• Ankerのポータブル電源「Anker PowerHouse II 800」。216,000mAhという大容量バッテリーを搭載する。2月24日に発売されたばかりの製品だ

震災から10年、3月11日がやってくる

また3月11日がやってくる。2011年の東日本大震災があった日だ。当時、この地震が発生した14時46分頃、新宿駅周辺の量販店で買い物をして、店の外に出た直後だった。歩こうと足を踏み出したのに頭の中で想定している位置に足を下ろせなかった感覚をはっきりと覚えている。まるで特撮映画のシーンのようにあたりが大騒ぎになって、道路の中央分離帯に人が群がっていた。

もちろんスマートフォンは携帯していた。LTEのサービスは始まっていたが、手元の端末は3Gにしか対応していなかった。自宅に電話をしようにも、通話については輻輳(ふくそう)してつながらなかったが、データ通信は通常通りで、IP電話は使えたし、TwitterなどのSNSも、そのタイムラインの流れる速さ以外は平常通りで、情報収集に役立った。

新宿駅をターミナルとする私鉄が、当面は動きそうもないことをTwitterで知り、駅に行って確かめることもなく、家に向かって歩き出した。よく晴れた日の午後だった。記録を見るとその頃の気温は摂氏10度ちょっと。歩くにつれて汗ばんでいく。その日の買い物は、新型のコンパクトカメラだったのに、自宅にたどり着くまでパッケージを解いてこの惨事を撮影しておこうなどとは思いもしなかった……。

地震から数カ月はけっこう不安な日を過ごした。東京では計画停電も予定されていたが、幸い、自宅が停電することはなかった。計画停電は予告されるので、停電することがわかっている。だから対処は可能だ。それでも必要な電力が得られないことで不安になるのは当然で、まして突然の停電、そしていつまで停電が続くのかがわからないことがどれほど怖いものか。

ポータブル電源を防災グッズに追加

あれから10年が過ぎた。その10年目を節目に防災グッズとしてポータブル電源を追加で確保しておくことにした。コロナ禍は避けようもなく、一人一人が注意して生活を続けることと、科学の力を信じることで収束を迎えることができるはずだが、天災はそうはいかない。防災とはいっても防ぐのは無理なのだ。常に、万全の対策をしておいて被害を最小限に抑えられるようにしなければならない。そのためにも正確でスピーディな情報収集は必須の要件であり、情報通信機器には電力が必要だ。

個人的にポータブル電源を検討するにあたって想定したのは次の点だ。

  • 本体への充電を専用ACアダプタ以外でできること

……非常時に専用アダプタ以外の汎用電源が充電に使えることは大事

  • できればUSB PDで、Type-C ポートを使って充電できること

……スマホやパソコンといっしょに常に持ち歩いている汎用アダプタと汎用ケーブルで充電ができる

  • 複数のUSB PD電源を確保できること

……日常的に使うほとんどのデバイスはUSB PD対応だから必須。

  • 照明機能があること

……本体にLEDランプがあれば灯りを確保できる。

  • 充電しながら使えること

……電力インフラが通じているときには接続したままで充電を継続できること。バッテリーの劣化が心配だが非常時にはそんなことはいっていられない。電力を確保できるときに満充電を維持して電力断に備える。

  • 重さは気にしない

……非常時にクルマなどは使えない。他の荷物を考えると5キロでも持ち出しは難しい。だったら容量の大きなものを自宅据置前提で考える。

こうした条件に合致する製品として、発売されたばかりのAnker PowerHouse II 800が目に留まった。容量は778Whで重量は8.3キロだ。同梱の専用ACアダプターは120Wのもので、丸型プラグで本体に接続して充電する。Type-Cポートからの充電もサポートされ、専用アダプタと60W対応のUSB Type-C PD×2の3ポートからの同時充電で、最短5時間で満充電にできる。

  • Anker PowerHouse II 800の前面インタフェース。Type-Cポートからの充電に対応し、専用アダプタから同時充電できるのも魅力

充電できるものは? 意外と液晶テレビもまかなえる

最近のパソコンは50Wh程度のバッテリを内蔵し、5~10時間程度の実使用が可能だ。778Whはその15倍あるので、10回は充電できると思っていていい。ほぼ10日分の電力備蓄になる。それに比べればスマホのバッテリなど誤差の範囲で充電には困らないだろう。

火力についてはカセットコンロがある。日常的にないと困るAC電源を必要とする機器としては、エアコンや冷蔵庫、洗濯機などがあるが、これらは電力が大きすぎてポータブル電源で電源を確保するのは現実的ではない。この製品は500Wまでの小型家電への電力供給ができるが、最新の冷蔵庫は消費電力が小さいとはいえちょっと厳しい。また、炊飯器でご飯を炊こうとすると一回の炊飯で10%以上を消費してしまう。やはり小型家電が対象と考えるべきだ。

非常時に電子レンジが使えればどんなに心強いかとも思うが、それはちょっと難しい。何十年前から、いつかは電子レンジはスーツケースに入るようになって出張先で役立つようになるはずと思っていたが、今なお、それはかなわない。だから非常時の利用は難しい。

  • 側面にはライト。不意の停電でも辺りを照らせそうだ

一度も役立つことなく終わることが望ましい

情報家電でAC電源に頼っているものは、居宅内のルータと固定インターネット回線のための光終焉装置くらいだ。これらの消費電力はさほどではない。電力が遮断されている非常時にも回線が使えるなら重宝しそうだ。それが切れた場合はスマホのテザリングに頼る。

これ以外には液晶テレビの消費電力が想定内に収まっている。多くの過程では50型クラスのテレビを使っていると思うがそれでも100Wを少し超える程度だ。視聴時間を最小限に抑えれば実用になるはずだ。

それに、そんな非常事態時には、インターネットを介してオンデマンドでテレビ放送がIPサイマル放送されているだろうから、家庭用テレビに固執しなくてもいいが、通信設備と放送設備の電力事情がどうなるのかは災害が起こってみなければわからない。いずれにしても電力さえ確保することができれば情報収集には不便がないはずだ。

とりあえず、今の生活で、水とカセットコンロについては数週間の生活に耐えられるくらいは備蓄している。残りは電力だというわけで、諸条件にマッチする機能を備えた製品として、Anker PowerHouse II 800は、かなりストライクに近い製品だといえる。

こうした防災グッズは、日常的にはその存在を忘れていて、万が一の事態のときにあってよかったと思うくらいに役立つのがいいし、本当にいいのは、まるで必要を感じず、一度も役立つことなく、そのライフサイクルを終えることだ。