2023年10月21、22日、「国際武術研修センター」にて、eスポーツと柔道を融合させた教育イベント「ESPORTS × JUDO」が開催されました。主催はGAKUと日本eスポーツ連合(JeSU)です。

GAKUは、シンガポールに拠点を置く教育ベンチャー企業。生徒、保護者、教師などを対象に、eスポーツを通して新たな発見や知識を得られるプログラム開発をしています。

  • 国際武術研修センターで開催された「ESPORTS × JUDO」。eスポーツ経験者、柔道経験者の小学生、高校生が集い、交流をはかりました

  • eスポーツを教育に結びつける機関「GAKU」の紹介も

21日は『プロ野球スピリッツA』×柔道で、元プロ野球選手のG.G.佐藤氏、プロゲーマーのくりにんじん選手、2004年アテネオリンピック柔道男子100kg超級金メダリストで全日本柔道男子監督の鈴木桂治監督をゲストに迎え、都内近郊の高校生が約10名参加しました。

22日は『ぷよぷよeスポーツ』×柔道で、2021年開催の東京オリンピック柔道男子100kg級金メダリストのウルフ・アロン選手、小見川道場主宰の小見川道大氏、プロゲーマーのぴぽにあ選手をゲストに迎え、都内近郊の小学生が約32名参加。今回は22日の回を取材してきました。

参加した高校生、小学生は、ともに、eスポーツ選手もしくは柔道選手。どちらもかなりやり込んでいるものの、相手側の競技にはほぼ触れていない状態です。

教育プログラムでは、2チームに分かれて、コミュニケーションやエクササイズを行います。まずは、それぞれのチームリーダーを話合いで決定。柔道を先に行うチームと『ぷよぷよeスポーツ』を先に行うチームに分かれて、活動がスタートしました。

  • チーム分けのあと、生徒同士で誰がリーダーになるかを決めます

柔道では、小見川氏が指導。参加者は、準備体操や柔軟体操、受け身の取り方など、柔道の基礎を習います。次に背負い投げと袈裟固めを習い、柔道経験者が受け手となってeスポーツ選手が投げや寝技の練習を行いました。柔道では何事もまず「礼」から始まることに戸惑うeスポーツ選手たち。しかし、体験していくうちに、自然と礼ができるようになっていました。

  • 準備体操や柔軟体操、受け身の取り方をしっかりと叩き込まれます

  • 小見川氏から背負い投げを教わります

  • 寝技は袈裟固めを教わります。女子との練習にも戸惑っていたeスポーツ選手でしたが、柔道の女子選手が丁寧に教えていました。すると、eスポーツ選手も次第に慣れていきます

  • 練習前には先生や一緒に練習する仲間に一礼をします。こちらもeスポーツ選手は戸惑っていました

『ぷよぷよeスポーツ』を使った活動では、ぴぽにあ選手が指導。柔道選手とeスポーツ選手の2人1組でペアを組んで協力します。

まずは、ぴぽにあ選手から『ぷよぷよ』の基本となるぷよの消し方、回転の操作、連鎖の組み方などをきっちりと叩き込まれました。ひと通り動かし方が分かったら、2人でCPUと対戦。今回はこのCPU戦のクリアタイムで、最後のエキシビショントーナメントへの参加権を争います。

  • まずはぴぽにあ選手から『ぷよぷよeスポーツ』の説明を受けます

  • 柔道選手に向けて連鎖の方法を教えていました

  • eスポーツ選手も柔道選手へ操作方法や連鎖の仕方などを教えます

  • 練習の最後に2人チームでCPU戦を行い、クリアまでの時間を計測します

柔道とeスポーツの活動を終えたら、パネルディスカッションです。ここからウルフ・アロン選手が参加し、ぴぽにあ選手、小見川氏の3人によるトークが展開されました。

  • パネルディスカッションから参加となった金メダリストのウルフ・アロン選手

最初のお題は「それぞれの競技のイメージ」です。ぴぽにあ選手は中学や高校の体育の授業でしか柔道を体験したことがなく、ウルフ選手と小見川氏も『ぷよぷよ』はちょっと遊んだ程度。お互いのイメージと実際の競技シーンには乖離がありそうです。

小見川氏は「今回の活動は、2チームの入れ替えで、先にゲームをやっていたチームがすでに仲良くなったことから、ゲームでしっかりコミュニケーションが取れることがわかりました」と語っていました。

2つ目のお題である「お互いの競技での共通点、取り入れたいこと」に関しては、現地で見ることの重要性を説いていました。「あんなに大きな選手がこんなに速く動くんだと、目の当たりにすることで、より理解できると思います」とぴぽにあ選手。また、柔道の礼節に関しては、「まだマイナスイメージのあるeスポーツに取り入れたい」とも話していました。

