「マイナビニュース」でeスポーツ関連の記事を書かせていただくようになって3年半以上経過しました。その中でも、eスポーツイベントの観戦に関する記事を、【岡安学の「eスポーツ観戦記」】として掲載しています。

今回は、連載が100回を迎えたことを記念して、これまで記事にしてきたeスポーツイベントで印象に残っている大会や試合を10選として紹介します。

あくまでもマイナビニュースで記事として扱った中から選んでいるので、最初から選に漏れてしまった大会もあります。選んだイベントは、ランキングではありません。紹介順は連載のナンバリングが若い順です。

サプライズピックの小雪が作戦通りにハマり、解説陣すら驚かせた一手【モンスターストライク】

最初に選んだのは、「モンストグランプリ2019」の決勝戦「どんどんススムンガ対Cats」の一戦です。

『モンスターストライク』では、ステージのギミックに合わせたモンスターをピックし、最適解を構築するのが常識とされていましたが、どんどんススムンガは、ステージ相性が悪い「小雪」を選択。会場は響めきました。

戸惑いと期待が渦巻く中、試合では小雪ピックを最大限に生かし切る攻略を実行してみせます。これを超えるサプライズピックはほかのゲームでも見たことがありません。それほどの驚きがありました。

掲載記事
波乱が続いたモンストグランプリ2019、無冠の実力者たちが研いだ爪を見せた

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    2019年8月、「XFLAG PARK 2019」で開催された「モンストグランプリ2019」の決勝戦

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    「XFLAG PARK 2019」では、氣志團が『モンスト』世界に召喚されたというストーリーのライブ「MONST Rock’n’roll High School」も実施されました

“観戦するeスポーツ”の息吹を感じた大会【League of Legends】

2019年9月、バスケットボールのプロリーグ「B.LEAGUE」でも使用される「アリーナ立川立飛」で行われた『League of Legends(リーグ・オブ・レジェンド)』のプロリーグ「League of Legends Japan League(LJL)」の優勝を決める一戦「LJL 2019 Summer Split Finals」。優勝すれば世界大会である「Worlds」への参加切符を獲得できる大会です。

すでに「LJL」は、渋谷にある「よしもと∞ホール」でリーグ戦を定期開催しており、2017年には、幕張メッセのイベントホールで大会を開催しています。

しかし、eスポーツが世間的に注目を浴びてから、オフラインイベントで3,000人を超える集客ができたのは、このイベントが初めだったのではないでしょうか。多くの関係者がeスポーツのポテンシャルの高さを再確認したイベントになりました。

掲載記事
アリーナ立川立飛は満員御礼! LJL Finalsが示したeスポーツのコンテンツパワー

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    2017年に完成した「アリーナ立川立飛」でLJLのFinalsが開催されました

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    会場は2階席までほぼ満席でした

パキスタン旋風、到来【鉄拳7】

2019年2月に福岡で開催された対戦格闘ゲームイベント「EVO Japan 2019」の『鉄拳7』部門において、“パキスタン旋風”が起こりました。

パキスタンから招待されたArslan Ash選手が並み居る日本・韓国の強豪を打ち破り優勝を果たします。そして、勝利者インタビューでは「パキスタンには、自分より強い選手は7人いる」との発言もあり、鉄拳のeスポーツシーンは一気にパキスタンに注目が集まりました。

その8カ月後、日本で開催された「Tokyo Tekken Masters 2019」において、再びパキスタン旋風が吹き荒れます。「EVO Japan 2019」で活躍したAsh選手ではなく、新たな刺客として登場したのがAtif Butt選手とAwais Honey選手の2人。これまた日本や韓国勢を軒並み蹴散らし、パキスタン勢がワンツーフィニッシュを飾りました。

パキスタン勢の出現は日本勢に大きな影響を与え、これから大きく飛躍するきっかけとなります。この年、『鉄拳7』の世界大会「Tekken World Tour Finals」で、チクリン選手が優勝し世界一となったのも、パキスタン旋風がきっかけと言えなくもなく、日本勢にとって良いカンフル剤となりました。

掲載記事
鉄拳の勢力図は入れ替わるのか? パキスタン勢が実力を示したワールドツアー

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    Atif Butt選手(写真左)とAwais Honey選手(写真左右)

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    パキスタン勢がワンツーフィニッシュを決めました

神童、ついに覚醒す【鉄拳7】

2020年3月に、日本対韓国が12対12で戦う団体戦「鉄拳7 日韓対抗戦2020」が開催されました。コロナ禍により韓国勢の2名が参加を辞退したため、10対10での対戦。ここで、日本の弦選手が覚醒します。

今や日本鉄拳eスポーツ界をエースとして牽引する弦選手ですが、このときは大学受験から復帰し、プロライセンスを取得したばかりの若手選手の1人でした。前哨戦となる3on3の団体戦では人数調整で1人グループとなったうえ、韓国のエースKnee選手との対戦。これに勝利した弦選手は、本戦である勝ち抜き戦でも6連勝し、日本チームの勝利に貢献しました。

