大変暑い中、世界的スポーツ大会が開催されている昨今ですが、みなさんいかがお過ごしでしょうか。今回は、天体の速さについてご紹介しようと思います。地球も結構速いのでございますよ。

学生のときイキがってスケボーを持っていた(少しやってくじけた)東明です。みなさんいかがおすごしでしょうか。さて、「より速く、より高く、より強く」というのは世界的スポーツ大会の標語のみならず、スポーツの世界では割と普遍的な用語なようでございます。実際の競技では、カッコよくとか、難しくとか、美しくとか、まあ「スゲ~」とかいろんな尺度で競い合いますな。それで「おー」となれば<嬉>ですなー。

ということで、わかりやすい速さ部門でチェックしてみます。元ネタは理科年表(丸善)とIAU Minor Planet Centerなどでございます。

太陽を巡るスピード

地球 軌道平均速度:秒速29.78km

地球は1年かけて、太陽を一周します。1年というとなんかのんびりな印象ですが、太陽までの距離は1.5億km、軌道の一周はその2×3.14倍ですから9.42億kmでございます。これを365.25で割ると1日あたり258万km、時速10.7万kmで上の秒速になるわけです。かなーり速いですな。

で、地球の直径が1.28万kmなので、地球は直径分動くのに7分ぐらいしかかかっていません。あ、この計算、全部Webブラウザの検索欄に“2*3.14”とか打ち込んでやっています。電卓アプリすらたちあげない。便利ですなー。

水星 軌道平均速度:秒速47.36km

太陽に近い天体ほど、速く太陽を巡ります。惑星の中で一番太陽に近い水星が一番になるのは当然でございますな。秒速47.36kmは、時速に直すと17万kmです。新幹線の5000倍でございますな。それでも太陽一周には88日かかります。新幹線なら50万日、1000年かかるところを88日ですから速さがわかりますな。

小惑星イカルス

ところで、水星よりも太陽に近づく天体はないのでしょうか? 太陽系には100万もの小惑星が発見されており、中には地球に交差する軌道を持つNEOがあるってな話を以前いたしました。

参考:どこでもサイエンス 第202回 キケンで興味深いNEO=地球近傍天体

じゃあ、水星に交差する軌道を持つNEO(Near Earth Object)ならぬNMeO(Near Mercury Object)もあるんちゃうと思ったりします。

地球より太陽に近いところに行く小惑星は、NEOのなかでもイカルス群といわれます。1949年に発見されたイカルスという小惑星が最初の発見例です。この天体は地球のように円形の軌道でなく、かなりつぶれた楕円軌道で太陽を巡っており、太陽に近づく時は水星よりも太陽に近づきます。名前は太陽に行こうとしてロウで固めた羽で飛んで、羽が溶けておちたイカルスの物語にならったものですな。

イカルスの太陽距離は一番近づくときは太陽から2700万kmで、4600万kmの水星の60%です。イカルスは平均すると地球と同じくらいの距離にあり408日かけて太陽を一周します。太陽に接近するときだけ速くなるのですが、速度は平均速度に対し、太陽からの距離に反比例しますので、地球が秒速30kmであることを考えると、秒速100kmを越えます。時速40万kmと1時間で月に到達できる猛スピードです。

もっと太陽に近づく小惑星は、さらに猛スピードの小惑星394130

2006年には、イカルスよりさらに太陽に近づく小惑星394130が発見されました。最接近はイカルスの2700万kmに対し、1200万kmとなります。平均すると火星よりも遠いところにあり、2年以上かけて太陽を一周します。火星の平均速度が秒速24kmで距離2.4億kmで、その20分の1まで太陽に近づくので、速度は20倍の秒速500kmですな。時速だと200万kmで、地球から月まで到達に5時間。東京からニューヨークまで6分。東京―大阪間なら1秒間で到達できます。

すげー、かっけー。

さらに猛スピードのクロイツ群の彗星

さて、小惑星よりもさらに太陽に近づく天体があります。というか、太陽に近づきすぎると蒸発するので、長遠距離からやってきて、一瞬だけ太陽のそばを通る彗星でございます。クロイツ群といわれる彗星たちがそうで、結構たくさんあることが衛星SOHOの観測でわかってきました。1995年から2020年までの25年間で4000個も発見されているのです。

以前から太陽に接近するとスゴイ尾をのばし明るくなるものがあるので、1680年の大彗星や、昼間でも見えたという1965年の池谷・関彗星など、人工衛星が上がる前もいくつも見つかってはいたのですが、そんなに多いとは太陽に近すぎて、よくわからなかったのです。太陽をかすめることから、Sungrazerとかいわれます。

クロイツ群の彗星のなかC/2011 W3ラヴジョイ彗星が有名です。これは太陽にあぶられて生き残った彗星で、太陽表面から14万km(太陽の直径は140万kmなので、太陽中心との距離は84万km)というところを通りました。その様子をSOHO衛星とSDO衛星が捉えたのがこちらです。ちなみにラヴジョイは、オーストラリアのアマチュア天文家ラヴジョイさんが発見したのでこの名前となっております。

スピードは秒速565kmです。平均すると非常に遠距離にあるので、これほど接近しても劇的にスピードは速くなりません。が、まあすごいことは間違いないですなー。

人類が太陽に送り込む、最速の探査機:パーカー・ソーラー・プローブ

さて、ここまで天然の天体の話をしてきましたが、最後に人工の天体の話もさせてください。太陽に超接近して観測するパーカーソーラープローブで、地球から出発し、太陽表面に590万km(太陽中心から660万km)まで接近します。太陽熱で機器がぶっ壊れないように、11cm厚のカーボンシールドなどいろいろな対策がほどこされているのだそうです。

  • パーカー・ソーラー・プローブ

    パーカー・ソーラー・プローブの想像図 (C) NASA/Johns Hopkins APL/Steve Gribben

気になる速度ですが最高で時速200万kmとクロイツ群彗星などと同等です。

  • パーカー・ソーラー・プローブ

    パーカー・ソーラー・プローブは、先端に大きな盾を装着することで太陽の熱に耐えることができる (C) NASA/Johns Hopkins APL/Steve Gribben

まあ、結論では太陽の引力スゲーとしかいいようがないわけですが。

これよりスゴイとなると、ほかの恒星系に行かねばならず、まあそれがゆるされるのであれば、コンパクトなブラックホールすれすれにいく天体が一番速くなりますな。重力強すぎると時間の進み方が相対論的に変化して、この話が変わりますけれどね(外からみると時間が止まって見える)。

というところで、次回は8月13日ピークを迎えるペルセウス座流星群の解説でございます。忘れそうなのでここにちらっと書いておくのです。ではまた。