学校行事に対して盛り上がってないことをクラスの陽キャにノリが悪いと責められるように、他人の不倫報道にアツくならなかったことを罪に問われるわけではない。

日本の医師ら60人が「グーグルマップ」を相手取り、一方的に投稿悪評を「放置」したとして集団提訴をしたそうだ。

悪評を書き込んだ当人ではなく、書き込まれたプラットフォーム側に賠償責任を問うのは、異例だという。

  • ロットを乱したら店長に豚骨で殴られる店なのかどうか、事前にわからないまま入店する恐怖だってある

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確かに、口コミサイトに悪評を書かれるのは店側にとって損害であり、それが悪意によって書き込まれた事実無根であればなおさらだ。

それらのデマ削除を要請しても対応しなかというなら、いじめの相談を受けながら対応しなかった学校側が責任を問われるのと同じように、プラットフォームにも責任があると言えなくもない。

しかし、悪意のある誹謗中傷ではなく、店で起こったことをありのままに書いたポルナレフレビューをした結果「飯はまずいし店主は頭がおかしい」という内容になってしまうこともあるし、そのレビューのおかげで地雷を回避する人もいる。

しかし、事実だとしても公の場に相手の名誉を棄損することを書くと名誉棄損になってしまう恐れがあるのだ。

このような口コミに対する訴訟が増えると、みんなレビューを控えるようになり、口コミサイト自体が機能しなくなってしまうかもしれない。

そして、私のような宣伝費が出ず「口コミ頼み」の営業をしているものは餓死する。

言葉は人を殺すが、口を塞ぎ過ぎても結局死者が出るのである。