対戦格闘ゲーム「ストリートファイター」シリーズ最新作『ストリートファイター6(スト6)』が2023年6月にリリースされました。シリーズ史上最高傑作との呼び声が高く、格ゲー界隈だけでなく、ストリーマーなどの間でも盛り上がりを見せています。

eスポーツタイトルとしても注目されており、プロ選手がチーム戦を行う国内リーグ「ストリートファイターリーグ:Pro-jp(SFL)」の視聴者数は増加。各チームが行うパブリックビューイングも盛況です。

そんななか、初の世界大会となったのが北米の格闘ゲームの祭典「Evolution(EVO)」。2023年8月開催と、『スト6』リリースから2カ月しか経っていないにも関わらず、その参加者数は7000名を超え、EVO史上最高を記録しました。

そこで頭角を現したのがプロゲーミングチーム「FUKUSHIMA IBUSHIGIN」所属の翔選手です。同率5位を記録し、一躍時の人となりました。また、その直後にサウジアラビアで開催されたeスポーツイベント「Gamers8」では見事優勝し、賞金40万ドル(約5800万円)を獲得するなど、『スト6』の競技シーンにおいて、今もっとも旬な選手と言っても過言ではありません。

今回、その翔選手にインタビュー。EVOやGamers8などについて、話を聞いてきました。

  • 「FUKUSHIMA IBUSHIGIN」所属の翔選手

――まずは自己紹介をお願いします。

翔選手:福島を拠点に活動しているeスポーツチーム「FUKUSHIMA IBUSHIGIN」所属の翔(かける)です。生まれは愛知県で、5年間くらい社会人プレイヤーとして兼業で活動していましたが、その後専業プレイヤーになりました。今26歳です。昨年、愛知から埼玉に居を移して、1年間くらい住んでいましたが、今年の4月からチームがある、福島飯坂温泉に移住しました。

――ゲーム歴はどのくらいでしょうか。

翔選手:物心ついたころから家にゲーム機がありました。両親がゲーム好きで、その影響で始めた感じですね。両親はSFC(スーパーファミコン)世代で、『ストリートファイター2』などもありましたが、格闘ゲームだけをプレイしていたわけではなく、数あるゲームの1つとして遊んでいました。最初にプレイしたのは『ポケモン』だったんじゃないかな。

父親は格ゲーが好きでした。ゲームセンターにも通っていたみたいで、僕が小さいころ、ショッピングモールのゲームコーナーに一緒に行ったときも、格ゲーをプレイしていました。

その影響もあって、僕は2011年夏に本格的に格ゲーを始めました。元々はPlayStation 3(PS3)が欲しかったんです。PS3を買ってもらう口実として、その当時出たばかりの『ストリートファイター4』をやるために必要だと伝えました。

PS3では、FPSなどいろいろなゲームを遊んでいたんですけど、だんだんと格ゲーにのめり込んでいきました。

――「IBUSHIGIN」が初めて参加したゲーミングチームだったのでしょうか。

翔選手:「IBUSHIGIN」に入る前はほかのゲーミングチームに入っていました。どのくらいの期間所属していたか覚えていませんが、チームが解体されてしまったんです。そこで、これからどうしようかなって思っていたときに、前のチームメンバーに「IBUSHIGIN」を紹介してもらいました。

当時の「IBUSHIGIN」は『ストリートファイター』部門がなかったんですけど、それをきっかけに新設が決まって、所属することになりました。入ったのは2019年だったと思います。タイトルとしては『スト4』から『ストリートファイターV(ストV)』に移っていました。

――『スト6』になってから活躍が目覚ましいですが、スト6の何が翔選手と合致したのでしょうか。

翔選手:実は『ストV』がリリースされてから3年くらいゲームをガッツリできない時期があったんです。なので、スタートダッシュに失敗して、どうしても出遅れ感があったんですよね。『スト6』ではそれがなく、最初からプレイできたのは大きかったと思います。

『ストV』ではリュウを使用していたのですが、「心眼(※1)」というスキルをよく使っていたんです。『スト6』から新たに搭載されたシステム「ドライブパリィ(※2)」と似通っているので、ほかの人よりも使いこなせるようになるのが早かったのかもしれません。

また、『スト4』時代は、中遠距離で戦う豪鬼というキャラクターを使っており、『スト6』で使っているキャラクターのJPに通じるものがあったように思います。

(※1)相手の攻撃をさばく技
(※2)「心眼」と同じく相手の攻撃をいなす技。ガードよりも隙が少なくなる

――JPを選んだのは戦い方からでしょうか。

翔選手:いえ、完全に見た目です。それで、使ってみたらめちゃくちゃ楽しかったので、そのまま使うことに決めました。今『スト6』では、JPがかなり強いと言われていますが、強いから選んだのではなく、選んだキャラが強かった感じです。

――先ほど心眼、パリィの話が出てきましたが、優勝したGamers8ではジャストパリィ(※3)の精度の高さが話題になりました。

翔選手:回数を数えている人がいましたね。32回でしたか。先ほども言いましたが『ストV』はリュウの心眼を中心に立ち回っていたんです。心眼もジャストパリィもそこまで持続が長くなくて、心眼のタイミングを覚えていたことがジャストパリィの回数につながっているような気がします。

(※3)ドライブパリィを発動させてから2フレーム目までに相手の攻撃をさばくと発生する特別なパリィ。相手のモーションがゆっくりになり、反撃の糸口となる。ただし、ジャストパリィ後の一連の攻撃はダメージが半減する

  • サウジアラビアで開催されたeスポーツ大会「Gamers8」では、見事優勝した翔選手

――翔選手だけでなく、最近「IBUSHIGIN」所属メンバーの活躍も著しいですが、何が強みとなっていると思いますか?

