どこででも開けて、無限のかなたに旅だてる「本」。とっても大好きでございます。ちょっと時間ができてしまいやすい2020年春。明日を元気に賢く生きるために(大袈裟?)、ぜひオモシロい科学の本を開いてみてくださいまし。SFとかノンフィクションも入れてご紹介。

読みたくなったら、電子ブックもええですし、Amazonもございますな。

近所の書店に送料無料で届けてくれるe-Honもありますし、都市部では紀伊國屋ジュンク堂など、店頭在庫がわかる仕組みもございますよ。

では、オススメをば!

PCR発明でノーベル化学賞受賞者の、えーーな自伝

「マリス博士の奇想天外な人生」(ハヤカワ文庫 NF、税込924円、キャリー・マリス著)

  • マリス博士の奇想天外な人生

表紙がサーフィンをしているおっさんの写真で、なんの博士かと思いますが、キャリー・マリス博士は、1993年のノーベル化学賞の受賞者でございます。薬物乱用したり、ちょっと社会的にどうかという奇人ではございます。本として間違いなくオモシロいのですが。

この本「今、話題のPCRの発明者」の本で、発明の経緯や原理が書いてあるんですよ。

その部分は最初に書いてありますから、すぐ飽きちゃうという人もご安心を。訳者はエッセイを週刊誌に連載している人気の書き手でもある、福岡伸一さんでございます。

虫に夢中になり、アウェイのアフリカ・モーリタニアで奮闘

「バッタを倒しにアフリカへ」(光文社新書 883、税込1,012円、前野ウルド浩太郎著)

  • バッタを倒しにアフリカへ

今、アフリカや中東で、作物を根こそぎ食べてしまうというので大問題になっている、サバクトビバッタの研究者のノンフィクション。タイトル通り、アフリカのモーリタニアに渡り、ウルドという名前を現地でもらうほどの研究をした変人の語る話は、研究が一筋縄では行かないすごく楽しいことであることを教えてくれます。ベストセラーになったし、一時はテレビなどにも出ていましたので、手にとった方も多いでしょうけど、まだの人、この機会にいかが?

人気の宇宙観から、短く正確な説明で読める、新進著者の当たり本

「天文の世界史」(インターナショナル新書 017、税込836円、廣瀬匠著)

  • 天文の世界史

宇宙関係は、一応ワタクシのフィールドなので、目についた本はたいていチェックしております。で、たいていは「フーン」でございますが。この本は久々に「おおっ」というものでした。

タイトルの通り、天文学の歴史についての若手専門家が著した本でございます。で、舌を巻いたのは専門の天文学史の部分だけでなく、基礎的なことの説明なんですね。例えば「超」がつかない新星については、意外とちゃんと書いていない入門書が多いのですが、ちゃんと白色矮星に隣の星から降ってきた水素ガスが一定量になると、爆発的に発光する現象であることをサラっと的確に述べています。そのほか、身近な行事や言葉のいわれなどを豊富な知識を背景に小気味よくかつ正確に説明しているので、ネタ本としても重宝しますね。

いろいろあるけど、ラノベっぽく楽しいオススメSF2冊

「ふわふわの泉」(ハヤカワ文庫JA、税込660円、野尻抱介著)

「プロジェクトぴあの(上)(下)」(ハヤカワ文庫JA、上巻と下巻各々1,078円、山本弘著)

  • ふわふわの泉

このところ中国SF「三体」が話題で、実際オモシロいのですが。あの、今、日本のSFは豊作もいいところなんですよ。例えば、小川一水さんの「天冥の標」シリーズは感染症が絡むのですが、本当にオモシロい。ただ、私は「怖いのはダメ」なので読み返せない、安心してワクワク読めるのが好きという点で上の2冊をあげさせていただくわけでございます。

「ふわふわの泉」は、ライトノベルっぽい体裁でハードSFを書く野尻抱介さんの化学SF。高校生がひょんなことから合成した物質から、壮大な世界が描かれていきます。化学物質は何度となく世界をひっくり返したのですが(例えばポリエチレン、化学肥料の発明など)、その様子を擬似的に体験できる逸品です。

「プロジェクトぴあの」は、これまた高校生が発見した物理法則が、世界を変えそうで変えない話で、秋葉原とアイドルとボカロとVRと宇宙船でございます(何言ってんだ、ですね、でもそうなんだからしょうがない)。名手、山本弘さんの傑作の1つです。ご本人による解説もあります

英国のサイエンスライター、サイモン・シンの3作は良い!

