2015年に発売されて以来、100万台を超える大ヒットとなったバルミューダのトースター「BALMUDA The Toaster」。発売から5年を経た2020年秋、リニューアル版の新製品が発売された。

意外にも、バルミューダのトースターが大きなリニューアルを行うのはこれが初めて。

既にロングセラーと言うべき製品を刷新して発売するに至ったのはなぜだろうか。旧製品との違いや開発・製造過程における苦労話やエピソードなどを、2人の担当者に伺った。

海外向けの仕様変更がリニューアルを後押し

  • 2015年の初代モデルの発売から5年を経て、リニューアル版が2020年秋に登場した「BALMUDA The Toaster」。従来のブラック、ホワイトの他、新色のベージュも加わった

    2015年の初代モデルの発売から5年を経て、リニューアル版が2020年秋に登場した「BALMUDA The Toaster」。従来のブラック、ホワイトの他、新色のベージュも加わった

過去のインタビューなどでも、「完全な製品として完成度の高いものを届ける」ことがモットーと表明していたバルミューダ。トースターをこのタイミングでリニューアルするに至った経緯を、バルミューダ マーケティング部 プロダクトマーケティングチームの佐藤史織氏は次のように語る。

「実は製品を発売したあとも、開発をずっと続けているんです。特に、海外で製品を展開するにあたっては、仕様を海外向けに合わせる必要があります。現地の規格や食習慣に合わせて新しい仕様を入れたり、従来の仕様を外したりと改変を行っているのですが、そうした中で、販売中の日本向け製品も、現段階で最善の状態のものに更新したいとの思いは持ち続けていました。そこで今回、ちょうど発売から5年経ったタイミングで、リニューアル製品の発表に踏み切ることになりました」

  • 従来モデル(左)と新モデル(右)。デザインは大きく変えずに、細かい部分で使い勝手を向上させた

    従来モデル(左)と新モデル(右)。デザインは大きく変えずに、細かい部分で使い勝手を向上させた

外観上もっともわかりやすい変更点として、タイマーを設定するダイヤル式の操作部が挙げられる。以前のモデルではダイヤルを回すと同時に電源が入ったが、リニューアル後はダイヤル部分中央のボタンでオン・オフを操作する仕様に変わった。

「2020年4月からアメリカ市場に参入したのですが、日本以上に安全性の認証が厳しいため、ダイヤル部分に電源ボタンを設置しないと発売できませんでした。電源基板を大きく変える必要があり、技術的にも難しい変更だったのですが、変えないことには発売ができないので、取り組まざるを得なかったんです」と佐藤氏は明かす。結果として、より安全に使える製品として、日本向けの製品にも採用される格好になった。

  • 従来はタイマーと電源を兼ねていたダイヤル部分に、電源ボタンが加わっている

    従来はタイマーと電源を兼ねていたダイヤル部分に、電源ボタンが加わっている

細かな変更で使い勝手や質感を向上

それ以外は、新旧並べて詳細に比較しなければ気付かない変更や微調整が多い。

例えば、庫内をのぞく窓の部分は「枠の付け方や角度が微妙に変わって、より奥行きを感じるデザインとなっています。他にもハンドル部分の幅を少し広げていたり、脚を太くして滑り止めを設けたり、バランスを再調整して全体的な質感の向上を目指しました」とのことだ。

  • 扉を開閉するハンドル部分は、従来モデル(左)に比べ、新製品(右)はわずかに幅が広くなった。水を入れる給水口のカバーは小さくなっている

  • ボイラーカバーの仕様も変更。新モデル(右)は旧モデル(左)よりも大きい。全体を覆う形状になり、外れにくくなった

焼き網とボイラーカバーといった、使用時にユーザーがセットするパーツも、わかりやすい形状や取り付け方法、お手入れのしやすさに配慮した機構・設計に改良されている。

「前のモデルでは、焼き網を開けたときに扉のバネ部分に引っ掛ける仕様だったのですが、引っ掛けるのを忘れて使用している方がいらっしゃって、問い合わせがくることもありました。そこで、焼き網はそのまま上に載せるだけの、間違いにくい設置方法に改良しています。同じように、ボイラーカバーも間違えてセットしている人がいました。設置ミスが起こるとパンの焼き上がりにも影響が出てしまいます。日々使う道具であり、お手入れのしやすさにつながる大事な部分なので、直観的でわかりやすくセットしやすい形状に変更しました」

  • 従来モデル(左)では、焼き網をフックに引っ掛けて固定する方式だったが、新モデル(右)ではフックで固定されたフレームに焼き網を載せる様式に改良された

どんな条件でも「おいしい」トーストのために

しかし、バルミューダがゴールにしているのは、他の製品と同様、あくまでも体験。つまり、トースターであれば“味”の部分であるという。もちろん、それにも改良が施されている。

開発を担当した、バルミューダ 商品設計部 ソフトウェア設計チームの御代出裕之氏によると、パンの焼き上がりに関わる温度制御部分も変更し、おいしさの向上を実現したとのこと。

「焼きの性能は現状も満足いただいていると思うのですが、電圧100V定格の仕様で、家庭によって焼き上がりに差が出ます。パンを決められた時間ずっと焼き続けるのが一般的なトースターですが、バルミューダのトースト方法は、パン本来の香りと味を閉じ込める温めと、さくっとした食感をかなえる焼き、この2つの工程があります。実験を重ねた結果、温めの工程を±10%のいかなる電圧であっても同じコンディションにすることが大事で、温め工程のコンディションさえそろえば、焼き工程は同じでよいという結論にたどり着きました」

一度に焼く枚数や条件が違うときでも同じ仕上がりになるよう、リニューアル時に機能を追加した。

「トーストは1枚焼きが基本になっているのですが、一度に2枚焼くと味が若干変わるとの声もあり、1枚焼きと同じ仕上がりに近づける工夫をしています。また、連続で焼くと仕上がりにムラが出るとの指摘もあり、庫内の温度が高くなった状態でスタートする連続焼きの場合でも同じ焼き加減に近づけるよう、ヒーターの温度を制御する機能を追加しました」(御代出氏)

佐藤氏は「庫内の形状が(リニューアルで)少し変わったことから、焼きの工程もすべて見直す必要がありました。ですが、あくまで“感動のおいしさを実現するトースター”として、目指す体験は同じ。なので、すべて一から調整し直しました」と補足する。

御代出氏によると、特に難しいのが、トーストの裏面のバランスだという。

「裏面の焼き色が薄く、焼けた感じに見えないとの声もありましたので、従来よりも裏面のラインが付きやすく、焼き色を濃くしています。ただ、裏面を強く焼いてしまうと水分が飛んでしまい、もっちりとしたトーストの食感が損なわれますので、焼き色とトースト感の両立を目指してチューニングしました。実は今回、本体の材質のメーカーを変更していて、金属の素材としては同じものでも、熱の反射率が明らかによくなったため、焼き方にブレーキをかける方向で調整しています。このように、お客様からの声を生かした経験の積み上げで改善できたので、リニューアルの意味は十分に果たしていると思います」

  • 焼き色比較。新モデル(右)は裏面までしっかりと焼き色が付くようになった

    焼き色比較。新モデル(右)は裏面までしっかりと焼き色が付くようになった

発売から5年を経てリニューアルに踏み切ったBALMUDA The Toaster。前編ではその意図や経緯とおもな変更点について伺った。次回後編では、美味しさを求めて試行錯誤が繰り返された、制御のチューニングと評価試験についてのエピソードを紹介したい。