ウルフ選手は、人に向き不向きがあり、いろいろ試してみることが重要と話します。「小学1年生の頃から柔道をやっていましたが、6年間はまったく結果が出ませんでした。中学に入ってからは、後輩に負けることもあるほど。それが悔しくて、中学最後の1年間に本気で取り組んだところ、結果が出るようになったんです。私は早めに柔道1本に絞りましたが、いろいろやってみないと自分に何があっているかわからないので、試してみてほしいですね」と優しく語りかけていました。さらに、自分を高めるために、自分だけで考えすぎず、いろんな人の意見を聞いて、そこから自分自身で客観的に判断していくことが重要だとアドバイスを送りました。

その次はいよいよ『ぷよぷよeスポーツ』のエキシビショントーナメントです。タイムアタック上位4チームが参加し、4チームのトーナメントを行います。トーナメントは2v2の直接対戦。eスポーツ選手同士の対決となりそうですが、柔道選手が小さいながらも連鎖してアシストします。

実際に試合が開始されると、eスポーツ選手が先にダウンしてしまうこともあり、柔道選手も勝敗にひと役買っていることがわかります。優勝したWINチームには、ウルフ・アロン選手、ぴぽにあ選手、鈴木桂治監督、G.G.佐藤氏などのサインが入ったTシャツが贈られました。

  • タイムアタック上位4チームでトーナメント戦を行うエキシビションマッチ

  • スティックバルーンを使った応援はeスポーツでよく見かける光景です

  • ぴぽにあ選手の実況解説でプレイできるのもいい記念になったことでしょう

  • 優勝チームにはサイン入りTシャツが贈られました

最後に、ぴぽにあ選手に挑戦する1対3の変則マッチが行われました。ウルフ・アロン選手、柔道選手、eスポーツ選手の3名が協力してぴぽにあ選手に対峙します。

1戦目はハンデとして4ぷよ分何もしないで待つことになりましたが、さすがにハンデが大きすぎたか、ぴぽにあ選手が敗北。2戦目からはハンデなしの対戦となり、ぴぽにあ選手が連勝しました。

eスポーツに触れた柔道金メダリストはイベントに何を感じたか

トークセッションが終了したあと、ウルフ・アロン選手に話を聞いてきました。

――今回のイベントの感想を教えてください。

ウルフ・アロン選手(以下、ウルフ選手):eスポーツと柔道という組み合わせは珍しいですよね。でも、まったく違うものに見えて、お互いにスポーツという共通項から、通じ合うところはあると改めて感じました。お互いにいいところを吸収し合って、切磋琢磨できる関係性が持てたらいいですね。

  • インタビューに応じてくれたウルフ・アロン選手

――たとえばどのあたりに通じるところがあると思いましたか?

ウルフ選手:反射神経が必要な部分は共通していると思います。柔道だと相手がどういう技をかけてくるか、瞬間的に判断しなければならないんですけど、判断する前に反射的に返すこともあるんですよね。

何回も反復している練習は体に染みついていて、実際には「引き手をこうして、釣り手をこうして、足をこうして――」と、考えて行動しているわけではなく、自然と体が動くわけです。

『ぷよぷよ』も大連鎖を作るときに、考えてやっているところと、反射的にやっているところがあると思います。そのあたりに通じるところがあると感じました。

――柔道とeスポーツは両立できると思いますか?

ウルフ選手:さすがに本格的にやろうとしたら両立は難しいと思います。ただ、我々のように柔道を中心としてやっている場合、ゲームが頭の運動になったり、指の感覚を少し整えたり、反射神経を鍛えたり、そういったことで役に立つことは多いでしょう。

――先日のアジア大会ではeスポーツがメダル競技となり、IOCもeスポーツ部門の立ち上げを検討しています。その動きについてはどう感じていますでしょうか。

ウルフ選手:さきほど、ぴぽにあ選手が何ごとでも真剣にやっている人は格好いいとおっしゃっていましたけど、その通りだと思います。ゲームも真剣にやっている人はすごいですし、格好いいです。それがスポーツとして世の中に認められてきて、すごいと思いますね。eスポーツ選手と情報を共有していきたいですし、eスポーツをきっかけにオリンピックを観てくれる人が増えるなら、それもうれしいです。

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今回のイベントは、かなり特殊な取り組みと言えます。しかし、どちらの子どもたちにも、いい経験になったのではないでしょうか。

eスポーツ選手は、柔道における礼節を知り、投げ技や寝技を体験することで、柔道の魅力を感じたと思います。柔道選手は、eスポーツ選手の高い技術や戦術を目の当たりにして、競技としての奥深さを感じたことでしょう。

どちらにせよ、実際に体感してみることが重要で、その意味では今回の試みは大成功と言えると思います。結果として、今後、柔道や『ぷよぷよeスポーツ』に取り組むことがなかったとしても、自分の知らない世界があり、そこで真剣にがんばっている人がいることを知れただけでも十分な成果です。

子どもたちは“可能性の宝庫”なので、保護者としても、さまざまな可能性を見いだすために、多様な経験をさせてみるのはいいことだと感じました。