スマートフォンの誕生からほぼ10年。よくもまあ、これほどの長い間、液晶画面を持つ平たい板というシンプルなフォームファクタに、さまざまな個性を盛り込んできたものだ。工業デザインというのはすごいと感心する。ノートパソコンのクラムシェルフォームファクタも何十年と変わり映えしないという点では同様だが、こちらは2in1などのバリエーションが出てきている。
次はスマホが変わる番なのか。先日、スペイン・バルセロナで開催されたMWC19では、多くのベンダーからフォルダブルスマホが発表された。液晶画面を持つ平たい板という点では既存のスマホと何も変わってはいないが、それを二つ折りにできる。
スマホはポケットに入らなければいけない
今のところ、二つ折りにする目的は、大きな画面をコンパクトに携帯するためだ。
かつてのガラケー時代には、テンキーボード部分と液晶部分を分離した二つ折りケータイが人気だった。まさにパソコンのクラムシェルと同じだ。
ただ、今のスマホにはキーボードがない。それを二つ折りするには、液晶を曲げなければならない。二画面にするという手もあるが、それでは没入感がスポイルされてしまう。液晶を二つ折りにするための技術的なハードルを越え、さらに、工業デザインの粋を集められたベンダーが製品を披露できたわけだ。
スマホの画面は大型化の一途をたどっていた。当然、画面が大きくなればボディも大きくなる。ベゼルを極限まで狭くすることで、本体の大型化を多少は抑制したものの、それには限度がある。このままいけば、スマホではなくタブレットカテゴリに入ってしまいそうな勢いだった。
だが、大きくても二つ折りにできればコンパクトになる。スマホはポケットに入らなければならないという宿命がある以上、大きいことと小さいことという、その相反する要件を満たすための現時点での着地点だ。
画面を大きく、サイズは小さく
MWC19では各社ともに、製品をガラスケースに入れて展示していた。HUAWEIのMate Xも同様だったが、同社日本・韓国リージョンのプレジデント、呉波氏のインタビューの際に、同社が今年半ばに発売を予定しているMate Xを実際に手に取って操作させてもらうことができた。二つ折りで5G対応という、今のところ全部入りの最新スマホである。
基本的な考え方は、今のスマホの画面をもっと大きくすることにある。閉じて6.8型、開いて8型となる。8型スクリーンは2,480×2,000なので、縦横比は4:3.2といったところ。ほぼスクエアなタブレットとなる。逆にいうと、8型スクエアタブレットを折りたたんでスマホライクに使えるようにしたともいえる。
このくらいのサイズ感ならWordやExcelもそれなりに実用的に使えるだろうし、5Gネットワークが整備されれば、Windowsをリモートデスクトップで使うのもありだ。文字を大きく表示させても情報量が確保できるので、今後の高齢化社会にも優しい。キックスタンドを使って自立させ、外付けキーボードやマウスで操作するようなスタイルも一般的になる可能性が高い。
その先には、今のスマホの画面サイズをそのままに、半分に折りたためるようにして、携帯性を高めたいというニーズもあるだろう。いろんなことが、ここからスタートする。
タブレットやPCの存在意義が問われる
スマホフォームファクタの新しいトレンドは、PCやタブレットの世界にもそれなりのインパクトを与えるにちがいない。8型タブレットや軽量モバイルパソコンの存在意義も問われることになるだろう。
LGは2019年初のCESで、gramパソコンシリーズに17型のフォームファクタを加えた。1,340gのボディで17型大画面はちょっと衝撃的だった。二つ折り液晶でスマホの利便性が高まれば、必然的にパソコンへの要求はもっと高いものになる。大画面あってこそのパソコンということで大型化の波がくるかもしれない。
かつての「軽薄短小」トレンドは、こうして「軽薄巨大」トレンドへと推移していく。今年はその始まりの年だ。
(山田祥平 http://twitter.com/syohei/ @syohei)