重力波望遠鏡を使って重力波を観測している、米国と欧州の共同研究グループは2017年10月16日、2つの中性子星からなる連星が合体して放出されたと考えられる重力波を、今年8月に観測することに成功したと発表した。

重力波の観測は今回で5例目となるが、これまではブラックホールの合体によるもので、中性子星同士の合体によって放出された重力波が観測されたのは初めてとなった。

さらにこの重力波源に向けて、世界各国と宇宙空間にある合計70か所以上の天文台が目を向け、追跡観測を実施。そこでもさまざまな大きな成果を残すことに成功した。

重力波は2015年に初めて観測され、つい先日の10月3日には、この功績が2017年のノーベル物理学賞に選ばれたことは記憶に新しい。その興奮冷めやらぬうちに発表された今回の大成果について、6つのポイントに分けて紹介したい(第1回はこちら)。

第2回では「重力波を使った『マルチメッセンジャー天文学』が始まった」こと、そしてその結果、「世界を創った物質はどうやって生まれたのか、という問題の解決に光がもたらされたかも?」という2つについて見ていきたい。

金などの重元素が合成される過程「キロノヴァ」の想像図。今回重力波を発生させた天体では、このような現象が起きていたのかもしれない (C) 国立天文台

重力波を使った「マルチメッセンジャー天文学」が始まった

今回の連星中性子星の合体による重力波の観測は、米国のLIGOだけでなく、欧州にあるVIRGOも観測に参加していたことで、この重力波がどこからやってきたのか、つまり重力波源となった天体の位置を、ある程度絞り込むことができた。そしてその結果、重力波望遠鏡だけでなく、電磁波を使った望遠鏡も使って、この重力波源を観測することに成功した。

これまで人類は、可視光にはじまり、電波、赤外線、紫外線、X線、そしてガンマ線といった、さまざまな波長の電磁波で宇宙を観測し、多くの成果を残してきた。そこへ新たに、重力波を使った観測を加えることで、いままで捉えられなかった新しい宇宙の現象が見えたり、いままでも知られていた現象でも新しい光景が見られたりといったことが期待できる。さまざまな複数の手段で宇宙を見るという意味で、こうした観測方法、分野のことを「マルチメッセンジャー天文学」と呼ぶ(厳密にはもうひとつ、ニュートリノを使った観測も含まれる)。

LIGOとVIRGOの研究グループは、連星中性子星の合体からの重力波を観測した直後に、世界中にある90もの天文研究チームに警報を送った。あらかじめ、こうした場合に備えたネットワークが構築されていたのである。そして合計70か所もの天文台が、その重力波源と思われる方向に望遠鏡を向けた。

重力波望遠鏡(黄色い点)による重力波の検出後、追跡観測を行った地上や宇宙の電磁波望遠鏡たち(青い点) (C) LIGO Laboratory

その先駆けとなったのは、宇宙にあるガンマ線天文衛星だった。もっとも、これは警報が届くよりも先に、重力波の到達からわずか2秒後に、ガンマ線バーストと呼ばれる現象を捉えたものだった(詳しくは第3回にて説明する予定)。そして重力波の検出からおよそ11時間後には、複数の望遠鏡がこの重力波に対応すると思われる天体を発見することに成功。人類が初めて重力波源からの光を捕えることに成功した瞬間だった。

その観測隊の中には、もちろん日本の観測チームも含まれている。日本にはJ-GEM(Japanese collaboration of Gravitational wave Electro-Magnetic follow-up)と名づけられた重力波追跡観測チームがあり、重力波検出から約17時間後に、ハワイの「すばる」望遠鏡をはじめ、ニュージーランドや南アフリカ、そして日本国内にある望遠鏡群を駆使して追跡観測を実施した。

さらに、国際宇宙ステーションに搭載されている、X線とガンマ線で観測できる日本の観測装置も目を向けた。

このJ-GEMによる観測では、重力波源の天体を、可視光から近赤外線にかけての広い波長域で明瞭に捉え、時間にともなう明るさの変化を、15日間にわたって連続して追跡することに成功した。

日本の重力波追跡観測チームJ-GEMが撮影した重力波源GW170817。うみへび座の方向にある銀河NGC 4993で発見され、地球からの距離は約1億3000万光年。ハワイのすばる望遠鏡のHSCをはじめ、複数の観測を合成したもの。2017年8月24日-25日の観測では、天体が減光するとともに赤い色を示している(近赤外線で明るく光る)ことがわかる (C) 国立天文台/名古屋大学

世界を創った物質はどうやって生まれたのか、という問題の解決に光?

