両眼立体視

人間の目は顔面に左右に水平に並んで2つ存在する。この2つの目を使って世界の立体感を把握するのが両眼立体視になる。

一般的に、「立体視」を語る際には、この両眼立体視を大きく取り上げることが多い。

両眼視差(Binocular Parallax,Binocular Disparity)

人間の左右の眼球間の距離は大人で60mm前後、子供では50mm前後だとされる。

左右の目は、人間の同一顔面上にはあっても、それぞれの位置は異なっているため、そこからの視界は微妙に異なることになる。

同じもの(同じ世界)を見ているのに、異なって見える、その"ズレ"を「両眼視差」という。

人間の視覚は、このズレ、両眼視差の出方を脳で処理して遠近を判別しているといわれている。

この両眼視差は対象物が遠ければ遠いほど感度が鈍くなるという特性がある。これは、すなわち、2つのオブジェクトの遠近(前後関係)を判断する際、その2つのオブジェクトが遠ければ遠いほど、その判断が鈍くなると言うことだ。言い換えれば、ある一定距離以上離れたオブジェクトは、ほとんど同じ距離にあるように見えてしまうということでもある。

逆に両眼視差は、その対象物が近ければ近いほど高感度な特性を持つが、対象物が近すぎるとよく見えなくなってしまう。

なお、この両眼視差は、立体視において最も重要な情報とされているため、立体視を、この両眼視差そのものであると言う感じで解説されることも多い。

両眼視差

左目から見た視界

右目から見た視界

実際に脳が知覚する視界。人間の視覚システムはこのズレから遠近を知覚する

輻輳(Convergence)

人間の2つの目は、ある対象物を注視する際に、左右の目から放たれる視線を注視対象物に交差させように両眼を動かす習性がある。これが「輻輳」(ふくそう)だ。

両眼から放たれた視線が、注視する対象物にて織りなす角度を、特に「輻輳角」と呼ぶ。

この輻輳角は、注視対象物が遠方にあればあるほど0°に近づき、逆に近い位置にあればあるほど角度は大きくなっていく。

人間の視覚システムでは、輻輳を行う際の両眼の回転運動(両眼輻輳運動)を司る輻輳筋(外眼筋)の状態から、感覚的に輻輳角を捉えており、この輻輳角の大小で遠近を捉えていると言われている。

また、単眼立体視のところで触れた「水晶体の焦点調節」は、この両眼輻輳運動と連動しているとも言われており、具体的には、輻輳角を大きく取った寄り目気味の状態では必然的に近くを見ることになるので、この運動に連動して同時に水晶体を厚くする制御が入るとされる。

輻輳。「輻輳角が大きい=注視対象物が近い」「輻輳角が小さい=注視対象物が遠い」という関係がある

両眼輻輳運動を司る外眼筋

両眼立体視を応用実践した技術

両眼立体視を応用した最も身近な製品と言えば、やはり、現在主流の3Dテレビや3Dディスプレイ装置になるだろう。これらの製品群は、3Dメガネを掛ける方式、裸眼立体視方式の区別なく、いずれも「両眼視差」と「輻輳」の両方の再現に特化した設計構造になっている。

ところで、両眼の輻輳運動と、水晶体の焦点調節には相関があるらしいことは上で触れたが、現状の3Dテレビや3Dディスプレイでは、輻輳は有効だが、水晶体の焦点調節は無視されている点に留意したい。

というのも、現状の3Dテレビや3Dディスプレイは、その表示面に3D映像を表示するのであって、実際に、立体像が表示面から飛び出したり、表示面より引っ込んだりして表示されるわけではないからだ。

現状の3Dテレビや3Dディスプレイでの立体視では、どんなに表示面から飛び出しているオブジェクトや、どんなに表示面から引っ込んでいるオブジェクトを注視したとしても、水晶体の焦点調節は、常にディスプレイ装置の表示面までの距離に合わせ続けている。

本来であれば、飛び出した対象物を見るときは寄り目気味となり、この輻輳運動と連動して水晶体を厚くする操作が眼球で起こるはずなのだが、そうすると3Dディスプレイ面がぼやけて見えなくなってしまうので、水晶体の大きさを変えないように努力する制御が掛かることになる。これは人間が現実世界では普段あまり行わない、「水晶体の大きさを変えない輻輳運動を強いられる」ということだ。

この輻輳運動と水晶体の焦点調節の非連動な眼球制御が、現実世界での立体視と大きく異なる部分だと指摘されることが多く、立体視の安全性に絡めて議論されることが多い。

両眼立体視だけに頼った現在の3Dテレビ、ディスプレイの問題点

(続く)

(トライゼット西川善司)