グローバリゼーションの終焉か?

英国のEU離脱、トランプ政権の発足、そして米中貿易戦争という最近のニュースは、先進国が進めてきた「グローバリゼーション」が後退して、「自国第一主義」の台頭を感じさせるものである。

実際、全世界のGDPに対するG7先進国のシェアは、1990年から比べると約20%低下している(図1 参照)。これに対して、中国をはじめとする一部の新興国(図1では「途上国」)が驚異的なスピードで経済成長を続けている。

  • 全世界のGDPシェア推移

    図1 全世界のGDPシェア推移

1980年代までのグローバリゼーションが先進国の経済的地位向上に作用してきたのに対し、1990年代以降のグローバリゼーションの恩恵は一部の新興国に移り、"先進国の経済政策としてのグローバリゼーション"は意味を失ったと言える。

この変化の背景として1990年代以降の急激なICTの進化が上げられる。ICTの進化によって、技術・アイデアの移動が圧倒的に安く・早く行えるようになり、企業はICTを活用して、自社の高い技術力と安い労働力を組み合せたグローバル・サプライチェーンの構築を進めてきたのである。

その結果、グローバル・サプライチェーンに参加した新興国では、先進国の技術を素早く吸収し、それが新興国のサプライチェーンにおける役割をさらに拡大させるという好循環によって、急速な経済発展を実現している。

企業における「真のグローバル化」の始まり

「国益のためのグローバリゼーション」は終わりを告げたとしても、企業レベルでのグローバリゼーションは終わっていない。むしろ、新興国企業を含めたグローバルでの競争は今後さらに激化すると考えられる。

現在、先進国企業の成長エンジンは、新興国(海外進出先)市場である。規模の利益を得るには、新興国における市場拡大は必須であり、そこで得た利益は、"市場・顧客の変化に対応し、技術・商品・サービスにおける優位性を維持・向上"するために投資して行かなければならない。一方で、法制度の変更、保護貿易主義の動き、テロや環境問題などグローバルネットワーク上の変化やリスクは増大している。

今後、グローバル企業に求められるのは、これまで構築してきたグローバルネットワークを事業環境の変化や事業リスクに適応させ、スループットを最大化し、競争優位性を維持・向上していくことである。つまり、企業における「真のグローバル化」が求められている。

日本のグローバル製造業の現在

日本の製造業においても「真のグローバル化」への取り組みはすでに始まっている。「マザー工場」構想による生産技術のグローバルネットワーク化や「海外R&D拠点展開」による研究開発・商品開発のグローバルネットワーク化と現地ニーズへの対応力強化といった動きもその一例である。

しかし、マネジメントシステムについてはどうであろうか。グローバルネットワークを事業環境の変化に適応させ、そこから得られるスループットを最大化し、競争優位性を維持・向上していくのに適したマネジメントシステムが構築されているであろうか。

ファジーでスローな「階層型調整型」マネジメント

製造業において、事業環境の変化に対して、これまでにないダイナミックな対応が求められるのはSCMの領域であろう。このSCMの領域のマネジメントシステムを見てみると、日本の製造業では、調整を重視したどちらかと言えば変化への対応力の弱いマネジメントシステムが残っているように思われる。

それは、図2のような、例えばグローバル本社-地域-国という階層構造をもつシステムである。この構造は、グローバルネットワークを急速に拡大していく過程においては効率的であった。

  • 階層型のグローバル組織と階層間・事業間の調整イメージ

    階層型のグローバル組織と階層間・事業間の調整(イメージ)

しかし、この階層型のマネジメントシステムと日本的な「すり合わせ」を重視する企業文化が融合することで、階層間の調整という"あいまいで時間を要するプロセス"が組み込まれる。この、プロセスはグローバルネットワークの成長とともに肥大化することになり、ファジーでスローなマネジメントシステムとなっていく。本稿では、これを「階層型調整型」SCMと呼ぶ。

『唯一生き残るのは、変化できる者』

さて、日本のグローバル製造業にとっての問題は、この「階層型調整型」SCMのままで、さらに激しくなる市場変化の中を生き残っていけるのか、という点である。

これについては、かのダーウィンが以下のように述べている。

『最も強い者が生き残るのではなく、最も賢い者が生き延びるのでもない。唯一生き残ることが出来るのは、変化できる者である』。

次回から、従来の「階層型調整型」SCMに替わって、市場の変化にグローバルネットワークを適応させていくことを重視した「ネットワーク型変化対応型」SCMとその構築の進めかたを見ていきたい。

杉山成正

著者プロフィール

杉山成正(すぎやましげまさ)
株式会社NTTデータ グローバルソリューションズ
ビジネスイノベーション推進部
ビジネストランスフォーメーション室
サプライチェーン担当

略歴
1963年京都府生まれ
神戸大学工学部大学院卒。中小企業診断士
メーカにて生産管理・生産技術・設備技術・新規事業企画等の業務に携わったのち、日系情報システム会社にてシステムコンサルタントに。
その後、外資系コンサルティングファーム、日系コンサルティングファームにてプロジェクトマネージャー、ソリューションリーダー、セグメントリーダーを歴任。
製造業における経験を活かし、業務改革、ERP/SCMシステム構築を中心に取組んでいる。