翔選手:何が要因かはわかりませんが、平均年齢が低いことが1つ挙げられるかもしれません。最年長のかべさんでも30歳。ササモさんが23歳。今は『スト6』がリリースされたばかりで、若い人は吸収力が高く、新しいものへの対応力も高いのではないでしょうか。

あと、チームメンバーの仲が良いですね。誰とでも意見交換するなど、活発なコミュニケーションができています。それがいい方向に作用しているのかもしれません。

――チーム内の交流が多いんですね。

翔選手:今は、Yanai選手とオーナー、スタッフと一緒にシェアハウスに住んでいます。イベントに参加するときはみんなと一緒に車で移動するので、自然と仲良くなります。みんな仲良くて居心地がいいですね。

また、『スト6』の選手だけでなく、『ギルティギア』『グラブルヴァーサス』の選手やVTuberのメンバーとも交流がありますよ。一緒にイベントやったり、配信しているところに遊びに行ったりして仲良くなりました。オーナーがお酒好きで、オンライン飲み会を良く開催していて、交流を深められています。

――ササモ選手、かべ選手がSFLに参加し、Yanai選手もかつてはSFリーガーでした。翔選手もSFLに思いはありますでしょうか。

翔選手:夢の舞台ですよね。華があると思います。もちろんいつかは出たいです。来年のことはまだわからないですけど、機会があるなら「IBUSHIGIN」として出場できれば一番いいですね。

――翔選手は今年の世界大会での活躍が著しいですが、まずはEVOの感想をお聞かせください。

翔選手:最初はトップ8(今年のファイナリストはトップ6)までいければいいよねって話をしていました。壇上に上がるのは全然違うよって。なので、ファイナリストを目標にしていました。もちろん優勝を狙っていましたけど、そこまでは正直自信がありませんでした。実際、予選プールで危ない試合が何回かあって、なんとか勝ち進めた印象です。なのでファイナリストになったときはホッとしましたね。

――ウィナーズサイドでのトップ6進出だったので、優勝が見えたのではないでしょうか。

翔選手:そうですね。トップ6が決まったときに、ケン使いのAngryBirdとの対戦が決まっていて、ケン使いのウメハラ選手、藤村選手、同じJP使いのネモ選手にケンの対策してもらいました。

対ケン戦の仕上がりは良かったと思っています。ただ、大舞台の緊張があって、準備してきたものをうまく出せませんでした。

――AngryBird戦でルーザーズサイドに落ちたあとは、どきど選手との対戦でしたね。これもケン戦でした。最後の最後で、JPの技「ヴィーハト・チェーニ」が真下に出て、当たらない不運もありました。

翔選手:そうですね。トップ6にときど選手もいたので、対策としてケン戦を詰めていたわけですが、本番ではうまくいきませんでした。

最後のヴィーハト・チェーニは、普段使っていたコンボルートじゃないものを使ってしまったんですよね。「当たれば勝てる!」と思って出した結果、悪い方向にいってしまいました。

楽しようとしちゃったなと反省しています。そういう意味でメンタル面は課題だと思いました。大きな舞台に立ってから1回も勝てなかったのは悔しかったですね。

――EVOから間髪入れずGamers8に参加ですが、気持ち的、体力的に大変だったのではないでしょうか。

翔選手:EVOで負けたあとは、帰って練習したいと思っていました。でも、すぐ大会があるから練習する時間もない。負けても切り替えなくてはならないんです。そこがキツかったですね。

海外から海外の移動も初めてで、途中、飛行機が遅延して、乗り換え時間もギリギリ間に合わず、ドイツで一泊することになりました。しかも、荷物が見つからず、最悪、アケコンなしで参加することを覚悟しました。なんとか周りの人の助けもあって、サウジアラビアには無事着きましたけれど。

気持ちの切り替えもキツかった。集中が切れたときは「もう帰りたい」なんて考えがよぎることもありました。でも、大会中にX(旧Twitter)を見て、日本はもう真夜中のハズなのに応援してくれる人がいて、それがすごくうれしかったんです。帰りたいなんて言っていられないと、踏ん張れました。

――Gamers8では、EVOで負けた相手であるAngryBird選手を倒しての優勝でした。EVOで対策したことがGamers8で活かせたのでしょうか。

翔選手:EVOのときから、ケン戦の内容はよかったんです。結果として負けてしまったのは、コンボ選択が消極的になっていたことなどが原因です。Gamers8では、そこを修正しました。

リベンジに燃えていたわけではないんですが、EVOの優勝者にGamers8でも勝たれるのは悔しかったので、それを阻止したいと思っていました。いや、やっぱりリベンジしたい気持ちもあったんですかね。

――Gamers8で優勝してメンタルは強くなりましたか?