「フェルマーの最終定理」「暗号解読(上)(下)」「宇宙創成(上)(下)」(新潮文庫、サイモン・シン著)

英国は世界で最も科学を人々が楽しんでいる国じゃないか? と思うほど科学関係の本やテレビ番組はBBCを中心にオモシロく優れたものが目立ちますな。

最近はブライアン・コックスさんが有名ですが、世界的ロックバンド、クイーンのギタリスト、ブライアン・メイさんも宇宙のことを大いに語っていますな。

さて、そんな中でやはり中心は、サイモン・シンさんでございましょう。上にあげた3作のうち「フェルマーの最終定理」は、彼がBBCの科学部員として製作に関わった同名の番組を本にしたもので、多数のインタビューにより3世紀に渡り解明されなかった天才数学者フェルマーの最終定理が現代の数学者ワイルズによって解かれるまでを語ったものでございます。数学はどうもなーという人も、小説のように読めますですよ。

暗号解読は、現代のネットワークを支えている基礎技術である暗号を、初歩的なものから、現在までを追いかけたもので、世の中がいかに暗号の上に成り立っているかを思い知りながら、暗号を楽しめます。

そして、宇宙創成は、天文学の歴史、特にビッグバンなどの現代宇宙論が成立し、これからどう発展するのかを語ってくれています。

そのジャンルに興味を持っていても発見が多いし、そうでなければ、新しいジャンルを一気に楽しめるようになる傑作でございます。

なお、サイモン・シンはさらに最近もいくつかの本を著していますが、社会背景がわからないと楽しめないものもあり、やはり上の浮世離れした数学と宇宙論、そして普遍的な暗号の本が良いのではないかと思うんですよね。

日本には鹿野司が居るぞ! 新型インフルエンザと感染症について基礎はこれでOK

「サはサイエンスのサ」(早川書房、1650円税込、鹿野司著)

  • サはサイエンスのサ

鹿野司さんは、日本では珍しいサイエンスライターだけで食べている人で、かつてはパソコン雑誌の連載などで有名、またSFチックな番組の科学考証を引き受けたりしているんでございます。

独特の「なのねん」「イヤんな感じ」と言った科学についてのやわらかーい表現で知られて…まあ、あまり知られてないですよね。というのは、あんまり単行本はなくて、今入手できるのは10年前に書かれたこちらだからなのでございます。この本はたくさんのサイエンスエッセイの塊で、どこから読んでも良い作りでございますな。

で、そのおかげで、2009年の新型インフルエンザと公衆衛生の解説があるんでございます。で今読み返してびっくり、今2ヶ月くらいかけて、ようやくみんなが新型コロナウイルス感染症対策について了解しつつあることが、バッチリ新型インフルエンザの対応という形で書かれているんですよね。過不足なく。これをチェックするだけでも、読む価値はございます。もちろん、他のネタもたくさんありますよ。

化学が苦手な私が、化学って楽しいと思った2冊(残念ながら版元品切れ)

「チョコレートを食べても太らないってホント?」/「シュワルツ博士の『化学はこんなに面白い』」(主婦の友社、版元品切れ、ジョー・シュワルツ著)

海外には、先ほどのサイモン・シンさんのように優秀なサイエンスライターがあちこちにいるのですが、カナダの名門マギル大学の先生ジョー・シュワルツさんもその一人でございます。

日本語になっているのは上の2冊だけですが、身体と化学、つまり薬や食べ物がらみの本がたくさんあります。で、それがまだオモシロいんですよ。なぜオモシロいかというと、身近な物が歴史的エピソードでどんどん繋がっていく展開力がスゴイ。「レーダー、フラフープ、そしてブタのオモチャ」と言われればなんじゃそりゃですが、これがポリエチレンで結びつき、さらにタッパーウェアとUボートに繋がっちゃうのですよ。そんな話がわんさか入っています。

最高のネタ本で、誰かに話したくなること請け合いです。っていうか、ワタクシのシグネチャの「あっちの話題と、こっちの情報をくっつけて、おもしろくする業界の人」になろうと決心したのは、シュワルツ先生のこの本のおかげです。ただ、版元品切れなんですよね。図書館や古本でと言わざるを得ないのが辛いところでございます。っていうか、他の多数の本、どこかで翻訳出版されませんかねー。

さて、まだ何冊か横に積み上がっているので、タイトルだけでも

  • 「地球で一番過酷な地を行く」(阪急コミュニケーションズ、ニック・ミドルトン著)
  • 「フーコーの振り子」(早川書房、アミール・D・アクゼル著)
  • 「つかぬことを伺いますが…」(ハヤカワ文庫、ニュー・サイエンティスト編集部編)
  • 「大東亜科學奇譚」(ちくま文庫、荒俣宏著)
  • 「星と暮らす」(WAVE出版、田中美穂著)

いずれも、オススメでございます。