2018年11月に発売された「popIn Aladdin」。シーリングライト一体型のプロジェクターで、配線を張り巡らせる必要もなく、プロジェクターを天井照明として設置できる。手軽に大画面の映像を壁に映し出せる機器として注目を集め、発売以来累計販売台数が4万6,000台に到達する、ホームプロジェクターとしては大ヒット商品となった。
それからおよそ1年半の時を経て、このほど2世代目「popIn Aladdin 2」が登場した。見た目は大きく変わっていないにもかかわらず、中身は大幅にバージョンアップしており、発表直後からわずか1カ月間で先行予約台数が1万台を突破したほどの大反響を呼んでいる。
今回は、このシーリングライト一体型プロジェクターという他にはない独自の製品に、"プロダクトデザイン"の視点からスポットを当て、popIn 代表取締役社長CEOの程涛(テイ・トウ)氏に新モデルの進化のポイントと開発秘話を伺った。
究極はシーリングライトそのもの
新モデルでまずポイントとなるのは、プロジェクター、LEDシーリングライト、スピーカーの3つの主要機能のいずれもバージョンアップさせながら、本体の厚みを14%薄型化していることだ。
程氏は、本体のデザインについて以前から「どのような壁、間取り、部屋でもフィットするデザイン」を目指すと話していたが、新モデルについては改めて次のように語った。
「コンセプトは一貫しています。ベストなデザインはシーリングライトそのもの。この商品が天井にあるということを気付いてほしくありません。存在感を消したいので、それ自身がアピールするものではなく、あえて強調しないデザインを心がけています。究極的には、より本物のシーリングライトに近づけることを目指しています。今回の新モデルでは、厚み自体は通常のものと1センチぐらいしか差がないものに仕上がりました」
冒頭のとおり、既に4万台以上を出荷している初代モデルだが、ユーザーからは期待感も含めて、毎日のように細かな不満点や要望が寄せられるという。「製品の方向性というのは十分に理解しています。あとは、細かい仕様の部分をどのように作っていくかが次なる課題でした」と程氏。
中でもいちばん多い要望は"画面サイズ"だ。天井にシーリングとして取り付けるpopIn Aladdinは、本体の設置位置を自由に調節できないため、投写サイズはプロジェクターのレンズから壁までの距離に左右される。例えば、従来モデルでは100インチで投写するためには壁までの距離が2.82メートルが必要だった。しかし、新モデルでは同じ距離で2.8倍の投写サイズを実現し、壁までの距離が1.78mの間取りで100インチの画面の投写ができるまでに向上した。
設置方法ならではの課題に、レンズを独自開発
一方、もう1つの課題として、画面の位置調整の自由度が挙げられた。従来から、映像の四隅の位置を個別に設定可能な台形補正機能を搭載していたものの、実際の間取りでは、天井の梁や、ドアやクローゼットなどの配置が邪魔をして、壁一面を十分に活かし切れないというケースも少なくないことがわかり、「日本の住宅事情を考えると、そうした障害物があることを前提に設計しなければならないと考えました」と程氏。
そこで、社内で全社員の自宅の間取りを調査して、図面を研究した結果、4畳の部屋の場合でレンズから壁までの距離は0.8メートルが標準的だと判明したという。この条件からまずは"4畳で60インチを写せる"という仕様を設定し、さらに見やすい位置まで調整する上下の範囲として"260センチまで下げられる"を目安に決めたという。
とはいえ、この仕様をクリアーにするためには、市場にある汎用性のあるレンズでは難しく、「専用の単焦点レンズを独自で新しく開発するに至りました」と話す。
「ニーズも少ないので、全部がぴったり当てはまるレンズは存在しませんでした。そもそも上下の距離を調整するレンズ自体が存在しないんです。そこで、国内外のメーカー3社に同時に打診して、最終的にはそのうち1社の専業メーカーにお願いして、オリジナルを開発しました」
しかし、何十年もの歴史と実績のある専業メーカーに依頼したにもかかわらず、専用レンズの開発は苦難の連続だったという。「角度の部分が一番苦労しましたね。どの角度から投写してもキレイに拡大できるようにするため、微妙な調整が必要なのですが、内部は10個のレンズが連続的に並んでいます。そのため、たとえ計算のとおりに調整をしても、それぞれがちょっとずつ違ってたりすると解像度が落ちてしまったりと、微妙な誤差が出てしまって」
さらに、製造過程の最終段階に入ってからは、新型コロナウイルス感染症流行による打撃も受けた。「レンズは日本で生産して、中国の工場に送って組み立てているのですが、生産ラインで最後の調整をする段階になって、新型コロナの影響でスタッフの渡航が難しくなり、リアルでのやりとりが難しくなりました。オンラインで遠隔でのやりとりももちろんしてはいるのですが、光学機器であるレンズの場合、電子部品とは違い、ファジーな部分も結構多く、計算上は合っているはずでも、うまくいかないということがあったりします。本来は、それを直接現場で見ながら検証して、生産ラインで解消するということをやっているのですが、それができない時期があり、実は製造が大幅に遅れてしまいました」
