AfterShokzからShokz(ショックス)へとブランド名を変え、骨伝導イヤホンのフラグシップモデルが刷新され、OpenRun PROがデビューした。これまでのハイエンドであるAEROPEXの正統派後継モデルだ。

  • ShokzのOpenRun PRO。1月10日からクラウドファンディングサイト「GREEN FUNDING」でプロジェクトを開始した

    ShokzのOpenRun PRO。1月10日からクラウドファンディングサイト「GREEN FUNDING」でプロジェクトを開始した

長時間使用でも耳穴への負担がなく、そして、環境音も阻止しない骨伝導イヤホンは、在宅勤務やテレワークなどでのオンラインミーティングに最適だ。

丸一日ずっとつけっぱなしでも耳への負担がほとんどなく、装着中に玄関ベルが鳴ったり、固定電話が着信しても、家族から声をかけられてもすぐに気がつける。聞きたい音に集中しつつ、必要な環境音もちゃんと聞こえる骨伝導イヤホンの魅力を、コロナ禍がより鮮明にあぶり出したともいえる。

音楽を身にまとえる骨伝導イヤホン

OpenRun Proは急速充電に対応し、バッテリ駆動時間も8時間から10時間へと伸びた。重さは3グラム重い29グラムになったが2割の小型化を果たしている。にもかかわらず従来比で3割大きなサイズのボタンを確保して、操作性を高めている。

だが、なんといってもこれまでと一線を画するのが、そのオーディオ特性だ。既存製品は、骨伝導イヤホンということで会議などの音声通話にはむしろ好ましいともいえる中高域に配慮した音質が確保されているわけだが、音楽を楽しむ、映画などのコンテンツを楽しむという点では、どうしても一般的なオーディオ用イヤホンとは異なり、特に、低音域のリッチさに欠けていた。同価格帯のカナル型オーディオ用イヤホンとのサウンドの違いは明確だ。

OpenRun Proでは、この部分に注力し、低音域の再生品位を向上させたという。実際に試聴してみても、はっきりと違いがわかる。それでいて音漏れは最小限でほぼ気にならない。

もちろん、カナル型のオーディオ用高級イヤホンと同等とまではいかないが、丸一日、それなりの音質のBGMを身にまとっていてもいいと思えるくらいの良好な音質は確保できている。

耳を塞ぐイヤホンでは、音楽に浸かることはできても、身にまとうという感覚は得られないだろう。ブランド名の刷新と同時に、骨伝導イヤホンというカテゴリーのイメージも刷新した魅力的な新製品だといえる。

耳を塞いで得られるもの、塞がないで得られるもの

実は、骨伝導イヤホンというのは、今後のメタバース空間にとっても重要な役割を果たすテクノロジーだ。

現実空間と仮想空間を重ね合わせた複合的な空間は、ミクストリアリティ(MR)と呼ばれるが、骨伝導イヤホンは、サウンドのMRをかなえる。現実の環境音の中に仮想的なサウンドを重ねて、別の世界観を具体化できるのだ。

今、アクティブノイズキャンセルイヤホンは、環境音をマイクで拾い、再生音と重ね合わせることでリアルとバーチャルを複合したサウンドを作り出すことができる。だから話し相手の声が聞こえ、コンビニのレジでもイヤホンを外さず会話ができる。

骨伝導イヤホンは、それとは対極にある存在だ。現実音は現実のままで、そこにバーチャル音を重ね合わせる。仮想空間を抜け出す操作は必要ない。

これからの世の中がイマーシブではない、リアルとバーチャルを重ね合わせたハイブリッドなユーザー体験を求めているからこそ、こうした技術が注目されるのだろう。耳を塞ぐことで得られるものと、塞がないで得られるものを両方とも確保しておきたいという要求だ。今のところ骨伝導の技術はそのための最良の方法だといえる。

現実を拡張する「聴くためのメガネ」

言ってみれば、OpenRun Proは、聴くためのメガネだといえる。装着方法も、頭の後ろからメガネをかけるイメージだ。

メガネは遠くを見たいから、くっきりと見たいから、まぶしさを抑えたいから、近くを鮮明に見たいからと目的に応じた度数や色のものを選ぶ。同様に、骨伝導の技術はリアルな環境音をさえぎることなく、仮想サウンドを最適な状態で重ね合わせることができる。つまり、そこにあるのは現実の拡張だ。

Shokzの製品群で唯一不満に感じるのは、その構造上、頭の後ろをチタンのバンドが横切ることだ。同社ではネックバンドと呼んでいるが、実際にはヘッドバンドといったほうがいい。首より上、つまり、後頭部を横切る。

背の高いイスやヘッドレストに頭を預けると、このバンドが邪魔に感じる。うまく位置を調整しようにも限界がある。頭上にバンドを配置すると骨伝導がうまくいかない。

また、仰向けに寝っ転がろうとしても邪魔になる。かといって、このバンドをケーブルにすると、きっとタッチノイズが盛大に発生するのだろう。左右分離の完全ワイヤレスにすることができればとも思うが、それでも耳を下にすると邪魔になるし、分離型は分離型で管理も煩雑だ。

バンドでつながっているほうが扱いがラクな面も少なくない。そのあたりの使い勝手については、メーカー側もとっくに把握しているにちがいない。その違和感をどう排除していくかは、次の世代の製品に委ねたい。

リアルを完全にシャットアウトしてバーチャルへの没入を誘うアクティブノイズキャンセルイヤホンと、リアルとバーチャルの共存を目指す骨伝導イヤホン。どちらも今の世の中が求めているサウンド体験だ。

こうして無理難題が少しずつ解決していく。同じ空間にいる仲間が、それぞれ別の音楽を聴きながらも会話を楽しんでいる。そういう世界観だ。今回のOpenRun Proはその世界にまた近づいた。こうした製品の進化を目の当たりにすると、この時代を生きることができていて本当によかったと思う。