たとえば、テーブルの上に飾られた一輪の花のように、世代を越えて受け継がれてきたレザーソファのように、その空間で静かに存在感を放っているものがある。必要不可欠ではないかもしれないけれども、それがないと味気ないというか、ぽっかりと穴が開いてしまうというか……。漆黒のオーディオユニット「JBL MX100」は、そのような類のプロダクトだ。
電源をOFFにしているとき、ボディに映るのは、「JBL」のロゴマークと時を告げる表示だけ。その分、そのグランドピアノのような艶のあるボディが際立つ。操作ボタンは、ボディの右端に縦に並び、シンプルなピクトグラムで直感的に操作ができるように工夫されている。音を聴かせることを至上命題とするオーディオに、無駄なデザインは必要ないということか。そのディテールに至るまでのデザインのこだわりに、20世紀を代表する建築家、ミース・ファン・デル・ローエが残したという「神は細部に宿る」という言葉を思い出す……。
そのミニマムなデザインのオーディオを手がけたのは、JBLの個性的な近代のスピーカーシステムの意匠を数多く手がけてきた、ダニエル・アシュクラフト。フロアスタンディング型のスピーカー「EVEREST DD66000」で、2006年のグッドデザイン賞をはじめ多数の賞を受賞したダニエル・アシュクラフトが、今度は「MX100」において、JBLのグッドデザインと本格的なサウンドを身近な存在にしてくれたのだ。
電源のスイッチを入れてみる。すると、音が鳴り響き始めた瞬間から、そのフォルムとしての存在感は消え、流れ出る音が空間を豊潤に満たしはじめる。MX100は、CDプレイヤー、FMラジオ、そしてiPodドックを搭載するため、いつも肌身離さず聴いている音楽をすぐに楽しむことができる。街の雑踏の中で聴いているのと同じ曲が、まったく違う曲のように聴こえてくるはずだ。
最後に、JBLというブランドについて説明を加えておきたい。JBLは、「もっと美しい家庭用スピーカーをつくりたい」という思いから、天才エンジニアと謳われたジェームス・B・ランシングが1946年に設立したアメリカのスピーカーブランド。ちなみに、JBLの名前は、彼のイニシャルに由来している。天才の遺志は、現在までJBLのエンジニアたちに受け継がれ、彼らが開発するオーディオ、スピーカーから紡ぎだされるサウンドは、世界中の映画館やコンサートホールで聴衆を魅了し、世界中の音のプロフェッショナルからリスペクトされている。
そして、MX100の登場により、そのサウンドが気軽にプライベートスペースで再現される日がやってきたのだ。
Daniel Ashcraft(ダニエル・アシュクラフト)
インダストリアル・デザイナー。アシュクラフトデザイン主宰。JBLでは、「MX100」のほか、ハイエンドスピーカー「EVEREST DD66000」(写真)、「K2」シリーズ、コンパクトスピーカー「CONTROL」シリーズなどを手がけている。機能を優先しながらも、曲線を取り入れることで、無機質になりすぎず、空間に圧迫感を与えないデザインが特徴。JBL以外にも、精密機器メーカーMaxtor、スキー用品のWALK-EZ、日本の三菱電機など、世界中の幅広い分野の企業をクライアントに持つ
撮影協力:A.K Labo