前回の「パスワードつきZIPフォルダ廃止」に続き、今度は河野太郎行政改革担当大臣が、ツイッターで「機械判読可能なデータの表記方法の統一ルール案」を発表した。

簡単に言えば「Excel(エクセル)はこうやって使え」というお達しである。

日本のオフィスは歴史博物館状態かも?

「我が国のデジタル改革はやや地味が過ぎるのではないか」と思ったが、むしろそういう地味な部分を「こうしろ」と提示してこなかったこともあり、日本の事務職は長年地味なストレスにさらされてきた。その結果として、諸外国からすると「ほうファッ○スとは懐かしいですな…こ、このフ○ックス、生きてる!?」という、オフィスが歴史博物館状態になってしまったとも言える。

私も3年ぐらい前まで事務職をしており、エクセルは日常的に使っていた。だが主な仕事は「何者かが作った様式に数字を入れる作業」だったので、一からデータを作れと言われたら怪しいところがある。

その「何者かが作った様式」も、表をいじろうと思ったら、「エクセルで表を作っているのではなく、『表の画像」をエクセルに貼りつけてある』という、データというよりは「絵画」であることが判明することもあった。

今後業務をスムーズに進めるには明らかに作り直した方が良いのだが、周囲は諾々とそれを使っているし、変にしゃしゃり出て「余計なことを」と言われたら全損でしかない。

このように、秘伝のタレの如くクソデータが脈々と受け継がれてしまう現象が、日本のオフィスではよく起こる。しかし、タレと違って美味くなることはなく、腐っていく一方である。

また、エクセルという、どこのオフィスのパソコンにも標準装備されているソフトを使っているのに、作った者にしか理解できない、そしてその者が引退し誰かに引き継がれるまでは誰も触れない「一子相伝データ」を作り出している企業もある。事務作業に限らず、「担当者しかわからない領域がある」というのはダメ会社の特徴である。

逆に言えば、最初にスマートで誰にでもわかりやすい様式を作っておけば、後続も楽ということだ。そんなクールなデータを作るために、この「機械判読可能なデータの表記方法の統一ルール案」を参考にしてくれということである。

「エクセル競技自由形」のスター選手見本市

  • 「機械判読可能なデータの表記方法の統一ルール案」、初手からこの例が出てきてスピード感があります

    「機械判読可能なデータの表記方法の統一ルール案」、初手からこの例が出てきてスピード感があります

最近、諸々の事例から、国民は政府の提案には懐疑的な姿勢を見せており、このエクセルルールも、イソジンでマウス(ダブルミ―ニング)を消毒するところから始めるのでは、と訝しんでしまうが、意外にも「参考になる」と評判が良い。

この統一ルール案の良いところは、「悪い例」と「良い例」を並べて解説しているところである。この「悪い例」が、1つのセルの中にオタクのお気持ち表明の如く長文をいれたりするなど、「事務職が一回は見たことあるやつ」なのである。

他にも、数字と文字を同一セルに入れてみたり、数字の横に()で謎の注釈を入れたりと「エクセル競技自由形」のスター選手例が軒並みそろっている。そういう天才型のデータをどう修正すれば凡人でもわかるようになるかという例が記載されており、かなりわかりやすい。

重要なのは「原則1つのセルに1データ」、そして「むやみにセルを結合しない」ことだそうだ。そして、人間にではなく「機械がわかるデータを作る」ことを心がけることが大切だという。

確かに、人間だったらデータを見た瞬間、クソデカため息と共に電卓で計算をはじめるという臨機応変な対応ができる。だが、エクセルにそのような機能はついていないし、それではエクセルを使う意味すらない。

言われてみれば当たり前のことなのだが、言われなければわからないことでもある。

特に「むやみにセルを結合」にはかなり心あたりがあるし、「スペースを入れて文字を揃えるな」にも「うっ頭が…」となる。これを知っているだけでも、エクセルで絵画を作ってしまうリスクはかなり減るだろう。

しかし、どれだけ美しいエクセルを作っても、それを魔改造してしまう「エクセル破壊おじさん」が存在するオフィスも珍しくないという。

おじさんというのは概念であり、中年男性に限った話ではないが、データに必要事項を入力するように頼むと、数式が入っていた部分に、もはや数字ではなく文字が入っていたり、お得意のセル結合がされていたり、せめて見栄えは良くしようとスペースで文字をそろえられていたりと、エクセル自由形オールスター感謝祭状態で返して来る人がいるそうだ。

そういう人は大体偉い人であるため、部下は苦言を呈することもできず、破壊されたデータの修繕作業に時間をとられることになる。これはたまに外国で起こる、良かれと思って素人が美術品の修復に手を出し、二度と復元できない状態にしてしまうのに似ている。

それを考えれば「データ入力など自分の仕事ではない」と割り切って、デスクにパソコンすら置かず、下々が紙に印刷した書類にハンコを押すだけの老は、データを破壊しないというだけまだ無害なのかもしれない。

ぜひ、統一ルールには「わからない時は触るな」という項目も付け加えてほしい。

求む、クールな事務統一ルール

このように、日本のオフィスでは何かにつけ、データの制作をエクセルで行うことが多いが、それを相手先に送るときはPDF形式にするところも多いのではないかと思う。PDFにすることで、どんな環境で見てもレイアウトやデザインが崩れる恐れがないからだ。

しかし、閲覧するだけなら良いが、それに記入や捺印などして送り返せと言われると困ったことになる。私はアドビの有料ソフトを使っていないし、そのために高価なサブスクを購入するのもためらわれるからだ。

よって、結局、出力した後、記入捺印し、それをスキャンしてメールで送るという儀式を強いられている個人事業主も多いと思う。私は苦肉の策で、フリーのPDF閲覧ソフトの直線ツールで文字を書くか、一旦JPGにして文字を書いてから再度PDFにして送るなどしているが、これは「絶対紙に印刷したくない教」という宗派の違いしかなく、儀式には変わりない。

どちらにしても「令和にやることか」としか言えないので、ぜひこれからもクールな事務統一ルールを制定していただき、それに必要なソフトは安価で入手できるようにしていただきたい。