日本の大阪の化学メーカーが発明したプラスチック消しゴム。最近はスティック状のものが増えてきましたが、昔ながらの消しゴムは必ず紙ケースに包まれています。これが、もっと古いゴム製の消しゴムだとないんですな。これは、それなりの存在意義があるからなのです。今日は、日本生まれの文具革命、プラスチック消しゴムについて語っちゃいますよー。

消しゴム、みんながお世話になりましたねー。私なぞは、よく消しゴムを忘れて、ノートの間違いは鉛筆でグリグリやってごまかしていたため、ノートがヒッジョーに汚かったのですが、隣の席の子は、消しゴムを適切につかって、すごいきれいなノートをつくっていたー、なんてのが思い出でございます。消しゴム使ってないやん!

ところで、この消しゴム――業界では「字消し」というそうですが――、ほとんどの人が使っているのは、プラスチック消しゴムでございます。なにしろよく消えますからねー。で、このプラスチック消しゴムは、日本の発明品なんです。発明したのは、大阪のシードで、同社のWebサイトを読むと1955年に製品化したと書いてありますね。このシードはちょうど50年前に「Radar」というブランドのプラスチック消しゴムを発売、水色の紙ケースに入っているやつですな、現在でも同社の主力商品で、プラスチック消しゴムの代名詞になっています。

…え? プラスチック消しゴムといったら東京のトンボ鉛筆のMONOですって? むー、たしかに関東地方ではMONOのほうがRadarよりよく見かけます。マイナビニュースの企業ITの記事でもMONOが塩化ビニルのプラスチック消しゴムとして元祖と書いてますね。まあ、ある意味どっちも正しくて、Radarは発売が1968年、MONOは1969年なんですが、1967年に高級鉛筆のおまけとして配布されていたんですね。あと、Radarは関西ではMONOよりよく見かけます。

と、この辺のビミョーな話は、「きのこの山」と「たけのこの里」、「スターウォーズ」と「スタートレック」のような<危険なにおい>がするので、これくらいにして、本題でございます。

なぜプラスチック消しゴムにはケースがついているのか

プラスチック消しゴムは、プラスチックのスリーブ(スティック状のが多い)か、紙のケースに入っています。ワタクシはすぐにこのケースを無くしてしまうのですが、それはアカンやつです。この紙のケースは、プラスチック消しゴムには重要な存在、存在意義が大なのでございます。

さて、ここで、プラスチック消しゴムは何者か? どーやって、鉛筆の字を消すのか? ということをおさらいしておきましょう。じゃじゃーん。

まず、鉛筆は黒鉛の粉=グラファイトを紙にこすりつけて、字を描きます。あ、「鉛」とありますが、これは昔、鉛が入っていたと考えられていたからで、グラファイトってのは炭の一形態でございますよー。

で、この黒鉛がこすり付けられた紙から、黒鉛をはがすのが、消しゴムの役割です。これ、かつてはパンが使われていました。もちもちのパンをこすり付けると、パンに紙についた黒鉛がひっつき、はがされる=紙からパンに移る、のですねー。これ、消す力はそんなに強くないのですが、紙をあんまり痛めないので、今でも絵描きさんが使ったりするそうです(ってほんとかなー)。ちなみに消しパンという言い方もあるんですが、まあ、別にふつうのパンでございます。

さて、この消しゴム=パンに一石を投じたのが、酸素の発見者であるイギリスのプリーストリという化学者でございますな。彼は、1770年に、南米の天然ゴムのかたまりに、鉛筆の字を消す作用があることを発見します。まあ、なんとなくパンと似て、黒鉛をはがせそうですなー。これが「消しゴム」の始まりでございます。ちなみにこの天然ゴムを使った消しゴムは、鉛筆の後ろにくっついているやつなどで利用されています。で、この天然ゴムの消しゴム(ややこしー)は、紙ケースがついていないものがほとんとです。砂けしがついている消しゴムとかそうですよねー。

ちなみに、適度に消しカスがでるのも大切です。というのは、黒鉛が消しゴムに移るだけなら、消しゴムが黒くなって終わりだからでございます。消しカスが出ることで、ゴムの黒くなった部分がカスとなってはがれ、まだ黒くなっていないゴムの面を出すことになります。消しカス重要なんでございますなー。

さて、プラスチック消しゴムも字を消すのは、黒鉛をひっぺがす力が強いからです。そして、その根源は、塩化ビニル樹脂というプラスチックの一種です。これに、適当な添加物で適当な柔らかさにし、消しカスが出やすくするようにコントロールしたものが、製品となります。あ、研磨剤もふくまれていますよ。紙そのものを少し削る力も必要だからなんですねー。

ところで、この適当な添加物は、可塑剤といわれるものです。プラスチックを柔らかくするため「可塑性を高める」ための物質です。問題は、この可塑剤は、消しゴムにくっついた、ポリスチレンなどの別のプラスチックも柔らかくしてしまうことがあることなんですねー。

たとえば、プリスチレン性の筆箱や定規を消しゴムと一緒においておいたり、机のプラスチック製のトレイに消しゴムをおいておくことを考えてみてください。消しゴムと接触している部分は柔らかくなり、なかば溶けるような形で消しゴムとくっついてしまうことがあるんですね。ちなみに、これは消しカスでもおこるわけですから、消しカスもほっておいてはいけないわけです。

紙ケースは、この消しゴムとプラスチックの接触を防ぐための、簡単な手段なわけです。ということで、プラスチック消しゴムに限っては、紙ケース(か可塑剤で柔らかくならない種類のプラスチックのスリーブ)がとても大切なのだーというご紹介でございました。

さて、Radarの50周年モデルゲットして…布の袋にでも保存しておきますか。

著者プロフィール

東明六郎(しののめろくろう)
科学系キュレーター。
あっちの話題と、こっちの情報をくっつけて、おもしろくする業界の人。天文、宇宙系を主なフィールドとする。天文ニュースがあると、突然忙しくなり、生き生きする。年齢不詳で、アイドルのコンサートにも行くミーハーだが、まさかのあんな科学者とも知り合い。安く買える新書を愛し、一度本や資料を読むと、どこに何が書いてあったか覚えるのが特技。だが、細かい内容はその場で忘れる。