ちなみに、プロジェクターの解像度も変更になっている。初代モデルの1280×720ドットの720pから、popIn Aladdin 2では1,920×1,080pのフルHDに画質自体も向上し、より高精細に映像を表示できるように進化している。
従来よりも14%の薄型化を実現できた要因には、実は独自開発の単焦点レンズが大きく寄与しているという。「初代モデルでは、レンズそのものが動く仕組みだったので本体の中に空間が必要でした。それに対し、新しいレンズはサイズ自体は大きくなっていますが、内側で動く仕組みになったために、ユニット自体が前後に動く範囲が狭くなり、必然的に本体が薄くなりました」と明かす。
プロジェクターだけでなく、照明としても進化
LEDシーリングライトとしての機能も兼務するpopIn Aladdinだが、新製品ではこの機能も強化されている。調光6段階、調色6段階まで設定可能だった従来モデルに対して、新モデルではそれぞれ100通りの合計1万通りにまで広がった。
「シーリングライトに対する不満も多かったのは、正直私としては意外でしたが、そもそも日本の市場のシーリングライト自体が優れているので、求められるレベルが高かったんです」
そこで、初代モデルでの改善点を追求した結果、「初代モデルの部品はほとんど使っていません。ほぼ一から設計、作り直しました」と程氏。具体的には、「LEDの上に拡散レンズを設け、2020年1月の発売から適用される新しい省エネ基準に合わせた仕様に、電源ユニットや赤外線も見直して再設計しました」と話す。
その他、細かい部分ではカバーもこだわって改良されている。「初代モデルはカバーが分厚かったのですが、高価格帯のシーリングライトで採用されている薄型の拡散レンズを採用することでカバー自体の厚さも薄くすることができました。ただし、薄いカバーだと(経年で)変色してしまいますので、これまでと違う素材に変えています。筐体そのものの素材はほとんど変えていないのですが、細かい部分で少しずつ改良を加えています」
popIn Aladdinは、本体のレンズ側とは反対の面にハーマンカードン製のスピーカーを2基備えている。本体からの音だけでなく、ブルートゥーススピーカーとして外部接続にも対応する。
新モデルでは、スピーカーが左右2つに分けられ、両側に設置されている。これにより、音声の出力は従来の5W+5Wから8W+8Wへとパワーアップして、よりサラウンド感が増した音が楽しめるようになった。「スピーカーに対する不満はそれほど多くはありませんでした」と言うが、「低音部分の迫力がもう少しあるといいなと思い、正式パートナーであるハーマンカードンさんにお願いしてチューニングしました」と程氏。
ソフトウェアの会社として、未来の"体験"を探る
新モデルの進化について「iPhone 3から4に変わったぐらいにバージョンアップした」と話す程氏だが、「我々はハードウェアの会社ではない」と強調する。
「我々、popInはもともとソフトウェアの会社ですので、ハードウェア自体にこだわるということではありません。ハードウェアに対してはいい意味で常識がないと言ってもいいかもしれないですね。この先もモジュールの進化によって製品はどんどん進化していくと思います。将来的には見た目は今のシーリングライトそのままというものができるのではないかと思っています。DLPというプロジェクターの投影技術がどんどん小型化されてきているので、現在の1/3程度の5センチぐらいの厚さのものを大手のメーカーさんであれば、あと1年もかからずにできてしまうと思っています。しかし、弊社としてはまずは普及させることが大前提ですから、今回も10万円以下という価格をどうしても実現したいと考えていました。コストパフォーマンスも非常に大切にしているんです」
このように"未来の壁"を追求する、popIn Aladdin。最後に、今後の方向性について次のように語ってくれた。
「先ほども述べたとおり、我々はソフトウェアの会社ですので、大切なのはハードよりも"体験"の部分です。popIn Aladdin自体は、生活空間に新たな可能性を生み出す"未来の壁"を実現するための装置にすぎません。今後の方向性としては、そこに提供していくコンテンツなり、価値のある情報なり、スマホの小さな画面とは違い、等身大の情報を提供できる大画面を通して価値を最大化できる情報の表現であったり、相性のいいコンテンツといったものを、これからもさらに模索して、提供していきたいと思っています。海外からの需要ももちろんありますが、まずは日本でうまく成功させることが第一と考えています」