Microsoftが新しいBingを発表した

AI搭載の検索エンジンで、OpenAIが使われていて、AIとの会話の中で、知りたいことを深掘りしていけるという触れ込みだ。現時点で利用をスタートするには、Microsoftアカウントを登録し、順番待ちの列に並び、登録されるのを待つ必要がある。

招待の順番がきて利用できるようになると、そのことを伝えるメールが届く。パソコンからの場合、Windows標準ブラウザのMicrosoft Edgeを開き、チャットのページを開くことで、トレンドの会話UXでの検索体験をスタートできる。

特に、新しいEdgeのベータ版などを導入する必要はなく、Windows 11で使える通常のEdgeでbingのページを開けばそれでよかった。ただし、Chromeではうまく機能しない。

  • 新しいBingは、OpenAIによる対話型AI「ChatGPT」の技術を統合している。画像はBingではなく、ChatGPTに「マイナビニュース」の概要を尋ねたもの

    新しいBingは、OpenAIによる対話型AI「ChatGPT」の技術を統合している。採用した次世代大規模言語モデルは現在のChatGPTで使われているものより高速かつ高精度で、Bing向けに最適化されているという。画像はBingではなく、ChatGPTに「マイナビニュース」の概要を尋ねたもの

近い将来、仕事を取って代わられる?

職業ライターとして新しいBingを使ってみての感想としては、このAIに負けないような作文ができなければ、近い将来、仕事を取って代わられるなという気持ちを持った。

クルマが馬車にとって代わった時代ではないので、猛反対をして阻止しようというふうにはならないが、自動運転車が街中を走行しているのを目の当たりにして、職業で運転をしているドライバーが危機感的なものを感じるようなイメージだろうか。逆に、優れた寿司職人は寿司ロボットの浸透を怖がらないという風にも考えられる。

職業ライターとして、何らかの発注を受け、その成果物を納品する場合、原稿を書き始めるまでには、一定のプロセスを経る。あらゆる対象を想定したコミュニケーションの中で、たとえば、書くことの対象について検索して調べ、さらに、その対象の当事者や、現場があれば現地に赴き、ものであれば入手し、関係者にも会って話を聞く。

ありとあらゆる情報を集め、それをまとめる。バーチャル世界はもちろん、モノ、コト、ヒトなどのリアルを通じて、限られた時間の中で、少しでも多くのデータを収集したところで、執筆に取りかかり、執筆途中でも、不足した情報を追加で集め、自分の内面に発生した新事実や解釈を加えて文章に仕立て上げる。

このプロセスを繰り返して何十年も売文してきたわけだが、新しいBingには、そのプロセスと似たようなロジックが検索体験の背景に見え隠れしている。

AIが自分で取材する未来は遠くない

新しいBingは検索し、そこに並ぶ結果から、有用で必要な情報を取捨選択し、ユーザーが要求するスタイルの文章にして提示する。ただし、こちらが発注主で、Bingは売文家だ。まさに職業売文家だ。別の言い方をすると、検索エンジンとエンドユーザーの間に立つエージェント、通訳のようなものでもある。

さすがに識者とコミュニケーションしてコメントをもらったり、より深い見識による新しい事実を創出するわけではない。インターネットで得られる根拠のあることしか教えてくれない。つまり、新たな創造はない。もとになっているのは、すでに、世の中に公表されていて、検索の工夫があれば得られる情報だけだ。

だから、瞬時というほどスピーディなわけでもないが、十数秒の単位で即座に結果が得られる。そのうちこの時間は数秒のオーダーに高速化するだろう。

その結果は、誤解を怖れずにいえば、盗作のようなものであり、引用のカタマリのようなものであったり、あちこちの知識の寄せ集め、寄せ鍋的なものだったりする。ポータル、まとめサイト、キュレーションなど、数々の過去のインターネットトレンドともコンセプトは似ている。

でも、AIが自分で取材し、誰も知らなかった新たな情報を手に入れられるようになるまで、そう長い時間はかからないだろう。

もっとも、そのころは取材される側もAIを設置しているにちがいない。識者所有のAIが、識者の知識を元に検索AIの取材に応える。コメント料の支払いも瞬時の決済で完結する世界がそこまできている。

逆の言い方をすると、箇条書きにすれば数十秒で理解できることがらを、数分以上の動画にすることの付加価値にも似ている。今は文章が結果になっているが、動画が結果になって生成されることだって想定済みに違いない。

正しい事実と誤った事実は人間側が見抜く

新しいBingは、質問することで回答が生成されるほか、追加の質問例まで生成する。たとえば、カービングスキーのことを尋ねると、その練習方法、メリットとデメリット、歴史といった要素を尋ねたらどうかといった提案がある。

  • 新しいBingに、カービングスキーのコツを尋ねた結果。カービングスキーの概要やコツの説明のほか、練習方法やメリット・デメリットなども聞いてはどうかと提案された

何を聞けばいいのかわからなくても、クリックを続ければ、一通りの知識が得られる。また、回答にはその見解を得た根拠へのリンクが設定されていて、深掘りしたい場合には、そこを参照すればいい。

もちろんウソも混じっている。根拠リンクを開いて、そこにある事実が反映されていないことも少なくない。それを見抜き、指摘すると言い訳をしながらあやまる。正しい事実を探し出すことも、今は人間の仕事だが、この先はどうなることやら。

検索エンジン相手のコミュニケーション力が問われる

これらのことは、われわれが、何十年もの間、自分で検索エンジンと対峙してやってきたことばかりだから、機械ができるからといって決して驚くべきことではないし、いつかは機械に取って代わられるとは思っていた。

人間がどうしても求められるのは、きっとこの先の領域なのだろう。それはいったい何なのかを、当面は真剣に考える必要がありそうだ。「だ、である調」の文章を「です、ます調」にリライトさせ、ほぼカンペキなその結果を読んで、そのことを痛感した。

検索では、知りたいことをどのくらい丁寧に検索エンジンに伝えるかによって得られる結果が大きく異なる。

今回のAI化Bingは、検索結果のみならず、検索時にエンジンに対して伝えられる内容がリッチになったということでもある。人間による饒舌な自然語を入力し、それをちゃんと解釈してくれる。だが、多くの人間が、検索エンジン相手のコミュニケーションに、そこまで長けているかという懸念もある。