そして日本を含む世界中が、連星中性子星の合体をさまざまな波長で捉えたことで、「私たちを含め、この世界を創っている物質が、そもそもどこからきたのか」という、大きな謎の答えに迫りつつある。

私たちの体も、周囲にあるあらゆる物も、そして地球やあらゆる天体も、すべて突き詰めれば原子からできている。その原子は、まず宇宙ができた直後に水素、ヘリウム、リチウムという軽い原子が生まれ、やがてガスになり、それらが集まって恒星になっていく中で、さらに重い原子が作られていったと考えられている。

しかし、鉄よりも重い原子(重元素)については、どのように誕生したのかははっきりとわかっていなかった。かつては、第1回でも取り上げた超新星爆発で作られると考えられていたが、研究が進むにつれ、少なくとも通常の超新星爆発では重元素が生まれにくいことが判明。そのため超新星爆発だけではこの宇宙にある重元素をまかなえるほどの量はできず、他にもっと別の供給源があるのでは、と考えられるようになった。その別の供給源の候補こそ、まさに連星中性子星の合体だったのである。

連星中性子星が合体すると、中性子星を形作っている中性子という物質が周囲に撒き散らされる。そして鉄などの原子が中性子が捕獲し、電子を1つ放出すると、原子番号が1つ上がって、より重い原子核が形成される反応が起こる。これが連続すると、鉄よりも重い、金やプラチナ、レアアース、白金、ウランなどの元素が次々とできあがっていく。

こうした反応のことを「rプロセス」(r過程)と呼び、もし本当に連星中性子星の合体でrプロセスが起こっているのなら、重元素がどのように生まれているのかという説明がつくと考えられていた。

ただ、元素が生まれる現場そのものは見ることはできない。そこで、その代わりにrプロセスで作られた元素が放射性崩壊を起こした際に、そのエネルギーが電磁波となって放射される、「キロノヴァ」と呼ばれる現象を観測することでつきとめられると考えられていた。実際に国立天文台では2013年から、スーパーコンピュータを使ったシミュレーションを行い、中性子星合体から放射されるキロノヴァのパターンを予測してきていた。

そして今回、重力波源を観測した際に観測された色の変化は、科学者たちが予測していたキロノヴァの性質とよく一致していた。これにより、実際に連星中性子星の合体でrプロセスが起こっている証拠を捉えたことになる。

国立天文台は「私たちは金の生成現場を見たのかもしれません」とコメント。LIGOのチームも、ノーベル物理学賞の記念メダルを例に出して、「このメダルの金も、こうした連星中性子星の合体で生まれたものなのかもしれない」とジョークを飛ばした。

まだ答えは出たわけではなく、これからのさらなる観測や研究が必要にはなるものの、重元素の起源に迫る大きな一歩になったことは間違いないだろう。

中性子星合体の様子と、それにより放出される物質によってキロノヴァが起こる様子の想像図 (C) 国立天文台

次回に続く

参考

GW170817 Press Release | LIGO Lab | Caltech
重力波天体が放つ光を初観測:日本の望遠鏡群が捉えた重元素の誕生の現場 ―重力波を追いかけた天文学者たちは宝物を見つけた― | 国立天文台(NAOJ)
・安東正樹. 重力波とはなにか 「時空のさざなみ」が拓く新たな宇宙論.第2版, 講談社, 2016, 320p.
・ジャンナ・レヴィン (著), 田沢恭子 (翻訳), 松井 信彦 (翻訳). 重力波は歌う――アインシュタイン最後の宿題に挑んだ科学者たち. 早川書房, 2017, 328p.
Gravitational wave physics and astronomy: Genesis (重力波物理学・天文学:創世記) - 連星中性子星からの重力波検出(10/16)

著者プロフィール

鳥嶋真也(とりしま・しんや)
宇宙開発評論家。宇宙作家クラブ会員。国内外の宇宙開発に関する取材、ニュースや論考の執筆、新聞やテレビ、ラジオでの解説などを行なっている。

著書に『イーロン・マスク』(共著、洋泉社)など。

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