「去年は冷夏でした」
だから、商品があまり売れませんでした。夏物商品のマーケッターと話すと、必ず冷夏とか猛暑とか、気候と商品の売れ行きがあいさつのように話題になる。ビールに水着、清涼飲料水…。今年は去年の分まで売れてくれ。そんな思いを抱いているのは、今回紹介するエアコンも同じなのだろう。ところで、電機メーカー各社から多数発売されているエアコン。最近のトレンドをご存じだろうか。

数年前、エアコンで流行ったのは、「おそうじロボット」機能。フィルターをエアコンが勝手に掃除してくれる、まさにぐうたら主婦のためにあるような機能である。どのメーカーも、お掃除機能をつけるのが当たり前になった。そして、今の流れは何かというと、「センサー」に関する機能である。三菱電機のムーブアイは、たとえば、人の居場所を見つけて効率よく空調するので、冷やし方にムダがないというメリットがある。パナソニックも同様、「エコナビ」によって人や家具の位置を見分け、省エネに優れた空調がウリである。

勝ち馬に乗ることはそんなにいいことなのか

ダイキン工業 空調営業本部 事業戦略室 酒井茂孝課長

世の中、売れ筋なるものが現れると、それに乗って自分も売れ筋の仲間入りする「勝ち馬に乗る」ケースを目にすることは少なくない。要領がいいというべきか、悪いことではないのだろう。だが、その姿には美しさは感じられない。

そのなかで、自分の信念を貫いて製品を創りつづけるタイプもいる。今回紹介するダイキンのルームエアコン「うるるとさらら」Rシリーズは、まさに勝ち馬に乗らず、安易に他に迎合しない姿勢がみてとれる。なにより、エアコンに対する自社の信念を曲げずに貫いているところが、ぐうたら主婦からするとなんとも格好よく感じるのである。

そんなダイキンが最新モデルに搭載した機能は、「4方気流」である。世界初。他社にないオンリーワンの機能である。どんな機能かというと、通常、エアコンの気流は、前方向にまっすぐ出される。角度は170度くらいの広域に風を出すものもあるが、基本は前方向である。ところが、このダイキンの新モデルはなんと、吹き出し口がサイドにも付いており、横方向にも風を出してくれるのである。

ダイキン ルームエアコンの最上位機種「うるるとさらら Rシリーズ」。大きな特長となっている「4方気流」と「除湿・加湿機能」により、風や温度・湿度の不快感からユーザーを守る

最近は、リビングが広く、なかにはL字型になっている場合もある。そうすると、1台のエアコンで、L字に曲がった部屋のスミまで効率よく冷やすことは難しくなる。また、ぐうたら家でいえば、リビングの横にキッチンがあるのだが、カウンターになっているため、いまいち冷たい風がキッチンには届かない。寒がりなので私はいいのだが、暑がりの人だったら、熱気の中でチャーハンを作るのは苦痛に違いない。

そんなとき、ダイキンの4方気流ならば、横に気流が噴き出すので、一つの気流は前方向に。横から出る気流は、横に広がる部屋や、キッチンを隅々まで冷やしてくれるというわけだ。いま、他社はセンサーで人がいるところを感知して、集中的に風を当てますなどと言っているのに、「部屋のすみずみまで気流を届けます」とダイキンは言い切る。

これが快適というものです! などと、流れに屈することなく、真っ向から、自社の信念を貫くところが格好いいのである。

理にかなった快適さが生まれるメカニズム

とはいえ、単に反抗しているだけならば、それは駄々をこねる子どもと同じだ。ダイキンは何年にもわたって、「人が快適だと感じるとはどういうことか」を考え抜いた。製品の根底にあるのは、その信念なんである。

私たちは、扇風機のような風が体にあたると涼しいと感じる。けれども、これが快適かというと別物だ。扇風機の風が体にあたるよりも、爽快でひんやりした空気に包まれたほうが気持ちいいと感じる。

上下左右の「4方気流」により、従来の気流と比べ、快適温度への到達時間を短縮することが可能となったという

たとえば、日本の夏はムシムシするけれど、ヨーロッパは湿度が低いから、日陰に入ると真夏でも比較的涼しいのと同様だ。つまり、同じ28度でも、湿度によって、暑さに対する印象はだいぶ変わるのである。

そこで、ダイキンはまず、湿度を下げる。さらには、部屋全体をひんやり、湿度の低い空気で覆うほうが快適だと考える。人をセンシングして、そこに気流を集めるのではないところが特徴だ。そのために、4方気流を搭載し、部屋のどこにいても、誰でもが快適でいられるようにするのである。

現時点で、4方気流は「世界初」といわれているが、実は過去にダイキンは上下左右、4方向に気流を出すエアコンを作ったことがあった。本体中央部に絵が飾れるおしゃれなものだったという。だが、インテリアの要素が強いため、設置は部屋の真ん中。これでは、エアコンの排気口が部屋のスミについている賃貸マンションでは使用が難しい。たとえ、分譲の家だって、真中にエアコンの穴をあけるのは、ちょっと勘弁だ。

1998年に発売された「ウィンダート」。阪神タイガースモデルも登場した

そんなわけで、この機種、アイデアは良かったのに、あまり売れずに、姿を消していったという。それから年月は流れ、今回の4方気流は、部屋のどこに設置してもOKというように改良した。売れる・売れないの差は、このようにちょっとしたことなん である。

設置場所、部屋の形状に合わせた12パターンの気流が選べる(左)。写真右は従来の気流イメージ

ちなみに、この4方気流、部屋の右スミに設置するときは、横方向の2つの気流のうち、壁に向かって噴き出すほうの気流は、設定でオフにできる。気流の組み合わせは全部で12とおり。自身の部屋に合わせて、風を送ることができるんである。

4方気流が、ウリのダイキンの新しいしモデル。ただし、魅力的な機能はこれだけではない。まだまだある。それは次回詳しくお伝えしよう。

イラスト:YO-CO