本戦でも再びKnee選手と対峙しており、これも勝利。まさに弦無双と言える大会で、ここからの鉄拳の競技シーンは弦選手を中心に回っていくのではないかと思わせるほどでした。

掲載記事
無観客の鉄拳日韓対抗戦、華やかな香りで会場をデザインする取り組みも

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    日本チームは、韓国チームの人数に合わせるべく、プロ選手14名で選抜戦を実施します

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    弦選手が八面六臂の活躍を見せました

新しい社内イベントの形をみせた凸版印刷【eFootball ウイニングイレブン 2021 SEASON UPDATE / ストリートファイターV】

コロナ禍真っ只中で、さまざまなイベントが中止となる中、社内イベントも例外ではありませんでした。凸版印刷は2年に一度、社内運動会を開催していましたが、2019年は台風で中止、2021年もコロナ禍で中止となる算段でした。

そこでオンラインでも開催できるeスポーツを採用することで、リモート参加のイベントを企画。リモートになったことで、運動会では参加できなかった地方営業所からの参加もあり、入社以来会っていなかった同期の姿が見られるなど、予想以上の恩恵が得られました。

また、「ストリートファイター」のプロゲーマー・ウメハラ選手の憧れのプレイヤーとして知られる太刀川選手が凸版印刷に勤めており、久々に「ストリートファイター」シリーズをプレイしているレアな姿を見ることができました。

配信は凸版印刷の社員とその家族のみが視聴できるクローズドの環境で、さらに参加チームには必ず役員や部長クラスの幹部が1人入るレギュレーション。上司が部下に教えを請い、部下に支えてもらってプレイする姿は、社内のコミュニケーションの活性化、風通しの良さをもたらすと感じました。

プロシーンや高校生大会だけがeスポーツではないと示してくれたイベントです。

掲載記事
5万人の従業員とその家族が対象!? 凸版印刷の社内eスポーツイベントに潜入

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    事業部長が対戦しているときは、若手がアドバイス

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    プロシーンの実況を務めるキャスターやプロ選手を呼ぶなど、運営も本格的でした

『ストリートファイター』シリーズを支える若手の到来【ストリートファイターV】

『ストリートファイターV』のeスポーツシーンは、ベテランが強く、若手が育ちにくい状況でした。カワノ選手や竹内ジョン選手など、若手でも強豪に食い込む選手はいましたが、コンスタントに好成績を残せる選手はそれほどいませんでした。

しかし、2021年7月に行われた「TOPANGAチャンピオンシップ ストリートファイターV シーズン3」では、まだ大学生と若いひぐち選手と先に紹介したカワノ選手が優勝争いで火花を散らします。

この2人は、その後、カプコンプロツアーの優勝など、エース級の活躍を見せ、トップランナーの一角として台頭。ウメハラ選手やときど選手の後継者として、『ストリートファイター』のeスポーツシーンを支える存在の登場は、ベテラン陣にとってもうれしいことだったのではないでしょうか。

掲載記事
若手の優勝争いに新たな風潮を感じた「TOPANGAチャンピオンシップ」

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    最終戦のひぐち選手対カワノ選手

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    ベテランの活躍が目立つ『ストリートファイターV』のeスポーツシーンにおいて、若手同士の優勝争いに新たな潮流を感じました

ついにN校が陥落【League of Legends】

高校eスポーツの2大大会である「全国高校eスポーツ選手権」と「STAGE:0」。どちらも『League of Legends』部門があり、2021年12月に行われた第4回全国高校eスポーツ選手権までに、全部で6回の大会がありました。

ネットの高校として知られる「角川ドワンゴ学園 N高等学校(N校)」は、第1回全国高校eスポーツ選手権で3位となったあと、「STAGE:0」の第1回大会から5連覇を記録。そんな絶対王者であるN校に土をつけたのがクラーク記念国際秋葉原・Yuki飯食べ隊でした。2021年12月に行われた第4回全国高校eスポーツ選手権では、クラーク記念国際がN校を破り、『League of Legends』部門で優勝を決めます。

そもそも選手が毎年入れ替わる高校eスポーツにおいて、連覇をすること自体が難しく、それをなし得ているN校を倒すのも至難の業です。第4回全国高校eスポーツ選手権は、その意味では、常連強豪校になる難しさとその強豪校を倒す難しさの両方を感じ取れた大会でした。

また、Yuki飯食べ隊の名前の由来であるコーチのYuki氏の存在も大きく、高校eスポーツには指導者の必要性も感じました。

掲載記事
N高敗れる! クラーク記念国際がLoL部門優勝を決めた「第4回全国高校eスポーツ選手権」

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    決勝はN高校「N1」とクラーク記念国際「Yuki飯食べ隊」の組み合わせ

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    第4回全国高校eスポーツ選手権で優勝したクラーク記念国際秋葉原の「Yuki飯食べ隊」

スーパーコンピュータ並の判断速度と1/8×1/8×1/8を引く運【ぷよぷよeスポーツ】

『ぷよぷよ』は歴史のあるゲームで、対戦が主流となった『ぷよぷよ痛』から数えると27年も経過しています。長い時間の中で戦略や積み方は常に進化しており、今は大連鎖よりも2~3連鎖ダブルで相手の攻撃の目をつむ、スピード勝負が主流です。