翔選手:まだ気を抜くと弱さが出ちゃうんですよね。課題だらけですが、Gamers8で優勝できたのは自信にはなっていると思います。

――Gamers8での勝因はなんでしょうか。

翔選手:大会を楽しめていたことですかね。Punk選手との試合では0-2まで追い詰められていたんですけど、特に動揺した覚えはなく、その状況すら楽しんでいました。

EVOからGamers8の流れで優勝したら一番楽しめているのは自分かなと思ったくらいですね。周りの人にはゾーンに入っているのではないかと言われましたけど、いい精神状態だったんじゃないでしょうか。

――会場の環境的にはどうでしたか。

翔選手:Gamers8の環境はあまりよくなかったんですけど、スタッフはいい人ばかりで、ラグがあると言ったら、それを修正するのに一所懸命に対応してくれました。

気候的には日本以上に暑かったですね。45度ほどでしたが、乾燥しているので、日陰にいれば涼しかったです。大会中は基本的にクーラーが効いている室内に籠もりっきりだったので、寒いくらいでした。

ラスベガスも乾燥していましたね。加湿しないと喉がやられてしまうんじゃないかってくらいで、夜寝るときはマスクして寝ていました。

――サウジアラビアの観光はできましたか。

翔選手:大会が終わったらすぐ帰国だったので、まったくできませんでした。大会の始まる前に2日間くらい予備日があったんですけど、大会前だとどうしても練習してしまうんですよね。AngryBirdの対戦相手にJPがいたので、対策を頼まれて一緒に練習していました。

――無粋な話ですが、Gamers8の優勝賞金は40万ドルはもう振り込まれましたか? 使い道は考えていますか?

翔選手:メールでいろいろやり取りはしているんですけど、まだ振り込まれていません。使い道については考えていないですね。僕は物欲があまりないんです。

そういえば、今使っているコントローラーは、ほぼ無償で知り合いに作ってもらったので、そのお礼をしたい。あとは配信機材を整えていきたいですね。

配信では、リスナーさんの希望に応えることをやっていきたいと思っています。最近では、歌ったり、マウスで絵を描いたり、ゲーム以外のことも企画していて、ミキサーだったり、マウスだったり、あと、手元を映してほしいというリクエストがあったので、そのカメラを買うことも考えています。

ほかには、シンガポールとフランスで大きなオフライン大会があるので、そういうものに積極的に参加していこうと思います。

――今後の活動について教えてください。

翔選手:「CAPCOM CUP」に向けて練習を続けていきます。多分、今シーズンはJPに大きな動きはないと思うんですけど、『スト6』はどのキャラクターもおもしろいので、JP以外も使ってみたいですね。2024年春には『スト4』時代に使っていた豪鬼が追加されますし、新キャラクターA.K.I.も使っていておもしろかったです。

また、先ほども話ましたが、今僕は福島の飯坂温泉に住んでいます。ここで地域イベントをやっていきたいですね。SFLのパブリックビューイングが開催されますが、それ以外でも月イチくらいでイベントを開催できればいいなと考えています。先日、郡山で『スト6』対戦会「Fighters Crossover」があって、70人くらい参加者がいました。なので、需要はあると思います。

あと、Gamers8で優勝したあと、市長へ表敬訪問したんですけど、そのとき、子ども向けのイベントをやっていきたいと話がでたので、これも実現したいですね。

  • 郡山で行われた『スト6』対戦会「Fighters Crossover」

――活動と言えば、翔選手はTwitchでの配信も頻繁に行っています。配信で意識していることはありますか。

翔選手:そうですね、配信では、なるべく強い言葉を使わないように気をつけています。

あと、特定のキャラクターを否定するような発言はしないようにしていますね。そのキャラクターを使っている人を不快な気持ちにさせてしまう恐れがあるので、そのあたりも気を付けています。

――ほかに、視聴者が楽しむような工夫はされていますか。

翔選手:自分が楽しむことですかね。配信を観てくれている人と交流するのが楽しいので、たとえば、よく観にきてくれる人のX(旧Twitter)を見て、その人の投稿に触れることもありますよ。

――ありがとうございました。

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まだタイトルがリリースされてから4カ月程度ですが、すでに『スト6』に愛された男として存在を知らしめている翔選手。今年の「CAPCOM CUP」は優勝賞金100万ドルと破格なので、そちらも期待している人は多いかと思われます。

また、若手の台頭が著しい『スト6』界隈において、26歳の中堅プレイヤーが花開いたのも、長年プレイしている人たちにとって励みになるのではないでしょうか。あとは継続しての活躍ですが、そこはきっとクリアできると信じて応援したいところです。