この夏、オリンピックをはじめ、甲子園など大型のイベントはもちろん、催しの類は軒並み中止か延期になっている。もちろん俺たちのコミケも中止だ。

だがそれ以前に、オリンピックのためにコミケの場所や日時が変更になったり、行きたくもない甲子園予選の応援に行かされたりと、俺たちオタクの夏はすぐリア充共の思い出作りの犠牲になってしまう。

何かあるとオタクの楽しみというのは最優先で切られてしまうという現実、もしくは被害妄想があったのだが、今回ばかりは相手が感染症のため仕方がない。

コミケというのは一か所に大人数が密集するだけでも危険だが、お宝を求めて日本中どころか世界中からトレジャーハンターが集まるイベントである。

さらに「新刊」というお宝を作りだすために、3日ぐらい寝てなかったり、胃にレッドブルしか入っていなかったりと、参加者には体力が著しく落ちている者も少なくない。また「気合が入り過ぎて風呂に入り忘れたニキ」がいたりなど、衛生面にも若干不安なところがある。

つまり数あるイベントの中でも特に危険度が高く、まだスポーツマンが集まるオリンピックの方が安全なような気さえする。残念だが、今年のコミケ中止は必然であるとしか言いようがない。

“観劇クラスター”の細かすぎる報道と、オンラインの難しさ

コミケのみならず、人が集まりイベントはまだ再開させないほうが「無難」という判断をしているところは多い。緊急事態宣言解除後、一旦は感染者数が減り、イベントごとも徐々に開かれるようになったが、現在はまた増加の一途をたどっている。

さらに先日、某劇場で行われた舞台により出演者・観客共にクラスターが発生してしまった。

各地でクラスターは起こっていて、ほかにも様々に感染例はあるのだが、この舞台は所謂イケメン俳優が多く出演するもので、観客はほとんど女性だった。だからとは言えないが、大きなニュースとなり、劇場名はもちろん、舞台のタイトルや、客の40代の看護師が感染し、何日も連続で観劇していたということまで報道されていた。

どうも、他のクラスターより報道が詳細すぎる気がする。ならばおっパブでの集団感染も、店の名前や客の年齢職業、何分コースだったか、まで報道すべきではないか。

実際クラスターが起きてしまったのは事実だが、イケメン舞台とそれに集まる女性を非常識な存在として叩きたいという他意を感じなくはない。

だが事実はどうあれ、集団感染が起き、舞台やその客に悪い印象がついてしまったのは確かである。このように今イベントをやって何か起こったら、その業界全体のイメージが悪くなり、同業者からは恨まれるし、イベントが安全に開催される日がさらに遠のいてしまう。

よってまだ多くのリアルイベントが「ステイ」の姿勢を見せ、その代わりオンラインイベントの方に力を入れている状態である。

  • ライブ配信だと、現場と違ってツイート実況ができる楽しみもありますね。

    ライブ配信だと、現場と違ってツイート実況ができる楽しみもありますね。

俺たちもコミケが中止になったことで、ただ風呂に入らないだけの夏を過ごしているわけではなく、「エアコミケ」としてオンライン上で行ったりと、制限された中でも祭を楽しもうとしている。アーティストのライブもなど早くから配信に切り替ええているところも多く、東京ゲームショウなども今回はオンライン上で行うようだ。

しかしリアルイベントをオンラインに移すことにより、すぐにリアルイベントができないマイナスをカバーできるというわけではない。

まず、オンイベントでどう集金するかが確立できていないところも多い。誰でも簡単に利用できる決済システムがないというのもあるが、YouTubeなどでネット動画類はタダで見られることが当たり前になっているため、タダなら見ても有料なら見ないという人も多く、すぐにライブと同じ収益が出せるということはない。

収益減よりも恐ろしいのは…?

そうは言っても、儲けにならず、むしろ労力の無駄だから何もしないというわけにはいかないのである。

何故なら客というのは、割とすぐ「忘れる」のだ。ライブができるようになったらまたファンは来てくれるだろう、と思うのはスイートなのである。

もちろんコアなファンはまた来てくれるだろうが、ライト層は「自粛中期間に始めたパッチワークに夢中でそれ以前に追っていたものなど名前も忘れた」なんてことは普通にあるのだ。

よって、コロナでイベントが出来ないのも痛いが、真に恐ろしいのはその空白期間の間に忘れられることである。コロナさえ去れば、前と同じように活動できるというわけではないのだ。

新人漫才師が「名前だけ覚えて帰ってくださいね」と言うように、たとえ収益にならなくてもオンラインで活動を続けて「私たちの名前を忘れないでくださいね」という活動が必要なのだ。

また「新しい生活様式」というように、コロナ前と今では世界観自体が変わってしまった。

今は仕方なくオンラインでやっているというオフ業界も、コロナが去れば完全にオフに戻るというわけにはいかない気がする。

私が仕事をさせてもらっている美術館も今まではいかに来館してもらうかを考えて来たが、今はオンライン展示のことも同時に考えねばならないようになり、学芸員にもIT知識が必要になってきた、と語っていた。

もちろんライブにしか出来ないことというのも多いが、オンラインが当たり前となった今では、どんな分野でもオンオフ両方できないと幅広い顧客が獲得できなくなってきている。

エアコミケにもいつもは行けない地方勢が参加できる、暑さやノーニューヨークニキの悪臭がないというメリットあるが、リアルのように目当て以外にも表紙で一目ぼれしたり、試し読みしたり、売り子のオーラが半端なくて試し読みだけでは済まず買ってしまったりと、思いがけぬ出会いをする機会がないのはデメリットだ。

商業作家も同じで、本屋が締まり、電子書籍になると「本屋でのジャケ買い」がなく、知名度のない作品は余計売れなくなってしまうのだ。よって、作家自身のSNSなどでの宣伝が重要になってくる。

つまりこれからは、「ツイッターやってないで原稿やってください」というのは営業妨害であり共食いであるということを、編集者はよく理解すべきである。