IFA。この展示会が開催されるドイツ・ベルリンの空に秋の気配を感じ、取材を終えてそのまま東京に戻るとまだ猛暑でガッカリというのが例年のパターンだ。

IFAはテクノロジーの展示会というわけではなく、もっとコンシューマー寄りの最終製品を幅広くカバーする展示会だ。クルマから冷蔵庫、掃除機、洗濯機に至るまで広く各社が訴求する。さらには、IFAに併せてプラベートイベントを開催するベンダーもあり、すべてを俯瞰するのは難しい。いわばつまみ食いしかできないイベントだ。

そして、今年のIFAは、どうだったかというと、個人的には「発展的解消」がキーワードだったのではないかと思う。

踊り場から生まれ出ていくもの

「Xperia XZ」の"プラチナ"カラー

ここ数年、熱病に浮かされたかのようにスマートフォンが注目されてきたのだが、そこにひとつの契機が訪れている。かつてのパソコンがたどってきた道を、よせばいいのに、寄り道も失敗も成功も全部なぞってきたのがスマートフォンだ。でも、ここにきて、ちょっとした転機を迎えようとしている。それがスマホの踊り場といわれる所以だ。

今回のIFAで、ソニーモバイルは、Xperiaシリーズのハイエンドとして、Xperia XZを発表した。その戦略の善し悪しはともかく、進化のポイントとなるキーワードは、カメラ、アシスト、デザインの3点だとソニーはいう。

もう通信機の訴求というより、カメラ製品の訴求かと思えるくらいにカメラに注力していることがわかる。ソニーはカメラ製品のベンダーとしても高く評価されているが、同社によれば、スマホのカメラとコンパクトデジカメは別物なのだそうだ。スマホで写真を撮るユーザーは、とにかくコミュニケーション最優先で撮るが、カメラ専用機で写真を撮るユーザーは、それぞれ目的が異なるという。

スマホのカメラがここまで進化すれば、コンパクトカメラはいらないんじゃないかという議論もあるが、そうじゃないというのがソニーの考え方だ。しかも、スマホはズームがないぶん一点集中型で、その単焦点の絵作りに特化して昇華できるところにアイデンティティを持っているともいう。

耳の中の特等席、誰がキープする?

スマホとしてのXperiaを固める一方、ソニーは2月のMWC(Mobile World Congress、携帯電話関連の展示会)でチラ見せされていた「スマートプロダクト」と呼ばれる一連の製品群を、具体的な製品としてお披露目した。

スマートフォンは汎用的なコンピュータだ。さまざまなセンサーを搭載し、さまざまなアプリからそれを制御し、さまざまな方法でのアウトプット、インプットをまかないながら使われてきたのがスマートフォンだ。ソニーのスマートプロダクトは、その流れの中で培われてきたさまざまなテクノロジーを、いったん切り刻み、別のかたちの専用機として提案してみようというチャレンジだ。

たとえば、プロジェクター。テーブルの上に置いて背中の壁や、テーブル表面にGUIを投影し、それを指でさわって操作ができる。これはスマートフォンの形をしてはいないが、中味はXperiaそのものだ。

あるいは、Xperia Earは、スマホ本体と人間を会話でつなぐ。いつも耳につけておいて、用事があるときに耳に手をやってチョンとボタンを押すと、音声で何をしてほしいかをスマホに伝えることができ、その結果も音声で再生される。スマホのロックを解除して、アプリを開いて、メッセージ等をチェックするといったことを、音声だけで完結させる試みだ。

今はまだスマホとしてのXperiaの周辺機器の形をしているが、おそらくこれは、将来、独立した通信機として耳の中の特等席をキープしようともくろんでいるのは間違いない。

Xperia Earは、スマホ本体と人間をつなぐイヤホン型のウェアラブル機器だ

IoTは多様的に進化していく

こうして汎用機としてのスマホは次第に、個々の要素を専用機に譲り渡すフェイズに入ろうとしている。

もしかしたら、個人のためのIoTというのは、こういう形で浸透していくんじゃないかとも感じている。ウェアラブル、VR、AR、ロボットといったキーワードは、派手ではあるが、それぞれの要素技術は汎用的な道具としてのパソコンやスマホで培われてきたものだ。それが形を変えて再訴求されているにすぎないともいえる。もちろんスマホがなくなるわけではないのはいうまでもない。

「発展的解消」というのは悪いことじゃない。何かが他者を押しのけ一目散に前に進むのではなく、分かれ道で決断してそれぞれの道を行く。どこにも突き当たりがないのなら、そのほうが人類の未来は明るくなりそうだ。

(山田祥平 http://twitter.com/syohei/ @syohei)