相手の盤面に応じて発火タイミングを決めるので、自分の盤面だけでなく相手の盤面を逐一チェックしなくてはならず、瞬時に理解、判断する情報は常人には計り知れないでしょう。

2022年3月の「ぷよぷよファイナルズ SEASON4」で優勝したのはともくん選手でしたが、それ以上に大会を沸かせたのはぴぽにあ選手でした。

相手の攻撃に対して、現在返せる連鎖量では追いつくことができず、負けが濃厚の中、ぷよが盤面に出る瞬間、次とその次に出現するぷよが表示されると瞬時に11連鎖の道筋を見つけ、そこから逆転勝利します。

3つのぷよの情報が出るまではコンマ数秒の時間でしたので、そこから勝ち筋を見つける判断力はプロ選手といえども神がかっていました。また、その勝ち筋のためのぷよの組み合わせは1/8の確率が3回連続しなければならず、運の良さも飛び抜けていました。

掲載記事
丁寧な解説でプロのすごさがよくわかる、「ぷよぷよファイナルズ SEASON4」レポート

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    右側の盤面の左から2列目のみどりぷよの上にはあかぷよが画面外に乗っており、3列目にみどりあお、あおみどりの順番で積み、中盤にある邪魔だったあかぷよ3連を消しつつ、11連を決めました

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    試合のインターバルには、視聴者がより深く観戦できるように「momokenのゼロからわかるぷよぷよeスポーツ観戦講座」が流れていたのも印象的でした

音だけで判断する格ゲーの世界【ストリートファイターV】

2022年4月、障がい者eスポーツを運営するePARAは、全盲プレイヤーによる「心眼CUP」を開催しました。視覚情報が重視されるゲームにおいて、視覚情報を一切使用せずに音のみの状況判断で対戦します。

イベントを見る前は、とりあえず対戦が成立しているレベルを想像していたのですが、実際にゲーム画面を見ていると、よもや視覚障害者がプレイしているものだとは思えないほど。相手がジャンプしたことも、技を出したことも、走ったこともすべて音の情報だけでわかると言います。攻撃が当たったと音を聞き、すかさずコンボを叩き込む、いわゆるヒット確認すらできていました。

心眼CUPに出場した選手は先天的な視覚障がい者だったので、もともとゲーム画面を確認していません。なので、今までの視覚情報を変換することなくプレイできるわけですが、そうはいっても驚きの1日でした。

掲載記事
音の情報だけで戦う、全盲プレイヤーによるeスポーツイベント「心眼CUP」レポート

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    現場で対戦したMM選手(写真左)となおや選手(写真右)。ヘッドホンから入ってくる音声以外の情報はなく、アシストもいない状態で対戦します

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    配信終了後には、筆者もブラインドでの対戦を体験。モニターにTシャツをかぶせ、画面が見えない状態で対戦しましたが、自分も相手も何をやっているかほとんどわかりませんでした

1万3,000人の観客がSSAに集結【VALORANT】

2022年6月25日、26日に、さいたまスーパーアリーナで開催された『VALORANT』の公式大会「2022 VALORANT Championship Tour Challengers Japan Stage2(VCT2022)」。前大会であるStage1では、ZETA DIVISIONが優勝し、世界大会へ進出しました。下馬評では世界大会参加チームの中でダントツの最弱チームと目されていましたが、結果は3位と大健闘。これにより、一気に『VALORANT』と「VCT2022」の注目度が上がります。

Stage1が終了したあと、2022年5月に行われた『VALORANT』オフラインイベント「RAGE VALORANT 2022 Spring」では、インフルエンサー出場の1日目、プロ選手が出場する2日目のどちらも6,000人を越す来場者があり、大いに盛り上がりました。

それから約1カ月後に開催されたVCT2022 Stage2のFinalでは、会場をより広い「さいたまスーパーアリーナ(SSA)」にすることで、両日共に1万3,000人、計2万6,000人を超える来場者を記録。2019年9月の立川立飛の「LJL Finals」で、観戦するeスポーツの息吹を感じた直後、コロナ禍でその芽が摘まれてしまいましたが、ここに来て勢いが戻ってきたと感じました。

掲載記事
2日間の総来場者数2万6,000人、『VALORANT』のeスポーツイベント「VCT2022 JS2」レポート

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    さいたまスーパーアリーナの会場は1万3,000人の観客で埋め尽くされました

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    イベントでは、世界3位の「ZETA DIVISION」を倒した「NORTHEPTION」が優勝しました

今回の企画で、連載記事を振り返ってみましたが、この3年半でeスポーツシーンは大きく変わってきたと改めて実感しました。「盛り上がっては収束」を繰り返してきたeスポーツですが、ようやく定着しそうな気配です。

ただ、市場としては小さく、ほかのライブエンターテインメントと比べれば、まだまだでしょう。今後も慌てず、ゆっくりと成長していくことを期待します。そして、その成長シーンを見守って、多くの人に伝えていきたいと思います。